さる2月15日、北海道環境影響評価審議会は「新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書に係る審議」を行い、小委員会の報告した答申案に一部文言を追記して、知事へ答申しました。知事はこの答申をもとに知事意見を作成し、3月13日までに書面で事業者に伝えることになります。
シマフクロウに関する影響評価は今回のアセスの重要なテーマでした。それにもかかわらず北電は、北海道に対し当初アセス不要を主張し、これが認められないとなると自主アセスを主張し、これも認められないとなるとシマフクロウを存在しないかのように扱ってアセス手続きを開始しました。このことを当会などが意見書で指摘すると、虚言を弄するような言い訳を繰り返しました。このあたりの詳細は、12月25日の公聴会で指摘しましたので、下の公述文をご覧ください。
このほど公開された道の議事録などから注目すべきことが明らかになりました。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ksk/assesshp/singikai/H24_7singikaisiryou2_3.pdf
道環境影響評価審議会がシマフクロウへの予測結果について北電に質問したところ、北電は「対象事業実施区域内で生息(ねぐら、採餌等)は確認されておらず、主要な生息地は、対象事業実施区域から離れています」と回答しました。
審議会の委員も北電の北海道環境影響評価条例を蔑ろにする態度を察したようで、「(シマフクロウが)生息が確認されていないという言い方は、明らかな間違いです」と指摘しました。このため北電は、「シマフクロウの予測結果については、『対象事業実施区域内で生息(ねぐら、採餌等)は確認されておらず、主要な生息地は、対象事業実施区域から離れています。』という表現は、『対象事業実施区域内でねぐら等は確認されておらず、それらの場所は対象事業実施区域から離れています』と修正したいと考えています」と「採餌」の削除を余儀なくされました。
とうとう当会などが公聴会で指摘した対象事業実施区域内にシマフクロウの採餌場があるという事実を認めざるを得なくなったのです。つまり、北電は準備書でシマフクロウについて虚偽の記述をしていたということです。この記述に係ったであろう「専門家」の責任も問われなければなりません。
北電は泊原発では積丹半島に活断層がある可能性が高いにもかかわらずこれを無視し、新岩松ではシマフクロウがいるにもかかわらずこれを無視しました。北電の企業倫理欠如は深刻です。
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十勝自然保護協会の公述1
この新岩松発電所新設工事環境影響評価では、シマフクロウについて調査データも、環境影響評価審議会の審議内容も、さらには評価結果までも一切秘密にして環境影響評価の手続きが終わるという事態が予想されます。
科学的検証に耐える調査が行われ、恣意的ではない公正な準備書がつくられ、そして客観的評価が行われるのなら、場合よってはこのような秘密扱いも社会の一定の理解を得られることがあるかもしれません。
しかし、これまでの手続きを見ると、シマフクロウに関する環境影響評価への信頼を損なうことが余りにも多すぎます。まずこの点を指摘します。
驚いたのは、この環境影響評価手続きの手始めに北電が出した「方法書」に、動植物への配慮が一言もなかったことでした。
この一帯がシマフクロウの生息地であることは、自然保護に関心のある人や環境行政関係者には良く知られていることです。2005年にラリージャパンがここで開催されたときには、鳥類研究者などが主催者に反対の申入れをしたことがマスコミでも報道されました。それにもかかわらず、北電は方法書で配慮すべき動植物がいないとしたのです。
このため、十勝自然保護協会は、方法書の「『6事業計画の立案に際して行った環境への配慮』に野生動物への配慮の項がないのは問題である。工事場所の立地を考えるならば、野生動物への配慮を記述すべきである」との意見書を提出しました。
これに対し北電は、準備書において「既存資料(方法書の段階)では、対象事業による野生生物への影響を確認することができなかったため記載していません。なお、配慮すべき野生生物については、その種の生息・生育状況を確認(調査)後に、事業実施による影響を予測し、配慮方法を検討し、準備書に記載しました」との見解を明らかにしました。
またその後出された「見解書」において「今回、新岩松発電所新設工事を実施する区域(対象事 業実施区域)及びその周辺に、どの程度、生息・生育するかまでの詳細な記載はなかったため、工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮に動植物』は記載しておりません」との見解も明らかにしました。
