北海道電力が新得町の十勝川上流で進めている新得発電所建設計画の環境影響評価方法書に、当会と北海道自然保護協会は連名で意見書を提出しました。
新得発電所建設計画環境影響評価方法書への意見書
Ⅰ.方法書の不備について
新得発電所建設計画環境影響評価方法書(以下、「方法書」)には、不備があるので指摘する。
1.「動物の注目すべき生息地」について
方法書72頁の「ハ.動物の注目すべき生息地の概要」で、「動物の注目すべき生息地について既存資料により整理した結果、対象事業実施区域及びその周辺には確認されなかった」と記述しているが、これは事実誤認である。
北海道の環境影響評価技術指針(以下、「技術指針」)には、動物の注目すべき生息地について以下のように記されている。
b 「植物」及び「動物」に区分される環境要素に係る選定事項
陸生及び水生の動植物に関し、生息・生育種及び植生の調査を通じて抽出される学術上又は希少性の観点から重要な種の分布、生息・生育状況及び重要な群落の分布状況並びに動物の集団繁殖地等注目すべき生息地の分布状況について調査し、これらに対する影響の程度を把握すること。
つまり技術指針では「動物の集団繁殖地等」とし、集団繁殖地だけでなく注目すべき生息地の分布状況について調査することを求めている。
事業者は「対象事業実施区域及びその周辺」について、方法書22頁で「対象事業実施区域及びその周囲における自然的状況及び社会的状況(以下「地域特性」という。)については、主な調査地域を対象事業実施区域の位置する新得町とし」としている。つまり、「その周辺」と「その周囲」と言葉の乱れがあるが、事業者は主な調査地域を新得町としている。
したがって、事業者は新得町に動物の注目すべき生息地はないと主張していることになる。しかし、新得町にはシマフクロウ・ナキウサギ・イトウなどの注目すべき生息地があり、事業者の事実認識は間違っている。事実に即して修正しなければならない。
2.「植物の生育状況」について
方法書73頁の「植物相の概要」は第3.1‐36表に高山植物が含まれていることからわかるように新得町全域を対象としている。しかし74頁の「植生の概要」は第3.1-16図から明らかなように新得町全域を対象としていない。つまり植物相と植生で対象範囲が異なっている。このように取り扱う理由をきちんと説明しなければならない。
3.「植物の重要な群落の概要」について
方法書82頁で「植物の重要な群落について、既存資料により整理した結果、対象事業実施区域及びその周辺には確認されなかった」としているが、前述のように事業者は「主な調査地域を対象事業実施区域の位置する新得町とし」ているのである。新得町には国の特別天然記念物「大雪山」が所在し、ここには高山植物群落や高層湿原がある。さらに十勝川源流部には原生自然環境保全地域に指定された針葉樹林群落がある。これらの重要な群落を無視する理由を説明しなければならない。
4.「生態系の状況」について
方法書83頁の「(3)生態系の状況」で、十勝川水系の河川の生態系の構成要素としてカゲロウ、トビケラ、ルリイトトンボ、エゾサンショウウオ、エゾアカガエル、ニジマス、ハナカジカ、カワガラス、ヤマセミ、オジロワシを挙げているが、十勝川上流の河川生態系においてシマフクロウやイトウが重要な位置を占めることは周知の事実である。つまりこの方法書には十勝川水系の河川生態系の重要な構成要素が欠落しているのである。したがってシマフクロウとイトウを記述するとともに、第3.1-17図食物連鎖模式図も改めなければならない。
Ⅱ.隠蔽の繰り返しについて
十勝自然保護協会は2011年の新岩松発電所新設工事に際しての環境影響評価において、事業者である北海道電力がシマフクロウの生息事実を隠して手続きを進めようと画策したことを厳しく批判した。この批判を真摯に受け止めその後の環境影響評価に生かされることを期待したが、今回もシマフクロウとイトウの生息事実を隠蔽する方法書が作成された。このようなアンフェアな行為の繰り返は道民を侮るものである。自然環境に多大な負荷を懸けながら事業を行なっているということを肝に銘じ、事実を隠蔽することなく公正な環境影響評価をするよう求める。
以上