北海道自然保護連合(構成団体:大雪と石狩の自然を守る会 十勝自然保護協会 一般社団法人北海道自然保護協会 南北海道自然保護協会 ユウパリコザクラの会)が環境省の「日高山脈及び襟裳岬並びにその周辺地域を構成地域とする国立公園(名称未定)の指定等への意見募集」(パブリックコメント)に提出した意見を掲載します。
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環境大臣
伊藤信太郎さま
北海道自然保護連合(共同代表:安藤御史・菊地宏治・西畑智光)
日高山脈及び襟裳岬並びにその周辺地域を構成地域とする国立公園(名称未定)の指定等への意見
北海道自然保護連合では、今回の日高山脈襟裳国定公園の国立公園化に関わって、2006年3月18日に当連合を含む道内の11の自然保護団体の連名で当時の小池百合子環境大臣に「日高山脈と夕張山地を新たな国立公園に指定することの要望書」を提出し、日高山脈(日高山脈襟裳国定公園)と夕張山地(富良野芦別道立自然公園)を合わせて一つの国立公園に指定することを要望しております。
このたび日高山脈襟裳国定公園が国立公園に昇格することで私たちの長年の要望の一端が実現し、喜んでおります。新たな国立公園が我が国最大の国立公園になることは大いに評価されます。貴職および関係者各位のご尽力に感謝申し上げます。
今回の意見募集対象の「イ 日高山脈襟裳国定公園の指定の解除及び公園計画の廃止案」については特に意見はありません。「ア 日高山脈及び襟裳岬並びにその周辺地域を構成地域とする国立公園(名称未定)の指定及び公園計画決定案」については、日高山脈襟裳国定公園よりも面積が約2.4倍、特別保護地区は約3.8倍となるなど、評価すべきと考えていますが、以下のように意見を申し上げますので、ご検討くださるようお願いいたします。
1. 名称は「日高山脈国立公園」とすることを要望します。
そもそも「日高山脈襟裳国定公園」は、襟裳岬周辺とアポイ岳周辺を合わせて指定された「襟裳道立自然公園」(1950年8月15日指定、1958年4月1日襟裳道立自然公園に移行)と、保護地域として未指定であった「日高山脈主稜部」を合わせて1981年10月1日に指定されました。この国定公園は襟裳岬周辺、アポイ岳周辺および「日高山脈主稜部」という互いに離れている3地域から出来ています。このことから、国定公園の名称は「日高山脈」と「襟裳」が併記されることになりました。
しかし、今回の公園計画においては指定地域の大幅な拡大により飛び地状態は解消されて一体化し、新たな国立公園の範囲は日勝峠付近から襟裳岬に至る日高山脈を中核としてその東西の山麓を含む地域になっております。したがって、「日高山脈国立公園」が最適な名称と考えます。
2. IUCNが認める国際的基準の国立公園として我が国最高レベルの保全を要望します
IUCN(国際自然保護連合)は、 『保護地域管理カテゴリーを適用するためのガイドライン』(2013)において、世界の保護地域を管理目的に応じて7つのカテゴリーに区分しています。日本の国立公園は、その多くが私有地などを含むためカテゴリーⅤ(景観保護地域)に区分されています。それに対して、新たな国立公園はそのほぼ全域を国有地(86.8%)と道有地(11.3%)が占め、地域住民の集落も存在しないため、カテゴリーⅡ(国立公園)、すなわち、「保護地域とは、その地域に特徴的な種や生態系の保全とともに大規模な生態学的プロセスを保護するための大規模な自然地域あるいは自然に近い地域で、それはまた環境と文化に調和した精神的、科学的、教育的活動およびレクリエーションと観光客の機会のための基盤を提供する」という国際的な国立公園の定義に合致します。日高山脈は、知床や大雪山の国立公園とともに、日本では数少ないカテゴリーⅡ(国際基準の国立公園)に該当すると判断されます。
