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2022年12月27日

帯広市議会経済文教委員会に関する質問書への回答

 2022年11月5日付の「帯広市議会経済文教委員会における文化財担当者の発言ならびに文化財保護行政についての質問」に対する回答を掲載します。

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帯教百第125号
令和4年12月6日


十勝自然保護協会
共同代表 安藤 御史 様
     佐藤与志松 様
帯広市教育委員会
教育長 広瀬 容孝
(生涯学習部生涯学習文化室百年記念館担当)


帯広市議会経済文教委員会における文化財担当者の発言ならびに文化財行政についての質問(回答)

 日頃より本市の文化財行政にご支援ご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。2022年11月5日付で送付のありました件につきまして下記の通り回答いたします。



 文化財の保護につきましては、市民や有識者のご意見を幅広くうかがいながら、できるだけ多くの市民が納得される施策の実施に向け取り組んでまいりたいと考えておりますので、貴会におきましてもご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
 個別のご質問につきましては、別紙に記します。

別紙
1について
 貴会は長く自然史に関する学術調査や研究をもとに活動されてきたと承知しており、学術書なども容易に読解されていると拝察いたします。答弁の旨は、要望書受理後の令和2年10月30日にご来館された際お伝えはしましたが、令和3年6月1日帯教百第56号での回答のうち、「文化財の価値や範囲が明確になっていること等、適切に評価することが可能な条件が整えられているかどうか」を吟味しつつ、要望文及び根拠とされた紀要の内容を比較いただければご理解いただけるものと存じます。なお、地名に関しましては提唱者の『十勝アイヌ語地名手帳』(2008年 制作協力北海道新聞社出版局)のうち、「第6章帯広空港のある『似平』は十勝坊主」などからも改めてご検討いただきたく存じます。

2について
 帯広市民のご意見がさまざまであることは、令和4年6月2日の文化財審議委員会や同年2月18日に質問された議員のご見解などからもうかがえますので、令和3年6月1日付け帯教百第56号の貴会への回答中、「とくに重要であるとの納得が多くの市民から得られるものであること」でご理解いただける内容と存じます。

3について
 仮の名前とした件につきましては、紀要の引用文献としても掲載されている山田忍(1959)先生の「野地坊主と十勝坊主について(北海道におけるPatterned Groundに関する研究第1報)」『日本土壌肥料学雑誌第30巻第2号』でご理解いただけるものと存じます。公式の名前に関する箇所につきましては、アースハンモックが学術用語として広く認知されている名前であるということを踏まえたもので、小疇尚先生たちの認識に沿った理解です。ただし、答弁者はこの種の文化財の専門家ではありませんので、すべてを網羅できていないことは承知しており、それ故に管見の限りとさせていただきました。細部につきましては、後述の【付記】にてご理解いただきますようお願いします。
 また、質問された議員は、審議の過程や貴会の陳情書の添付資料などにより一定の知識は習得されており、確認の意味でのご質問と認識しておりますので、この答弁で詳細を説明する必要はなく、またご指摘の部分が審議に重大な影響を与えたり誤解を得たりするものではなかったと存じます。答弁は簡潔さを求められておりますが、道外事情につきましては、貴会陳情書の資料として添付されている紀要の「はじめに」や新聞記事などと同程度の内容と存じます。

4について
 文化財審議委員会では、諮問とは別にさまざまな文化財について議論していただくことをお願いしているところであり、審議委員の皆様が合意されれば他に優先事項がない限り文化財への理解を深めていただく場を設けることに努めたいと存じます。

5について
 文化財の情報に関しては、事前にご連絡をいただき、話し合いの機会を持つことがほとんどです。貴会からの要望の際、回答の要求や期限の設定などのご提示はありませんでしたが、礼を欠くとのご意見につきましては不慣れな対応によるものであり、ご寛容いただきたく存じます。一方の団体につきましても手交の際に回答の要求などのご提示がなかったことによるものですが、そのことに関しましては夫々にお考えがあってのことと存じます。また、HPからの提供はこれまでにありません。
 なお、貴会が他2団体の当時の事情をどの程度ご存じなのかは承知しておりませんが、このうちの1団体につきましては、現在の所管とは長くお付き合いをさせていただいており、当時の代表並びに現代表とも幾度か面談の機会はありましたが、この件に関する事後の要求は一切なく、貴会とは異なるご理解だったと認識しています。一方の団体につきましてはご連絡が以降ありませんが、要望書には「・・・十分に時間をかけてご検討される様に要望します」とありますので、状況に大きな乖離がないことによる静観と拝察しています。
 貴会におかれましては要望書提出後の令和2年10月30日に来館された際にも回答などの要求がありませんでしたので、上記1団体と同様面談内容でご理解をいただいたものと考えていました。質問書はその後郵送されてきましたので、それに対する回答により代替させていただけるものと認識した次第でございます。

6について
 アースハンモック(十勝坊主)につきましては、空港敷地内を含め現在も研究者により調査が継続していることを承知しており、紀要刊行(2020)後の短い期間におきましても理解の更新を必要とする成果があったように伺っています。当該敷地内の文化財に関する今後の学術的評価につきましては、調査研究の結果並びにそれに対する研究者間の議論を踏まえたうえでの検討が必要と考えています。文化財の評価は一般的に、定着を見定めるための時間という審査も必要だということをご理解いただきたく存じます。