しかし、これらの見解は、北海道環境影響評価条例に反するものです。
北海道には、事業者が環境影響評価を実施するに当たって、方法書、準備書等の記載事項について定めるとともに、事業者が調査、予測及び評価の手法等環境影響評価を行う上で必要な技術的事項を選定するに当たり考慮すべき標準的事項を定めた「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」(以下、「指針」といいます)と、この指針に解説を付した「環境影響評価技術指針の解説」(以下、「指針の解説」といいます)があります。
方法書について、この指針の「事業計画の立案」には次のように書かれています。
「方法書の事業計画の概要には、事業者の環境保全に対する基本的な考え方及び①事業計画の立案に際して行った環境への配慮を含めて記載すること」とあります。そして指針の解説には「本指針では、事業計画の内容決定に柔軟性を有している早い段階から環境配慮が適切に行われるように、事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載することとしたものである」と書かれています。
つまり、指針は「事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載する」ことを求めているのであって、具体的な影響を予測することなど求めていません。したがって、「工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮に動植物』は記載しておりません」との北電の言い訳は成り立たないのです。
また北電は、現地調査を行わなかったが、既存文献で重要な動植物種が生息することは知っていた。しかし詳細な記載がなかったためこの動植物種への影響を予測できなかった、との論理を展開しています。しかし、このような論理が成り立たないことは、指針および指針の解説を読めば明らかです。
指針(「第3-2 方法書 (2) 地域特性」)には
「地域特性の把握は、④既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行うこと。なお、⑤現況の情報のみならず、過去の状況の推移及び将来の状況も把握すること」と書かれています。
そして指針の解説には「文献等による調査では必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等からの聴取等により補足する必要がある」と書かれているのです。
つまり、北海道は事業者に対し詳細が分からず必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等から聞取りをすることを求めているのであり、現地調査を行わなかったから、詳細が分からないという北電の言い訳は理由になりません。
このように北電の言い分は、自ら北海道環境影響評価条例に反する方法書を作りましたと認めているわけですが、そのような反社会的な言い訳までしなければならない本当の理由が別にあると私は思います。
2年前の2010(平成22)年11月12日に、北電はこの事業を進めるに当って、北海道環境推進課と事前相談を行いました。この席で北電は、シマフクロウがいる可能性は高いと知っているとしながら「第二種事業判定においてはいずれも該当無しつまりアセス不要と判断している」との主張をしたのです。シマフクロウの生息地で工事を行うにもかかわらず、アセス不要と主張したのです。しかしこの主張は、シマフクロウがいる可能性が高いということで北海道から退けられました。
そして、その2週間後の11月26日の事前相談では、北電は、アセスを実施することによりシマフクロウの情報を流布させてしまう危険性があるとの理由をもちだして、自主アセスを実施することで環境配慮の責任を果たすこととしたい、と主張しました。自主アセスは「専門家である、だれそれの助言をいただいた」とも述べています。つまり、シマフクロウの生息地であるにもかかわらず、北海道環境影響評価条例の手続きをとりたくないとの意向を示したのです。しかし、これも北海道から退けられ、やむなく北海道環境影響評価条例の手続きを進めることになったのです。
事前相談ではシマフクロウのことが主要なテーマであったにもかかわらず、北電は、環境影響評価の方法書では、野生動物への配慮について一言も書きませんでした。つまり、シマフクロウの存在を無視、あるいはなきものとして手続きを開始したのです。
このように、シマフクロウのことが広く知られるとまずいから環境アセスをしなくていいだろうといい、それが聞き入れられないとなると、今度はシマフクロウを隠して環境アセスを進めるという北電の行動からは、何としても思い通りの工事を進めるという横暴な姿勢すら感じざるを得えないのです。