また、環境庁の第5回自然環境保全基礎調査 河川調査報告書(2000)によりますと、日高山脈襟裳国定公園の原生流域数は22河川を数え、原生流域総面積は約44,043haに及び、ともに全国第1位です。第2位の大雪山国立公園(流域数7河川,面積約16,820ha)に比べ、その原生流域の広大さは突出しています。現行の国定公園から面積を2倍以上と拡張する新たな国立公園はより明確な全国第1位となります。
このように、日高山脈襟裳国定公園は未来に残すべき日本最大の原始境と言えますので、「公園の指定目的に反する開発や居住を排除する」(私有地がありますので、例外もありますが)など国の責任で厳正な保全と管理を図り、日高山脈の自然保護と生物多様性保全に効果的な対策が現状以上に講じられ、自然保護重視型の国立公園となることを要望しています。
なお、管理にあたっては、国立公園の大部分が国有林および道有林であることから、林業・国土保全・生物多様性保全を目的に挙げている林野庁や北海道と連携を密にし、日高山脈を我が国最高レベルの国立公園にされることを期待します。
3. 夕張山地(富良野芦別道立自然公園)の編入を希望します
日高山脈と夕張山地は地質学的に見て「兄弟の山地」と言え、超塩基性岩(かんらん岩・蛇紋岩)、緑色岩類ならびに石灰岩という植物の分布・生育にとって「特殊岩」と呼ばれる地質が共通し、それぞれの地質に対応した固有植物や隔離分布種が非常に多く、しかも多くが共通する特徴があります。北海道固有植物(固有種・固有植物)の数も、日高山脈、夕張山地においては、大雪山や知床と比較しても圧倒的に数が多くあります。また、夕張山地は芦別川上流部、トナシベツ川上流部などに日高山脈に劣らない原生流域があります。1996年6月19日には天然記念物「夕張岳の高山植物群落および蛇紋岩メランジュ帯」として国の天然記念物に指定されています。
環境省は、2007年〜2009年に国立・国定公園総点検事業を行い、その結果2010年10月に全国18か所の新規指定・大規模拡張候補地を公表しました。その後のフォローアップを経て、「日高山脈・夕張山地」が新規指定候補として選定されました。貴職にあっては引き続きこの考えのもとに両山地を合わせた国立公園にすることを望みます。
4. 公園計画(原案)に関わる要望および意見
(1)日高山脈南端部(幌満川流域)に見られる大きな非指定地域について
公園計画図(全体図)を見ますと、様似町のポンニカンベツ川最上流からフチミ川、オピラルカオマップ川、キリプネイ川中流部、幌満川上流部、およびパンケ川上流部にかけて大きな非指定地域があります。この地域は道有林(一部は民有林?)と思われます。国立公園の中にこのような大きな空白地(非指定地)があるのはいかにも不自然で、奇妙に感じられます。このようになった理由を説明していただくとともに、この部分を速やかに新規国立公園に指定されるよう要望いたします。また、その一部は特別保護地区にも接しているようですが、特別保護地区がバッファーゾーンもなく、直接非指定地に接するのは、生態系および生物多様性の保全の上からも極めて大きな問題と思います。
(2)豊似湖周辺の整備について
豊似湖周辺に園地あるいは歩道・散策路を設ける予定のようですが、この辺りには氷期の遺存種であるエゾナキウサギや高山植物のリシリシノブなどが生息・生育しており、湖畔に多様な自然林がみられ、生物多様性保全上非常に貴重なところです。しかし、近年マナーの悪い訪問者がみられ、当連合構成団体を含む4団体は、環境省北海道地方自然環境事務所長、北海道知事ほかに「日高山脈襟裳国定公園の『豊似湖』周辺における自然環境保全に関する要望」を提出しております。したがって、豊似湖周辺における生物多様性に悪影響を及ぼさない詳細な利用計画が必要です。そのためには、園地と歩道の整備を実施する前に、事前調査を実施し、その結果により利用計画を検討することを要望いたします。
(3)静内中札内線における車道整備について
