日高山脈襟裳国定公園を国立公園に指定する中央環境審議会の答申に関する声明

十勝自然保護協会

2024年05月31日 20:01

 環境省中央環境審議会自然環境部会で、日高山脈を中心とする国立公園の名称が「日高山脈襟裳十勝国立公園」と決まりましたが、北海道自然保護連合はこれに関して声明を発表しました。


******************************


2024年5月31日


日高山脈襟裳国定公園を国立公園に指定する中央環境審議会の答申に関する声明

                      北海道自然保護連合
共同代表 安藤御史
菊地宏冶
西畑智光


        構成団体
十勝自然保護協会(共同代表 安藤御史・佐藤与志松)
大雪と石狩の自然を守る会(代表 寺島一男)
ユウパリコザクラの会(代表 藤井純一)
南北海道自然保護協会(理事長 藤島 斉)
一般社団法人北海道自然保護協会(会長 在田一則)



 環境省中央環境審議会自然環境部会(第49回:2024年5月22日開催)は、日高山脈襟裳国定公園を国立公園に指定する環境省の諮問案を妥当として環境大臣に答申することを決めました。
 当連合は、2006年3月に道内の11の自然保護団体の連名で、環境大臣に「日高山脈と夕張山地を新たな国立公園に指定することの要望書」を提出していましたが、夕張山地(富良野芦別道立自然公園)は含まれなかったものの、この度の審議を以て指定の実現に至ったことは大きな前進であったと受け止めています。
 しかし、新たな国立公園の名称として決定された、「日高山脈襟裳十勝国立公園」は、地元市町村長から要望があったとして「十勝」が加えられましたが、その理由に妥当性がなく決定のあり方にも問題があります。名称はその国立公園の特徴や核心となるエリアを端的に想起させるいわば表看板です。決め方は国立公園の管理運営のあり方と深く関わっています。国立公園の維持管理に地域住民や自治体等の協力は、いうまでもなく欠かすことのできない大切なことがらですが、その意向の反映には合理性が必要です。改めて当連合の見解を以下に表明いたします。

 すでに、当連合は、環境大臣に要望書を提出し、自然環境部会での審議に関して自然環境局国立公園課に質問や要望を繰り返してきました。また、「十勝を入れるべきでない」との環境大臣宛署名活動を行い、今回の自然環境部会の直前の5月20日には1003筆の署名を提出しています。
 十勝を入れる必然性がない理由として掲げてきた主なものは以下のとおりです。
・日高山脈はその領域が日高と十勝にまたがっているので、日高山脈の名称の中にすでに十勝が内包しており、十勝を入れることは、屋上屋を架すこととなる。
・周辺13市町村の要望書には十勝を加えることで「観光客や利用者に地理的な位置を分かりやすくする」とあるが、日高山脈は地理的固有名詞で小中学生の地図帳にも明確に記載されている。
・十勝は畑作・酪農を特色とする「農業王国」として全国的な知名度も高く、むしろ加えることによって原生的環境を特色とする日高山脈からなる公園の本質が極めてあいまいになる。
・「十勝平野から眺める日高山脈の山並みは雄大」であるからと、眺望を理由に名称に「十勝」を加えることは奇異である。日高山脈が見える十勝中央部からは大雪山国立公園の山塊の雄大な連なりも見えるが、大雪山国立公園に十勝を加えよとの声は全くない。

 しかし、環境省は、当連合が求めてきた「名称に十勝を入れることの理由・根拠」には正面から答えることをせず、また、2月22日の自然環境部会(第48回)において、経緯の説明などでは、自然保護団体・山岳団体の要望書提出などには一切触れず、一方で、関係首長を招聘するなど、不公平な運営を行ってきました。さらに、当連合の14項目の質問書にも逐条回答をしないなど不誠実な対応を取ってきました。
 5月22日の自然環境部会(第49回)に提出された資料2-2には、2月22日の第48回自然環境部会での部会長からの次回で新国立公園の名称に「十勝」を加える理由を説明して欲しいとの要望を受けて、「新国立公園の名称を『日高山脈襟裳十勝国立公園』とする理由」が掲載されていますが、「理由」と言いながらまったく「理由・根拠」にはなっておらず、終始「十勝を入れることの意義・効果」ばかりが強調されています。そしてその論理は誤りであると断言せざるを得ません。
 すなわち、
1 十勝側に広大に拡張したと言っても、日高山脈の山麓部を含む周辺地域で、言わば山脈の膨張的拡大で、拡大された「十勝」は独立した地域でなく、日高山脈に付随した地域である。
2 新国立公園の十勝側面積が阿蘇くじゅう国立公園ほどに拡大されたことを「十勝」を加える理由としているが、環境省資料を見ると、今回拡大されたのは多くが日高側であり、日高山脈襟裳国定公園ではほぼ半々であった日高側と十勝側の面積比は、日高が十勝の約2倍となっている。面積からみると、国定公園にはなかった「十勝」を加える理由はない。加えるべきは「日高」である。

  注:国定公園時の面積…日高側 54,183ha 十勝側49,264ha
    国立公園時の面積…日高側161,954ha 十勝側83,715ha
    国定公園から国立公園になって増える面積
            …日高側107,771ha(約3倍)十勝側34,451ha(約1.7倍

3 日高と十勝がほぼ等分である日高山脈と「十勝」を併記することは、すなわち「日高山脈(日高・十勝)プラス十勝」ということである。これは国語表現でいう重言にあたる。
4 上記1、2、3で指摘した論理で言えば、「日高山脈」と「日高」はまったく別であるから、名称には「日高」もまた対等に名称に加えなければならない。すなわち「日高山脈襟裳十勝日高国立公園」とすべきである。
5 一方、「日高山脈プラス十勝」を独立した地域とみなす場合、国立公園の名称なのだから、自然公園法が定める選定基準「傑出した自然」という条件を満たすかどうかが問われる。もし「十勝」にそれがあるのであれば、国定公園指定時に「十勝」も入ったはずだが、入らなかった。つまり、残念ながら「十勝」には「傑出した自然」はないのである。 *重要湿地などがある十勝海岸は該当するが、離れており独立した地域である。
6 それでも、「十勝」をねじ込むのは、看板に嘘あり、羊頭を掲げて狗肉を売る、つまり詐欺行為に外ならない。十勝の住民は公園入口の看板を見てどんな思いをするだろうか。
7 関係市町村との今後の連携は必須であると強調するが、それを理由に直接関係のない地域名をあえて国立公園名称に加えずとも全国の国立公園関係自治体は十分に連携協力しているではないか。

 以上のように、今回の国立公園名命名の理由づけは、不合理で妥当性がないものです。
 環境省は国立公園の命名に決まりはないと言っていますが、戦前からの国立公園の命名には、時代により多少の変化はあるものの、暗黙の了解、伝統、守られてきた規範・道理があるように思います。それは「傑出した自然」がある地域の名前(新たに作り出した名称もあるが)をつけたということです。この暗黙の了解を逸脱した今回の命名は無理を通して道理を無視したと感じられます。
 国立公園として保全すべき地域以外の地名を周辺市町村の要望により入れることは、環境省が本来行うべき環境・自然保護行政を歪曲するものです。今後「わが町名も」というのに対し、悪しき前例を作ったことになります。
 今回の名称問題が将来の国立公園の健全な命名に関して禍根を残すことを危惧します。

 当連合は、国立公園は国民全体の財産で地域だけの財産ではないとの立場から、世界に誇ることができる日高山脈の原生的自然をこれからも守ることを根幹にして、観光優先の利活用にならないことを強く願いながら、引き続き環境・自然保護行政に提言していきます。


関連記事