電源開発は、幌加調整池(上士幌町)の堆砂対策として通砂バイパストンネルの設置工事を計画しています。当会は2022年3月6日に事業計画について説明を受け、その後、環境調査等について面談・書面でのやり取りを行い、最終的に7月4日に要望書を提出、7月12日に回答がありました。要望書と回答を掲載します。
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2022年7月4日
電源開発(株)水力発電部 東日本支店
上士幌電力所長 田畑 宏司 様
十勝自然保護協会
共同代表 安藤 御史
佐藤与志松
幌加調整池通砂バイパストンネル工事についての要望書
幌加調整池通砂バイパストンネル工事について、これまでの貴社からの説明を踏まえ、以下の要望をいたします。
1.幌加ダムでは竣工後7年目の1972年に110,800立方メートル、その9年後の1981年に106,000立方メートルの堆砂を記録しています。この堆砂量は貴社が言うところの「4台風」が襲来した2016年より多くなっています。国交省によると、幌加ダムでは2018年度に465,000立方メートルの堆砂があったとされ、総貯水容量に対する堆砂量の割合は北海道のダムではトップクラスとなっています。このように竣工直後から多量の土砂が堆積する幌加ダムはダムに不適格な立地であると言わざるを得ません。堆砂対策を考えるに当たり、このようなところにダムを存続させるべきかについて、撤去も含め十分検討すべきであると当会は考えています。これまでの堆砂状況から今後も多量の堆砂が続くと推測されますし、貴社からは通砂バイパストンネル工事を行ってもダンプによる堆砂除去が必要であるとの説明がありました。したがって、通砂バイパストンネルは堆砂対策として十分とは言えない可能性があります。その様な場合には幌加ダムの撤去も含めた検討が必要になると考えます。
2.貴社は「幌加ダム地点は、もともと小規模な滝地形ということもあり、ダムの建設以前からダム地点下流より上流への魚の遡上は困難な場所であったと考えております。」としていますが、幌加川の上流域にはムハンオショロコマの存在が知られております(町野陽一・宮内博三.1997.大雪山系からのムハンオショロコマ(salvelinus malma).ひがし大雪博物館研究報告25号)。この小さな滝を乗り越えオショロコマが上流にも分布していたと考えられます。貴社が希望するように通砂バイパスを通し、幌加ダムを存続させるというのであれは、魚道をつけるべきです。魚道の設置は流路を寸断したものが果たすべき責務であると考えます。
3.幌加ダム周辺にはオジロワシ・クマタカなどの猛禽類が生息しており、貴社がこれまで行ってきた堆砂除去作業も猛禽類の繁殖期を避けていました。工事にともなう騒音や車の往来など繁殖への人為的影響が懸念されます。モニタリングをしながら工事を行うと説明がありましたが、何等かの影響が生じてから対策をするのでは遅すぎます。オジロワシ・クマタカの繁殖期は工事を避けるよう求めます。
4.貴社は「生態学的混播・混植法による復元も検討することとする」としていますが、この手法は植生の遷移に基づいておりません。どのように植生が移り変わるかを踏まえたうえで、原植生の復元を目指すよう求めます。
なお、以上の要望については、環境省上士幌管理官事務所管理官に通知することを申し添えます。
以上
上 電 発 第69号
令和4年7月12日
十勝 自然保護協会
共同代表 安藤 御史 様
佐藤 与志松 様
電源開発(株) 水力発電部 東日本支店
上士幌電力所長 田畑 宏司
「幌加調整池 通砂バイパストンネルについての要望書」について(回答)
記
(1)通砂バイパス トンネル設置後もダンプによる堆砂除去が必要であるとの説明があり、堆砂対策として十分とは言えない可能性がある。
そのような場合には幌加ダムの撤去も含めた検討が必要となると考える。
国産エネルギーの乏しい我が国においては、再生可能エネルギーである水力発電による電力の安定供給は、発電事業者の重要な責務と考えております。
ご指摘の通砂バイパストンネル設置後のダンプによる堆砂除去の可能性については、先日ご説明差し上げた通り、2016年 にあつた災害クラスの大出水では、分派堰を越えて調整池内に流入する可能性を否定できないため、この場合にはダンプによる堆砂除去が必要となります。
しかし、このような災害クラスの大出水であっても、通砂バイパストンネルにより、調整池内への土砂の流入は大幅に軽減できるために、早期復旧や電力の安定供給には大きく寄与できるものと確信しております。
通砂バイパストンネルの設置後も、堆砂測量および河川環境のモニタリングを継続することとしており、これらの結果を踏まえて継続的にバイパス運用の改善を図って参ります。
(2)通砂バイパスを通し、幌加ダムを存続させるのであれば、魚道をつけるべきであると考える。
水力発電事業の運営においては、環境との調和は重要な観点であると認識しております。
幌加地点においては、通砂バイパストンネルを設けることにより、ダム下流河川環境の改善や、堆砂の掘削運搬のためのダンプトラック台数の削減など、環境負荷の低減が図られます。
加えて、ご指摘の魚道については、更なる河川環境の改善のための対策と認識しております。幌加地点では、今後も水生生物および魚類の生息状況を含めた河川環境のモニタリングを継続して行うこととしており、これらの結果を踏まえて、更なる対策の必要性を含め、有識者および河川管理者のご指導を仰ぎながら検討して参ります。
(3)これまで行ってきた堆砂除去作業も猛禽類の繁殖期を避けてきた。通砂バイパストンネルエ事においても、オジロワシ・クマタカの繁殖期には工事を避けるよう求める。
幌加調整池における堆砂の掘削・搬出作業については、気温が下がり調整池内の堆砂が凍結し重機の立入りが可能となる12月~3月で現場作業を行っておりました。
今回の計画にあたり、これまでに環境調査を実施し、通砂バイパストンネル設置箇所といずれの営巣場所とは1,000m以上の離隔距離が保たれていることを関係行政、有識者および貴協会とも情報共有して参りました。
これらの環境調査に基づき有識者のご指導を受けながら工事計画を立案して参りました。今後、工事期間中もモニタリングを継続し、得られた情報と結果をもとに環境対策の効果および改善点などを評価し、有識者のご指導を頂きながらPDCA管理を継続実施して参ります。
通砂バイパストンネルエ事については、上記のように適切な環境対策、モニタリング、PDCA管理を確実に行うことで、周辺環境に配慮しつつ工事を実施することにより、周辺環境への影響を最小化することを目指して参ります。
(4)植生の移り変わりを踏まえたうえで、原植生の復元を目指すよう求める。
ご意見を踏まえて有識者と相談した結果、群落組成調査結果から原植生の主要構成種と考えられるトドマツ、シナノキ、ハリギリ、ミズナラ、ドロノキ、ケヤマ八ンノキ等を対象とし、その中でもドロノキ、ケヤマハンノキ等の先駆樹種を主体とした樹林を形成させ、その後は自然の遷移に任せる計画として参ります。
※ 貴協会からのご意見、ご要望については、趣旨を簡潔に転記していることをご了承ください。
以上