そこで問題となるのは、このような自己本位の行動をする企業が果たして科学的検証に耐えるまともな調査を行ったのかという疑念です。
この疑念を払拭するには、シマフクロウの調査データの開示が不可欠ですが、今回は全て秘密扱いですから、第三者には検証の仕様がありません。このようななかで、調査の精度について問題があることが明らかになりました。
今年8月、この会場で開かれた説明会の場で、北電は、対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息を確認していないとの調査結果の一端を明らかにしました。
発電に使われた水が流れ下る岩松発電所の放水路は、発電を停止すると水位が下がり、そこに多くの魚類がとり残されるため、シマフクロウが採食に訪れることが知られています。いうまでもなくここは北電が対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)としているところです。発電所脇の岩松橋には沢山の交通安全の旗がたてられているのはシマフクロウが交通事故にあわないよう飛行高度を高くするための方策です。またかつては放水路の下流でシマフクロウが繁殖していました。つまり発電所一帯はシマフクロウの生息域となっているのです。生息域に好適な採食場所が出現すればシマフクロウがやってくるのは当然のことです。北電がここでシマフクロウを確認しなかったということは、北電の調査が適切に行われたかを疑わせるものです。本当に科学的検証に耐える調査が行われたのか、環境影響評価審議会での慎重な検討を要請します。
次に、公正な準備書が作られたかという問題です。
シマフクロウへの影響については、北電は「専門家」2名に相談しながら準備書を作成しています。それを環境影響評価審議会小委員会の委員5名が評価するということになっています。冒頭でいいましたように調査データも、小委員会の審議内容も、さらには評価結果までも一切秘密とされます。つまり、この地域のシマフクロウの命運をごく少数の者だけが秘密裏に決するという構図になっているのです。どのような資料に基づきどのような議論がなされ、どのような結果となったか、道民は知りえないのです。このような秘密の評価が公正に客観的に行われたかを保証するためには、どのような人物が係わったかを明らかにすることが不可欠だと考えます。
小委員会の委員の氏名は勿論公表されています。しかし北電の「専門家」の方は準備書で氏名を明らかにしていません。これに関して北電は公表の義務がないからだとしています。もし専門家に道民を代表してシマフクロウの保護に万全を尽くすという意思があるなら、決して名前を公表することを拒まないのではないでしょうか。本人に意思確認をし、了承が得られたならば氏名を明らかにすべきです。
ただし、一つ気がかりなことがあります。北電が調査を委託した子会社の北電興業はアドバイザーなる名称で専門家と契約しています。たぶん有償で契約していると思われます。さきごろ原子力規制委員会は、原発敷地の活断層調査に携わる専門家の選出に当たって、今まで原発の安全審査に携わらなかった専門家を調査委員に選定しました。これは専門家による評価の信頼性を高めるためにおこなわれたものです。もし今回の専門家が北電興業のアドバイザーであるなら、準備書の信頼性に疑問符がつくことになるということを指摘しなければなりません。
最後に今回の環境影響評価手続きの信頼性の回復についてです。
シマフクロウに関する影響評価は今回のアセスの重要なテーマです。それにもかかわらず北電は、アセス不要を主張し、これが認められないとなると自主アセスを主張し、これも認められないとなるとシマフクロウを存在しないかのように扱ってアセス手続きを開始しました。このこと道民が指摘すると、虚言を弄するような言い訳を繰り返しました。このような行為は北海道環境影響評価条例を蔑ろにするものといわなければなりません。
環境影響評価手続きの信頼性を回復させるため、北電はこの間の不誠実な対応を反省し、シマフクロウの生息地で工事を行う事業であることを明らかにした上で、特別の注意を払ってアセス手続きを進めることを道民に表明すべきです。そしてシマフクロウの生息の保全に懸念をいだく道民、とりわけ自然保護団体にはきちんと説明すべきです。そうしてこそ最低限の信頼が得られることになるのです。
指針を盾にシマフクロウの一切合財を秘密し、シマフクロウの生存に影響を与えるかもしれない事業を秘密裏に進めるのは、「種の保存法」の趣旨に反するものといわなければなりません。シマフクロウに関し全ての情報を秘密にすることは、かえってシマフクロウの保護の妨げになるということを指摘し、公述を終わります。
(公述の一部を省略しています)
追記 北電興行と書きましたが、現在は北電総合設計株式会社となっていました。
http://www.hokuss.co.jp/company/outline.html