公園計画(原案)では、静内中札内線の日高側車道として、起点(静内高見・国立公園境界)から、終点(静内高見・東の沢橋)までの車道整備が挙げられています。この区間は脆弱な岩石から出来ており、過去に大規模な崩落・崩壊があったところです。今後も大規模な崩落・崩壊が予想されますので、安全に通行できる車道として環境省が整備するには相当の出費を覚悟する必要があります。したがって、ペテガリ山荘へのアプローチとしては、現在皆さんが使っているニシュオマナイ川上流の「神威山荘」からべッピリガイ沢へ尾根を乗っ越すルートが、アプローチが長くはなりますが、より安全なものと思います。
なお、静内中札内線の十勝側車道は、起点の南札内・国立公園境界から終点の七ノ沢・歩道合流点までを整備するとされておりますが、札内川ヒュッテを過ぎると、札内川右岸沿いの砂利道です。地質的には日高側ほど脆いとは言えませんが、急崖ぞいの車道の維持・管理にはそれなりの費用の負担が懸念されます。
(4)稜線上の歩道(登山道)の整備について
日高山脈は大雪山ほかの火山性の国立公園とは違い、その切り立った細い稜線がその魅力の一つです。そして痩せ尾根の根曲ザサの下や露岩帯にも高山植物や希少植物も見られます。沢登りが日高山脈の特徴的な登山形態となったのは、清冽な沢自体の魅力もありますが、その獰猛な根曲ザサの藪漕ぎが敬遠されたことにもあります。計画されている登山道がどのようなものなのか不明ではありますが、その利用形態、利用によるそれぞれの場所の自然への影響をあらかじめ調査・検討して造成計画を作成すべきです。
1)1839峰への登山道整備について
日高山脈中部のコイカクシュサツナイ岳から1839峰への登山道整備については現時点では反対いたします。特に主稜線から支稜をたどり1839峰へ至る道は反対です。少なくとも、今回は造成せず、登山者による既存の登山道(これまでの踏み跡道)の利用形態を観察し、それによる周辺の生態系への影響をモニタリングし、その結果を検討してからにすべきです。
2)カムイエクウチカウシ山への歩道(登山道)の整備について
この登山道は、起点が七ノ沢出合・車道合流点、終点はカムイエクウチカウシ山山頂とあるのみで、そのルートは不明ですが、現在登山者がルートとしている八ノ沢を遡行し、上流部の岩壁状の滝を高巻きしてカールにでるコースを想定しますと、結構危険なところもあり、中級者以上、あるいは初級者の場合は高度な登山技術を有した山岳ガイドを必要とするルートと思います。したがって、登山道の設定にあたっては現地に詳しい登山関係者の意見を聴取すべきです。
(5)日本最大の面積を有する国立公園にもかかわらず、自然保護官(レンジャー)が2名しかいないという問題について
南北延長約140kmある広大な日高山脈の国立公園に自然保護官が2名しか予定されないことは大きな疑問です。新たな国立公園には、13 市町村が関わっており、日高山脈への入山口は概ね日高側では日高町・新ひだか町・浦河町・様似町・えりも町、十勝側では中札内村・帯広市・大樹町・広尾町などがあります。しかし、公園計画(原案)では、自然保護官事務所は帯広市と新ひだか町(静内)の2か所のみです。広大な面積とアプローチの長さを考えると、十分な管理を行えないことは明らかです。少なくても5か所は必要と考えます。
(6)国立公園の保護と保存および利用に関して、地域住民ほか多様な関係者などによる討議や協働ができる場について
新たな国立公園は、道民や国民の貴重な財産であるとともに、地球規模において未来の世代に残すべき宝と言えます。その公園計画(保護・保存と賢明な利用)の策定にあたっては、道民や国民はもとより、日高山脈に慣れ親しんでいる地域住民の意見の反映が極めて重要です。一方国立公園の保全の意義とその実施についての地域住民の理解も欠かせません。そのため,国立公園の自然の保護と保全および利用と管理にあたっては、地域住民、自然保護関係団体、登山関係団体、あるいは日高山脈の自然を知る研究者等の意見を広く聞き,公園計画や管理運営計画の策定に活かすために,それらのステークホルダーも国立公園の管理運営にも参画する機会を設けていただきたい。
以上