十勝川水系河川整備計画(案)に当会の意見は反映されたか(4)

十勝自然保護協会

2010年07月13日 17:33

5.基本高水のピーク流量
 洪水防御に関する計画の基本である洪水のピーク流量(基本高水のピーク流量)について当会は、以下のような指摘をしました。

 十勝川水系河川整備計画原案(以下、原案という)によると、帯広地点における基本高水のピーク流量および計画高水流量は、昭和41年にそれぞれ4800㎥/s、4100㎥/sに設定され、その後昭和55年にそれぞれ6800㎥/s、6100㎥/sに大幅に引上げられた。そして、この数値は、「検証のうえ踏襲し」ているとして、現在も引き継がれている(21頁)。
 しかし、昭和55年の大幅な引上げの理由について、原案では「昭和47年9月洪水を契機として、流域の開発の進展、特に中流部における人口・資産の増大を踏まえ」(16頁)と記述されているに過ぎない。
 また、10月8日の音更町での説明会では、昭和55年の大幅引上げの根拠についての質問に対し、福田計画官は、過去の洪水を踏まえて、と原案に書かれていることを述べた。しかし、昭和41年から昭和55年までの間の帯広地点での最大流量は、昭和47年9月洪水の2880㎥であり(表1-2)、大幅な引上げの根拠とはならないと指摘されると、原案に明記されていない、1 50年に1度の降雨量から設定したと説明した。
 原案に述べられているように、洪水のピーク流量(基本高水のピーク流量)は、洪水防御に関する計画の基本である(18頁)。それにもかかわらず、この原案において、この数値の算出根拠が十分説明されていないのは、この河川整備計画の根幹にかかわる重大な問題である。
 よって当会は、この数値が過大に見積もられた洪水ピーク流量ではない、という科学的根拠を示すことを求める。なぜなら、洪水ピーク流量が過大に設定されるならば、洪水対策と称して無駄な公共土木工事が営々と行われることになるからである。

 さらに具体的に根拠を示すことを求めました。

 ピーク流量を設定するにあたって、その根拠とする数値が書かれていないということです。十勝川水系では150年に一度の確率で起こる洪水に備えた河川整備をすることになっています。ですから150年に一度の降雨確率の3日間降雨量を何ミリにしているのか、また時間あたりの降雨量を何ミリにしているのかということが明らかにされなければなりません。これは非常に重要なことです。なぜなら、3日間の総降雨量が同じでも、短時間に集中的に降るパターンと分散して降るパターンではピーク流量が違ってくるからです。総降雨量が150年に一度の降雨確率であっても、集中的に降るパターンで計算したならピーク流量は大きくなります。しかし、そういう降りかたをする確率は150分の一よりはるかに小さくなります。ならば、150年に一度の降雨確率というのは、まやかしということになります。時間降雨量を多くすることでピーク流量を大きくすることができ、過大な整備、すなわち無駄な公共事業をつくりだすことになるのです。こうした不透明な数値操作によるピーク流量が、ダムその他の治水対策の根拠となって、多くの税金がつぎ込まれてきました。
 整備計画原案に、基本高水流量を決めたさいの根拠となる数値が書かれていないということは、科学的な検証に耐える計画ではないということです。

 これに対し、開発建設部は次のような見解を掲載しました。

 河川整備基本方針は、治水安全度の全国バランス等を考慮しつつ、長期的な視点に立って定める河川整備の目標であり、その内容の客観性及び公平性を確保するため、十勝川などの一級河川においては河川について専門的知見を持った学識経験者等から構成された社会資本整備審議会の意見を聴いて、国土交通大臣が定めるものです。平成19年3月に策定した河川整備基本方針は、このような手続きを経た上で、昭和55年に改定した十勝川水系工事実施基本計画の流量を検証のうえ踏襲し、上流基準地点帯広においては基本高水のピーク流量を6,800m3/sとし、洪水調節施設により700m3/sの調節を行い、計画高水流量を6,100m3/sとするとともに、下流基準地点茂岩においては基本高水のピーク流量15,200m3/sとし、洪水調節施設により1,500m3/sの調節を行い、計画高水流量を13,700m3/sとした(P.21)ものです。

 平成19 年の河川整備基本方針の策定時における流量の検証は、以下に示すとおりです。
・年最大流量と年最大降雨量の経年変化から、昭和55年の計画策定後に、計画を変更するような大きな出水が発生していないこと。
・近年のデータを含めて流量を確率処理して検証した結果、1/150確率で起こると想定される流量は下記のとおりであること。
帯広基準点( 6,800m3/s):1/150確率の流量の推定範囲は 6,000m3/s ~ 7,400m3/s
茂岩基準点(15,200m3/s):1/150 確率の流量の推定範囲は12,100m3/s ~15,600m3/s
・既往洪水からの検証として、既往洪水の降雨でも洪水前に流域が湿潤状態であったと仮定した場合には、基本高水のピーク流量を上回る流量が起こりうること。
帯広基準点:昭和56 年8 月の降雨で約 7,900m3/s と推定
茂岩基準点:大正11 年8 月の降雨で約16,900m3/s と推定
・以上の検証により、既定計画の流量を踏襲することとしたものです。

 開発建設部は、基本高水のピーク流量をどのような手続きで決めたかについては、説明したのですが、もっとも肝心な、どのような確率処理をして決めたかという核心部分については、まったく説明していません。ここを明らかにしなければ科学的議論に耐えられないのですが、科学的議論に耐えられないから、明らかにできないということなのでしょう。
 このように、当会の指摘した洪水防御に関する計画の基本である洪水のピーク流量(基本高水のビーク流量)の疑問に答えられない十勝川水系河川整備計画(案)は、科学的な検証に耐える計画ではないということです。


関連記事