【付記】
 学術的な用語を新しく命名する際には、一般的に対象物の特徴や属性を明らかにして定義付けをするとともに先行事例の検証や体系的研究を参照し、各学術分野の命名のルールに基づいて行われるものと承知しています。
 十勝坊主の研究史を振り返る際の文献として引用されることの多い山田忍 (1959)「野地坊主と十勝坊主について (北海道におけるPatterned Groundに 関する研究第1報)」『日本土壌肥料学雑誌第30巻第2号』では、「筆者が十勝で初めて見出したので、これに十勝坊主と名付けておいた・・・」とされ、「いまだ不明の点も少なくないが (中略)取敢えず研究成果について報告する」と続けています。また「ふくれ上がり様」のものを「北海道では俗に坊主と名付けているので、筆者も十勝で初めて発見したので、十勝坊主との名称を与えたが (以下省略)」とも記されています。さらに考察にあたる項目では「Patterned Groundはその種類も多くその分類、命名法などについても統一した見解はない」と記されており、山田先生は当時、Patterned Groundの一種である十勝坊主については在地の命名の慣習に従ったもので学術的なルールによるものでないとの認識があり、研究を進める上での便宜的な命名(仮称)だったと理解されます。
 共同研究者である田村昇市(1960)報告「粗粒火山灰土に見出される構造上について」『日本農芸化学会北海道支部、日本土壌肥料学会北海道支部、北海道農芸化学協会合同学術講演会講演要旨』では、苫小牧市発見の類似のものを十勝坊主ではなく樽前坊主と命名し、その後の論文「粗粒火山灰地に見出される構造上について―土壌凍結地帯における火山灰性土の特性に関する研究 (第3報)―」『日本土壌学肥料雑誌第34巻第3号』(1963)では「一応これに“樽前構造土"と名称を付した」とされています。細粒火山灰土地域で発見された道束の十勝坊主とは土壌条件が同一でないことから、「樽前坊主」あるいは「樽前構造土」とされたものですが、研究途上故に便宜的に命名されたことが理解できる内容であり、これらからも当時の先生方の考え方がうかがえます。
 1970年代以降、地形学研究の進展とともに、十勝坊主に代わって、earth hummock(アースハンモック)の使用が急増するようです(小疇ほか1974「ひがし北海道の化石周氷河現象とその古気候学的意義」『第四期研究第12巻第4号』など)。アースハンモックは芝塚あるいは凍結坊主と訳されていたようで(小疇ほか同上p178)、野上ほか(1978)「十勝平野における周氷河現象」『地団研専報 22十勝平野』では、十勝坊主を芝塚と言い換えて記述を進めています。著者名や発行所名などは省略しますが、他に「釧路市美濃のアースハンモック」『土木試験所月報316』(1979)、「北海道北部におけるEarth hummockについて」1979)、「根室半島におけるアースハンモックの形成環境と分布形態」『国士舘大学地理学報告6』(1997)、「別海町ケネヤウシュベツ川沿いのアースハンモック」『北海道地理73』(1999)、「北海道東部、別保別原野に分布するハンモック状地形」『地理学論集86』(2011)など、1990年代以降の道内関係の調査報告のほか、『寒冷地域の自然環境』(1984)、『北海道の自然史』(1991)、『日本の地形2北海道』(2003)、『第四紀学』(2003)や「寒冷地域の第四紀地表プロセスに関する研究動向と課題」『第四紀研究58巻第1号』(2019)などからも、地形学ではアースハンモックが学術用語として定着している状況が理解されます。答弁中の解説書とは、網羅的な記載となる事(辞)典の類ではなく、公式の名前とした現在の学術用語に即して使用されるこの種の概説書や総論などを想起して述べたものです。
 学術用語に関しましては、貴会主催の講演要旨(小疇 2018)では「学術用語ではアースハンモックとよばれ」と記述されているほか、小疇ほか(2017)による雪氷研究大会の発表要旨での「北海道東部の十勝平野には(中略)アースハンモック(通称:十勝坊主)が存在する」の記述、東京都市ヶ谷での講演要旨 (小疇 2019)「北海道十勝地方のアースハンモック」の記述、さらには2021年に行われた貴会主催の展示のパネルにある「地形学ではアースハンモックと呼ばれ」の記述などからも斟酌しています。
 尾形孝幸(2006)「日本に分布する小規模凍結マウンドの分類、定義とその問題点」『日本地理学会発表要旨集70』では、「地形学的な用語は、形成プロセスが同質か異質かを判定したうえで決定されなければならない。つまり、形成プロセスがよくわかっていない地形に対して用いられる用語は仮のものとみなされるべきであろう」とされており、現在でも定義と命名方法の組み合わせの重要性が理解されますが、仮の名前としたのはこの認識にも則しています。一方で尾形先生は「アースハンモック=十勝坊主」と解釈するのは再検討が必要とも記しており、この考えを支持する研究者においては、アースハンモックで括らずに仮(通)称として使用される可能性はあると存じます。
 文献確認に関する疑義につきましては、これら関係文献の探索と内容の理解に努めているところであり、上記の説明にてご理解いただきますようお願いいたします。なお、貴会例示の『地形学辞典』(二宮書店 初版1981)や『地学事典』(平凡社 初版1970代)などは出版年が古いこともあり、当方の認識との相違がどのようなものであるかは分かりませんが、新版(1994)の地学事典につきましては、アースハンモックで説明がまとめられていると承知しています。


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Posted by 十勝自然保護協会 at 15:09│Comments(0)アースハンモックの保全
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