シンポジウム「大雪山国立公園トムラウシの地熱発電計画を問う」報告

十勝自然保護協会

2015年04月21日 11:24




 4月18日に新得町で「シンポジウム大雪山国立公園トムラウシの地熱発電計画を問う」が開催され、在田一則氏(北海道自然保護協会会長)、寺島一男氏(大雪と石狩の自然を守る会代表)、辻村千尋氏(日本自然保護協会保護部主任)の講演が行われました。シンポジウムには約80人が参加し、後半のディスカッションでは多くの方から質問や意見が出され盛会に終わりました。また翌19日には帯広市で辻村千尋氏による講演会が開催されました。
 以下にシンポジウムの講演要旨を掲載します。

地質学から見た地熱発電  在田一則
 地球は現在も活発に活動している熱機関である。その熱源は、地球深部に残っている地球誕生時(46億年前)の熱と岩石に含まれている放射性元素の崩壊による熱とがほぼ半々であり、そのエネルギーによってプレート運動が生じ、その結果、火山活動や地震活動が生じ、大山脈が形成される。
 地球深部から地表に運ばれてくる熱(地殻熱流量))は平均的には40~70mW/㎡程度であり、地球が太陽から受ける熱の約1/2,500に過ぎない。しかし、これは、岩石の熱伝導から産出されるものであり、大洋の中央海嶺や島弧などの火山帯においてはマグマやそれに関連する熱水系が、局所的ではあるが、地球内部の熱(地熱)を運ぶうえで重要な役割を果たしている。
 たとえば、太平洋中央海嶺上にあり、さらにホットスポットでもあるアイスランドは地熱が豊富で、電力供給の26%が地熱発電によっており、地熱発電の宣伝によく使われる。ただし、人口はたったの32万人であることに注意すべきである。
 太平洋プレートやオホーツクプレートがユーラシア大陸に沈み込むことによって、火山活動が活発な日本列島では、自然再生エネルギーである地熱も利用すべきであるが、世界的にも優れた生物多様性に富む日本では、設置場所などについて十分検討すべきである。
 講演では以下の内容についてお話する予定です。
  地球は熱機関である/地熱の熱エネルギーがもたらずプレート運動/地球・日本の地殻熱流量/マグマと熱水系/熱水系における循環/地熱発電の課題

地熱発電の仕組みと白水沢の現状  寺島一男
 地熱地帯でもうもうと白煙を上げ自噴する水蒸気を見ると、誰しもエネルギーとして有効利用できないものかと考えます。膨大な地熱が地球内部に存在し、火山活動によってその現象が地表に現れているとするなら、世界きっての火山国である日本は無尽蔵のエネルギー資源を抱えていることになります。
 もし、発電として利用するなら、季節に関係なく昼夜にとらわれず安定したベース電源を確保でき、しかも他の自然再生可能エネルギーと組み合わせて利用すれば、原発などに依存せずに安心して使うことができます。一律で画一的な発電源に頼るのではなく、それぞれの地域に依存した地産地消の多様なエネルギーを形成し、地域振興にも役立たせることができます。今地熱発電に関してこのようなことが語られています。果たして本当でしょうか。これらの言葉を額面通りに受け取れば、地熱発電に対する期待は大きく膨らみ、不安をかき立てているエネルギー問題にも一条の光が射し込んでいるように思われます。しかし、現実はすべてがバラ色の夢だとは言いませんが地熱発電開発にはたくさんのデメリットもあり、多くの問題や課題が横たわっています。そのギャップは私たちが想像する以上に大きいと考えられます。
 自然現象として地熱活動が現れているときは、それは私たち人間にとっては尽きることのない現象ですが、いったんエネルギーとして活用するために施設化すれば、その時点から施設とエネルギーに寿命が生じ、環境の変化が起こります。また、地熱発電開発の多くは、国立公園や国定公園というわが国を代表する優れた自然の中で行われます。その価値との見合いはどうなるのか。これまでのエネルギーの大量生産・消費・廃棄等が、地球環境の危機を招くまでに至っている中で、また、大幅な人口減少が予測されている中でこれまでと同様のエネルギー確保が必要なのか、トータルな議論も必要と思われます。
 これらのことを念頭に、地熱発電における電力のしくみと問題点について、また、大雪山国立公園ではトムラウシ地熱発電計画と同様に白水沢でも計画が進んでいることから、その現状についてもお話したいと考えています。

国立公園における地熱開発の規制緩和の経緯と問題点  辻村千尋
 地熱発電は、持続可能な再生可能エネルギーもしくは、純国産エネルギーと認識され、今後のベース電源としての期待が高まっている。しかし、その開発可能地域の多くが国立公園として自然保護が優先される地域に存在している。演者は、環境省により地熱発電開発の国立公園での取り扱いを検討した委員会に専門家としてヒアリングを受けたが、その際に、地熱発電が自然環境に及ぼす悪影響について、科学的に指摘をし、国立公園での開発はするべきではないと提言した。
 今回は、このヒアリングの際に提言した内容と、その後の環境省の通知が見直される過程において科学的な議論が軽視された経緯を明らかにしたい。同時に、今後の電力供給に関する方向性についても議論のきっかけになるような問題提起をさせて頂く。

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