北海道の天然記念物である更別湿原のヤチカンバ保全に関し、北海道教育委員会に以下の要望書を送付しました。
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2016年1月21日
北海道教育委員会
教育委員長 様
教育長 様
十勝自然保護協会
共同代表 安藤 御史
佐藤与志松
北海道天然記念物「更別湿原のヤチカンバ」保全についての要望
当会は、2014年10月6日付で北海道教育委員会(教育委員長・教育長)あてに「更別村『更別湿原ヤチカンバ群生地』の保全についての質問書」を提出しました。その中で当地のヤチカンバが乾燥化にさらされ危機的な状況にあることから、指定者である北海道教育委員会と管理者である更別村(教育委員会)とに保全の対策を求め、その一つとして「専門家による学術的な調査を早急に行う必要がある」との当会の見解を述べました。
これに対する同年11月17日付回答の中で、「村教委としては来年度以降、土壌などの調査の実施を検討しており、道教委ではそれらの経過を見ながら、必要に応じ、北海道文化財保護審議会委員(専門家)による現地調査を行うなど、村教委と協力して対応策等を検討していきたいと考えています」との見解が述べられました。
当会はさらに2015年5月9日付で貴委員会教育長あてに2015年度を含め今後の事業について質問しました。その中で日本におけるヤチカンバのもう一つの自生地である別海町西別湿原の保全と合わせた専門家による学術的な調査組織を立ち上げる具体的な動きを尋ねましたところ、同年5月20日付で「ありません」との回答を受けました。
また、当会は2015年5月、更別村教育委員会に対し、2015年度を含め今後の保全事業について質問書を提出しました。回答では、保全事業について「移植苗に関わる調査、ヤマナラシ・シラカンバの除去の方策」などが説明され、合わせて「財政状況等によって実施が難しい」、「道や関係機関等の支援も得ながら進めて行ければ」との説明があり、また、当会の提起した「専門家による学術的な調査」については、これも「道や関係機関等の専門家のご指導とご協力を得ながら、保全事業を進めていければ」との説明がありました。
6月には、当会役員と植物研究者が移植苗の現況を指定地など4か所で視察し、村教委担当者の説明を受けました。
12月には再度村教委にその後の状況をうかがっていますが、「進入を禁止する看板を新たに設置」など以外大きな進展はありません。
なお、別海町教育委員会では西別湿原ヤチカンバ保全に関し昨年4月に「保護検討対策委員会」を立ち上げ、8月には大原雅氏(道文化財保護審議委員)ら6氏を委員に委嘱したとの情報を得ています。
当会は以上の状況を踏まえ、移植苗の育成は系統保存としては意味のあることだが、天然記念物としてのヤチカンバ群落保護を考えるならば、指定地内での天然更新こそが基本であり、その方策をこそ今考えるべきであるとの立場から、「更別湿原のヤチカンバ」の保全に関し指定者として貴委員会の積極的な関与を求め以下の要望をいたします。
1 ヤマナラシ・シラカンバなど侵入樹木の除去には希少種への影響を考慮することもあり費用を要します。地元への財政的な支援をしていただきたい。
2 更別村教育委員会には学芸員等の専門職員が不在です。専門家の指導協力を強化していただき、学術関係者による調査検討機関の設置について財政的な支援も含め積極的に関与していただきたい。とくに、西別湿原ヤチカンバ保全と連携させる方策を考えていただきたい。
3 ヤチカンバの実生の生育を大きく妨げている原因は乾燥化により侵入しているミヤコザサの繁茂です。現状ではミヤコザサを地掻きなどで除去することは極めて困難であり、地下水位上昇によって衰退させるのが有効であろうと考えます。乾燥化の歴史的原因はこの一帯の排水事業によるものであることは明らかです。指定地区の地下水位上昇のための「自然再生事業」の検討を国土交通省・北海道開発局に要請するなどの方策を考えていただきたい。
以上について貴職のご見解をうかがいたいと考えます。
ご多忙とは存じますが、2月29日までにご回答をいただきたくお願いいたします。
以上