十勝川水系河川整備計画(案)に当会の意見は反映されたか(6)

十勝自然保護協会

2010年07月30日 21:16

7.相生中島地区の掘削工事について
 当会は、現在相生中島地区で行われている掘削工事の問題点を以下のように指摘しました。

 原案には、河道への配分流量を安全に流下させるとして、相生中島地区で右岸高水敷の一部を掘削することが明記されている(72頁)。しかし、現状の危険度、つまりどの程度の洪水で災害が生じるかについて具体的説明はない。
前述のとおり、昭和56年8月の洪水のときの日降雨量は、芽室町では382年に1度の確率とされ、集水域全体でも数百年に1度の降雨確率と考えられる記録的なものであった。この時の帯広地点での流量は4952㎥/sに達したが、相生中島地区では、堤防から洪水流の氾濫はなかった(22頁)。その後、昭和60年に十勝ダムが完成したことにより、今回の戦後最大規模の洪水流量を安全に流下させる、というこの原案において、帯広地点の河道への分配流量は4300㎥/sとされている。つまり、現状の堤防でも想定した洪水流が溢れ出る可能性はないのである。
 また、当会は、帯広開発建設部に今年6月に質問書を、7月に再質問書を提出し、この掘削工事による洪水防止効果について具体的説明を求めたが、治水課長からの回答は、安全度の向上を繰り返すだけで、具体的根拠を示すことができなかった。
以上のことから、相生中島地区の掘削工事は、安全に名を借りた不必要な公共土木工事である、と判断せざるを得ない。よって当会は、原案から相生中島地区の掘削工事を削除することを求める。

 これに対し、開発建設部は、工事の妥当性を以下のように説明しました。
 
 本計画では、十勝川流域において甚大な被害をもたらした戦後最大規模の洪水である昭和37 年8 月降雨(帯広地点より下流域)、昭和56 年8 月降雨(帯広地点より上流域)、昭和63 年11 月降雨(浦幌十勝川流域)により発生する洪水流量(以下「目標流量」と言う)を安全に流下させることを目標(P.66)とし、本支川や上下流の関係を踏まえた治水安全度のバランス等を考慮(P.62)した上で、河道断面が不足している区間として相生中島地区や帯広周辺の河道を掘削するものです。
 ご指摘のあった昭和56 年8 月洪水時の状況と本計画との関係については、以下に示します。
 現在の河道は、昭和56 年8 月洪水当時と比べ、河道断面が異なるとともに、河道内樹木が繁茂し、その範囲も増加しています。河道内樹木については、洪水時には流速の低減や流木を捕捉する効果が期待できる一方で、水位の上昇や流木の発生の原因とも(P.92)なります。流下能力を確保する方法としては、河道の掘削のほか、樹木を伐採する方法などが考えられますが、河畔林の環境面なども含めた多様な機能や今後の維持管理等を考慮し、河道の掘削により対処することとしたものです。

 彼らは、注目すべき説明をしています。すなわち「現在の河道は、昭和56 年8 月洪水当時と比べ、河道断面が異なるとともに、河道内樹木が繁茂し、その範囲も増加しています」とし、相生中島地区のすぐ上流付近の流下能力が2,000立方メートル/秒程度しかないことが図示されています。
 しかし、河道断面が昭和56年以降どのように変化したのかの説明はありません。また、流下能力を確保する方法として、「樹木を伐採する方法などが考えられますが、河畔林の環境面なども含めた多様な機能や今後の維持管理等を考慮し、河道の掘削により対処することとした」というのですが、然別川の河畔林伐採の例からもわかるように、河畔林を切りたがる彼らが河畔林を積極的に残そうといってもにわかに信じられません。他の動機がありそうです。実は河道掘削により出た砂利の2~3割は高規格道路のために使われるのです。
 本当の目的が高規格道路の資材確保ではないというのなら、上に指摘した点などに具体的に答えなければなりません。


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