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十勝自然保護協会 活動速報 › ヤチカンバ保護問題 › ヤチカンバに迫る危機

2014年09月23日

ヤチカンバに迫る危機

埋もれるヤチカンバ
 9月14日十勝海岸で開催された植物観察会の帰りに更別のヤチカンバ自生地に寄ってきました。ヤチカンバが隠れるほどに他の植物が茂り、ヤチカンバの生存は風前の灯火のように思えてきました。

 更別村が調査会社に委託して作った報告書(「平成16年度 ヤチカンバ保護地域内現況調査委託業務報告書」)によると、ヤチカンバ保護地域の土壌調査の結果、泥炭層や斑紋(筆者注:酸化鉄や酸化マンガン化合物の土層中での沈積形態の総称)がなく、湿原にはない十勝坊主があったからここは湿原ではなかったとし、排水路の埋め戻し等によって水位を高め、以前の湿原状況を再現する方法は、保全地域内では妥当な対策とは考えられないから、保全対策案として、地掻き放置区(ミヤコザサを刈りはらった表層を耕起して放置)、播種区(地掻き放置区と同様の処理後播種)、苗移植区(地掻き放置区と同様の処理後苗を移植)をつくるべきだというのです。
 2004年の調査時にすでにオオイタドリ・ミヤコザサ・イヌコリヤナギの侵入が認められていましたが、現在はヤマナラシが侵入し森林へと遷移する段階に至っています。もはや地掻きでヤチカンバを保護できる段階ではありません。

 ヤチカンバが発見された半世紀前のヤチカンバ生育地はどんな様子だったのでしょうか。ヤチカンバを発見し、新種として発表したのは渡辺定元・大木正夫の両氏でした。彼らの「北海道産カバノキ属の一新種」(植物研究雑誌34:329-332)には、ヤチカンバの生育地について次のように書かかれています。
 「更別泥炭地は周囲約10㎞面積ほぼ600ha,流水の箇所にはハンノキ,ヤナギ林がみられる他大部分は“やちぼうず”によって占められている。ヤチカンバは湿原の外縁部の“やちぼうず”上に生じ,特に西側では幅20~100m,長さ1500mの大面積に亘り群落を形成している。したがってヤチカンバは,過湿な“やちぼうず”上には生えず,やや乾燥せる“やちぼうず”上に叢生している。5月初旬開花時に当地を訪ねた時は中央部は湿地であったがヤチカンバの生ずる“やちぼうず”の間は水が枯れていた。この地域の住民の話によると,6月になると湿地化するそうである。」

 調査会社は、保全対策の項で「従来、文献などにおいては、保護地域は湿原内に形成された群落が、その後の農地造成事業などの排水整備により乾燥化を経て、現在のミヤコザサやイタドリの優占する状況に至ったものと述べられている。しかし、土壌調査の結果、まとめの項で述べてあるように保全地域は湿原であった可能性が低いと考えられる。」とし、だから、「排水路の埋め戻し等によって水位を高め、以前の湿原状況を再現する方法は、保全地域内では妥当な対策とは考えられない」と主張しています。
 しかし渡辺・大木氏は、ヤチカンバが湿原の外縁部のやや乾燥したヤチ坊主上に生育し、(住民の話として)6月に湿地化するといっているのです。つまりヤチカンバの生育地は湿原の外縁部のヤチ坊主ができる湿地だったのです。湿地は水位が高いから湿地になるのです。水位の高さゆえ樹木の侵入が制限され森林へ移行できなかったと考えるのが妥当でしょう。もしそのような条件がなければ、森林化によって陽樹の低木であるヤチカンバは光を奪われ絶滅していたに違いありません。したがって保全地域が湿原でなかったから水位は関係ないというのは皮相な見方です。乾燥化が進んだから根萌芽するヤマナラシやミヤコザサなどが侵入し、危機が訪れているのです。したがって、かつての湿地状態(湿原ではない)に戻すというのが理に適った保全策です。

 ヤチカンバ自生地の水位低下は北海道開発局が巨費を投じて行った排水事業が目的を完遂したことを意味します。しかしその副作用として、ヤチカンバを被圧しヤチカンバの生存に危機をもたらすミヤコザサやヤマナラシなどの侵入を引き起こしてしまったのです。したがって原因者である北海道開発局は生物多様性保全の見地からヤチカンバ自生地を保全するための対策に着手すべきなのです。


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Posted by 十勝自然保護協会 at 12:56│Comments(0)ヤチカンバ保護問題
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