当会は2021年2月13日付けで環境大臣に「日高山脈襟裳国定公園の国立公園化に伴う名称についての要望書」を送付しましたが、補足説明を加えた再要望書を送付しました。
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2021年6月13日
環境大臣 小泉 進次郎 様
十勝自然保護協会 共同代表 安藤 御史
佐藤与志松
日高山脈襟裳国定公園の国立公園化に伴う名称についての再要望書
先に、当会から要望書(2021年2月13日付)を提出しましたが、その後の北海道地方事務所の国立公園化の動き等を踏まえ、要望書の趣旨について補足説明を加え、ここに「再要望書」として提出いたします。
先の要望書において、次のように記述しました。
《そもそも、「日高山脈」の有する価値とは、原始性と国際的国立公園資質といえるでしょう。広域概念の「十勝」を併記することで、「日高山脈」のこれらの原始性と国際的国立公園資質を損なうのではないかと危惧されます。》
この記述について説明を加えます。なお、広域にわたる日高山脈襟裳国定公園の核心部分は日高山脈ですので、専ら日高山脈についての論考です。
2006年10月、当協会を含む4団体が、当該国定公園を国立公園化する要望書を関係機関に提出しており、その中で7項目の特徴を挙げましたが、その7項目を要約的にまとめたものが「原始性と国際的国立公園資質」ということです。
(1)原始性について
原始性を測る尺度に、植生自然度があり、日高山脈は知床や大雪山と共に、高い自然度を有しています。また、環境省の「環境白書」(2001年)において、日高山脈は原生流域保護地域の第1位であると発表されました。しかも第2位の大雪山と比較して、群を抜く優れた値を示していることに注目する必要があります。現地の実態を観察しますと、大雪山は三方(旭岳温泉、層雲峡、銀泉台)に車とゴンドラで入山できる利便性がありますが、日高山脈は長い林道のアプローチと徒歩で沢をこぎ入林する不便さがあります。この大きな差異が、日高山脈の際立った原始性という特徴を如実に示しています。
(2)国際的国立公園資質について
IUCN(国際自然保護連合)は、自然保護地域を6つのカテゴリーに区分し、カテゴリーⅡを国立公園としております。2003年に各国の国立公園リストの公表を行いましたが、日本の国立公園28のうち23がカテゴリーⅤの「環境保護地域」に分類されております。これは、日本の国立公園の大半が、私有地を含む地域制公園であるため開発の手が入ったことによるものです。しかし、北海道の国立公園・大雪山や知床は、90%以上が国有林と道有林地帯であり、近年、林野庁の経営目的が木材生産から公益機能に転換したことにより、実質的な造営物公園となり、開発を排除したカテゴリーⅡの区分に入る可能性を有しております。日高山脈は、2003年に日高中央横断道路の凍結・中止がなされ開発の排除が実現し、その原始性の特徴を保護する条件が完全に整った公園として、カテゴリーⅡに入る資質を有していると言えます。
(3)資質を損なう危惧について
「十勝」を併記することは、それに見合った自然地域を十勝平野に求め、公園の拡大を図ることになります。名称改変のため、その整合性を求めるという動機は本末転倒です。果たして十勝平野に国立公園としての適地が見つかるかどうか疑問です。阿寒国立公園の例では、阿寒横断道路の開発によって劣化したところへ、摩周湖という優れた自然地域を拡大して阿寒摩周国立公園としました。また、厚岸道立自然公園の例では、昆布森海岸、別寒辺牛湿原、霧多布湿原という優れた自然地域を大幅に拡大して厚岸霧多布昆布森国定公園としました。これらの例のような理にかなった名称変更が日高山脈襟裳国定公園の場合できるでしょうか。無理に選定地域を設けて公園拡大することによって、日高山脈の特徴を損ねることはないでしょうか。
更に、「十勝」併記を要望する自治体の意図は、日高山脈の知名度に依存して観光集客を図ろうとする以外の何物でもありません。そのことは利活用のみを重視し保護を軽視する傾向を引き起こし、日高山脈の優れた特徴を損なうおそれがあります。
以上のことを勘案して、「十勝」併記と、そのための安易な公園拡大については賛成しがたいというのが当会の考えです。