居辺川砂防事業計画と治山事業計画の問題点

十勝自然保護協会

2012年06月22日 22:11

 十勝平野北部の居辺川で大掛かりな砂防事業と治山事業が計画されています。この計画の問題点を指摘し、計画の見直しをもとめる文書を5月6日付で十勝総合振興局長に送付しました。
 
居辺川砂防事業計画についての申入れ

 当会は、3月21日に帯広建設管理部において、居辺川砂防事業計画案について説明を受けました。担当者の説明によると、居辺川では土砂が移動することにより洪水被害があったので、これを防ぐため、上士幌町の居辺橋から上流6kmの区間に遊砂地と12基の床固工などを設置するということでした。
 しかし、この計画案について当会は下記の点を懸念しています。
1.すでに河床侵食が進んでいる下居辺付近から下流において、さらなる激しい河床侵食が予想される。
2.床固工によって流路を遮断すると魚類の移動が妨げられるばかりでなく、砂礫がふるい分けられ河床環境が変化し、水生昆虫や魚類の生息に悪影響を及ぼす恐れがある。
3.砂礫の移動が制限されると川原の森林化が進み、川原を生息地とする動植物の生存が困難となる恐れがある。
4.森林化が進んだ後に大雨にみまわれると多量の流木が発生し、洪水被害を一層拡大する恐れがある。
 居辺川は、古期扇状地から砂礫が供給される礫床河川です。この礫床河川の集水域(居辺橋から上流)において、森林から農地への転換および農地の排水工事が行われてきました。その結果、雨水が急速に流入するようになり砂礫の移動を激しくさせている、と当会は考えております。したがって「洪水被害」なるものは居辺川が集水域の変化に応答した河道拡大現象であって、これを砂防ダムで押さえ込もうという発想は、長い目で見ると賢明な方法とはいえないでしょう。
 このようなことから、当会は床固工によって砂礫の移動を止めれば問題が解決するとの認識を改め、河川生態系を損なうことのない方法で洪水対策を講ずるよう求めます。

居辺川治山事業計画についての要望書

 当会は、昨年12月29日付文書で、貴職に「植栽による森林化をめざすならば、本工事においても近隣の森林から苗木を確保すべきだと考えます。また、崩壊斜面の表土の安定化には林床植生の復元も欠かせません。ついては、理にかなった森林復元をどのようにするのがいいのか、道立総合研究機構林業試験場など専門機関とも相談し知恵を絞ることを求めます」との申入れをしました。
 これに対し、1月31日付で林務課長から「植栽木の選定に当たっては、適地適木の観点からこの地区周辺で生育しているものや、今回と同じ様な痩せ地でも活着や成長が良いなどの適性から判断し、イタヤカエデとケヤマハンノキを予定しています」との回答がありました。さらに3月26日に治山係長から地方独立行政法人北海道林業試験場の清水研究員と相談したとし、①居辺川河畔の植栽について、森林の早期再生に向けて植栽することは全く問題ない ②植栽木として当係で選定しているケヤマハンノキおよびイタヤカエデは一般的に山間部で植栽される樹種で、現地付近にも自生しており適正な樹種と言える、とのアドバイスをもらったとメールで回答がありました。
 当会は、林業試験場の清水研究員に質問書を送付し、回答をもらいました(別添)。
 清水研究員の回答は、森林化にあたっては先駆樹種の活用が良いかもしれないとし、この地域の先駆樹種はケヤマハンノキである。またイタヤカエデについては一斉林を形成することはなく、イタヤカエデ人工林から自然林への移行にどれだけの年月を要するかはっきりとしたことはいえない、というものでした。
 さる4月30日に現地の崩壊斜面における樹木の侵入状況を観察したところ、崩壊斜面南縁のやや安定した部分ではケヤマハンノキが生育し、崩壊斜面末端の堆積部分ではヤナギ(オノエヤナギらしい)の若木が生育していました。
 清水研究員の見解および現地の樹木の侵入状況を踏まえ、当会は、この崩壊地の森林化に当たってイタヤカエデの植栽を見合わせ、先駆樹種であるケヤマハンノキおよびヤナギ類(おもにオノエヤナギ)を活用し、本来の森林に導くことが最良の方法であろうと考えます。
 貴職におかれては、当会の見解をご理解いただき、計画を変更するよう要望いたします。

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