カシワ林持続の秘密は萌芽株バンク
若原正博氏の講演会「カシワ林をもっと知ろう」が、4月20日に当会の主催により帯広市のとかちプラザで行われた。会場一杯の80名余りが参集し盛況であった。
40年ほど前の春、十勝の地にやってきた私の目には、十勝バスの野暮ったい黄褐色の車体と枝に沢山の褐色の葉をつけたカシワが奇異に映った。
カシワ林に覆われる十勝の洪積台地(段丘面)は、サクセッション(植生の遷移)説からすると、針広混交林や複数の樹種からなる落葉広葉樹林になって然るべきだと思えた。だから陽樹のカシワが純林でありつづけることが不思議でならなかった。当時友人とも議論したがわからぬまま時が過ぎた。
今回、若原さんの講演を聞いてようやくこの疑問が解けた。カシワ林は林床に1ha当たり1万株もの萌芽株バンクを持っている。林冠を形成する大径木が風害などによって枯死すると、その下にある萌芽株がいち早くその後継樹となる。そこには他の樹種が入り込む余地はない。これがカシワ林でありつづける秘密だったのだ。
カシワのドングリの生産数はミズナラにくらべるとはるかに少ない。これも以前から気になっていたことである。若原さんの調査地では1ha当たり250本のカシワのドングリ生産数は年当たり5万粒だという。つまり1本のカシワのドングリ生産数は200粒に過ぎないのだ(ミズナラなら、ゆうに10倍を超えるだろう)。あり余るほどの萌芽株があるから、無闇にドングリをつける必要がないということらしい。
カシワは英名ではDaimyo oak 大名オークという。こんな立派な名前を持っているのだが、材は枕木として使われた。カシワの材質の悪さ、これもかねてよりの疑問であった。先日、小池孝良氏の「銘木を産む広葉樹5種の生産環境」(北方林業2013年4月号)を読んだら、この疑問を解く手がかりが得られた。「ミズナラのような環孔材では、・・・成長がよいと年輪幅が広く、イシナラと呼ぶ硬い材になって、乾燥の過程でひび割れが生じる」というのだ。カシワは、交雑するほどミズナラと近縁な種で、光をさんさんと浴びて育つことが多い。そのため、年輪幅が広く、硬い材となってひび割れやすくなるのだろう。それで高価な家具材としては使えず、枕木の地位に甘んぜざるを得なかったのだ。
最後に若原さんの印象的な話しを紹介したい。カシワの孤立林は林縁部(エコトーン)と核心部(コア)からなる。林縁部を伐採するだけならカシワ林に大きなダメージを与えないと思う人がいるとしたら、これは間違いで、コア部分にエコトーンができてしまい、コアにも大きな影響を与えるというのだ。物事をきちんと理解しないで、思い込みで伐採するととんでもない過ちを犯すことになる。
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