とかち帯広空港敷地内のアースハンモック保存についての要望書

十勝自然保護協会

2021年12月26日 22:01

 十勝帯広空港敷地内のアースハンモック(十勝坊主)の保存についての要望書を帯広市長に提出しました。
 なお、この件については12月8日に市議会議長あてに陳情書を提出し、12月16日に経済文教委員会に付託されました。

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2021年12月22日
 

帯広市長 米沢 則寿 様

十勝自然保護協会 共同代表   安藤 御史
佐藤与志松
市民フォーラム十勝 事務局長  髙倉 裕一



帯広市泉町とかち帯広空港敷地内アースハンモック(十勝坊主)が市にとって重要なものとして保存および活用のために必要な措置を講ずることの要望

 標記の件について、下記のとおり要望いたしますので、ご検討いただきますようよろしくお願いいたします。



1 物件の名称
アースハンモック(十勝坊主)

2 物件の所在地
帯広市泉町西8線(とかち帯広空港滑走路西側林内市有地)

3 物件の概要
(1)アースハンモック(十勝坊主)について
 小疇尚氏(明治大学名誉教授)は次のように説明しています。
 「アースハンモックは短茎草本や矮小灌木類におおわれた、径1~2m前後、高さ数十㎝の土饅頭で、周氷河地形のひとつ構造土の一種である。世界的には永久凍土帯から季節凍土帯まで周氷河地域に広く分布し、日本では大雪山、羊蹄山、北上山地、南アルプスの高山帯で分布が知られている。日本の低地では十勝平野で初めて発見され、『十勝坊主』と名付けて報告された(山田、1959)。」
 1950年、帯広畜産大学の山田忍氏と田村昇市氏による発見場所は、当時大正町の、現在の帯広空港があるところであり、まさにここが十勝坊主研究の発祥の地です。
(2)調査研究の経緯
 十勝自然保護協会は2016年以降、十勝管内のアースハンモックについて、上記、小疇尚氏ら複数の研究者と共同調査を行ってきました。
 そして、帯広市泉町のアースハンモックに関し、帯広市の許可を得て、とかち帯広空港敷地内で温度センサーなど機器を設置して調査を継続し、2020年3月に刊行された帯広百年記念館紀要第38号で論文「帯広市泉町のアースハンモック(十勝坊主)」が掲載されました(別添)。
(3)泉町空港アースハンモックの特徴
 更別村にもいくつかの分布域もあり、とくに帯広・更別一帯(旧イタラタラキ原野)はかつて広い分布地で、空港開港前は一帯に極めて多数のアースハンモックが存在していたと考えられます。空港東側は「以平町」ですが、この以平はアイヌ語「イタラタラキ(itarataraki)」に由来するとの説があり、その意味するところは「でこぼこがあるところ」とされています。かつてはアースハンモックが広範囲に分布していたと考えられます。
 まさにこの地域は「十勝の原風景」が残っているところと言えます。
 現在は、空港敷地の南西部分にのみ残存しています。推定、数千個あり、多くは大型で整った形状をしています。樹林化がいくつかの区域で進んではいますが、樹林化されていないアースハンモックが明瞭な区域もいくつかあります。
 西側に隣接する民有地には、推定1万個ほどの大型で整った形状のアースハンモックが分布していましたが、2019年に地権者が代わり、現在は平地化されてすべて消滅しています。
 しかし、この民有地が平地化されアースハンモックが半減したとはいえ、この地域は面積と個数において依然として日本最大の密集地と考えられます。
(4)帯広市内のアースハンモック分布地
 帯広市内平地で現在確認されているアースハンモック分布地は空港を含め4か所です。空港以外の3か所は、今後の状態に関してそれぞれ難点があります。
 その特徴などを以下に記載します。
帯広畜産大学(稲田町)
①1974年に北海道が指定文化財天然記念物に指定しています。100個ほどで大型ですが、現在は、全域にわたって樹林化しており、多くの形状が損なわれ極めて不明瞭になっています。
②空港南側カシワ林内(泉町)
 民有地にあり、その規模は300m×500m。ほぼ全域が樹齢60年ほどの大径木のカシワ林となっています。大型で形状はまだ明瞭であるものが多く、広大な分布地ですが、民有地であるために、この状態が維持されるかはまったく不明です。
③富士町
 民有地にあり、規模は100m四方に形状が明瞭なものが30個ほどあります。自然に関心がある個人の土地内の一角に保存されていますが、今後、この状態が維持されるかは不明です。

4 空港敷地内アースハンモックの保存の意義
 当該地のアースハンモック(十勝坊主)は、現在は活動しておらず、現在の気候環境からは、この土地で新たにアースハンモックが形成されることはないと考えられ、「絶滅危惧地形」と言っても過言ではありません。ひとたび破壊されると再生することのない自然物であります。
 このように低地で大規模に残っていることは貴重な「地形の標本」であり、次世代にも単なる「用語」としてではなく「実物」を伝えるべきものと考えます。
 さらに、山田忍氏らによる低地でのアースハンモック(十勝坊主)が発見され、その研究が行われた最初の地域でもあり、保存は意義深いものがあります。
 空港敷地内という安全保安上厳しい場所ではありますが、多くの市民や管内外の方々が観察できるような措置も工夫されて、教育上広く活用されることが望ましいと考えられます。
 以上のことから、極めて文化的価値が高い空港敷地内アースハンモックは、帯広市にとって重要なものとして次世代に伝えるべく、保存および活用が必要と考えます。
 その貴重性から公的な保存の必要性を訴えて、十勝自然保護協会は2019年度に以下の関係部署に説明をし、保存の申し入れをしています。
 2019年10月30日 帯広市教育委員会生涯学習部文化課(係長、主任補)
 2019年11月6日 帯広市商工観光部空港事務所(所長、副所長、主幹、主査)
 また、2020年10月、十勝自然保護協会と市民フォーラム十勝はそれぞれ帯広市教育委員会教育長宛に要望書を提出しています。また、同趣旨の要望書が、もう一つの団体から提出されています。しかしながら、市教育委員会は、当該地の所有者である帯広市から保存の要望が出ていないことを最大の理由として、議論の俎上に全く載せられておりません。
 とかち帯広空港の所有者は帯広市です。
 所有者として当該物件の貴重性を評価していただき、保存および活用の意思を表示し、そのための必要な措置を講ぜられることを要望いたします。

5 添付書類
・「帯広市泉町のアースハンモック(十勝坊主)」2020年帯広百年記念館紀要第38号
・十勝管内の十勝坊主調査(調査研究者・調査共同協力者・管内分布地)
・十勝坊主の写真
・空港敷地内の十勝坊主の状況

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