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2012年07月14日

佐幌岳のスキー場開発中止を求める要望書を提出

 佐幌岳北斜面でのナキウサギの生息確認をうけて、北海道自然保護連合・サホロリゾート開発問題協議会・ナキウサギふぁんくらぶは、6月29日付で北海道知事にスキー場造成の中止をもとめる下記の要望書を提出しました。

佐幌岳の開発中止とナキウサギ生息地保全を求める要望書

一 佐幌岳の北斜面でエゾナキウサギの生息を確認
 佐幌岳では1987 年に東斜面の標高760m付近で、1991 年に北斜面の標高850m付近でエゾナキウサギの生息地が発見されていたが、今回の加森観光株式会社(以下、加森観光という)による調査により、佐幌岳山頂から250m北東の地点に岩塊堆積地のあることが明らかになった。ここは、加森観光によりスキーコースとリフトの設置が計画されているところである。
 そこで私たちは、この岩塊堆積地において調査を行ってきた。その結果、2012年3 月には巨大な岩塊近くでエゾナキウサギの可能性のある足跡(別紙・写真1)を発見し、まだ積雪の残る5 月にはエゾナキウサギの採餌痕(ハナヒリノキの噛み切り跡)(写真2)とエゾナキウサギによる小枝の貯食(一時的あるいは断片的貯食)(写真3)を複数の岩穴で多数、確認した。
 そして先日、6 月24 日には、エゾナキウサギによる多数の採餌痕(ハナヒリノキなど)(写真18~20)、13 カ所以上で新しい貯食(マイヅルソウの葉、シダなど)(写真4~16)、1 カ所で古い貯食(写真17)を確認した。
 以上により、この岩塊堆積地一帯において、エゾナキウサギが周年生息して
いることは明らかである。
 なお、加森観光は、私たちの調査を報じた新聞記事(北海道新聞2012 年3月30 日付帯広十勝版)にもとづき、4 月19、20 日に調査を行ったが痕跡を発見できなかったとのことである(6 月14 日の面談における米安道環境計画担当課の発言)が、雪が残る森林内の岩塊堆積地における調査であるから、痕跡を確認できなかったことをもって生息を否定することは極めて恣意的な結論である。

二 造成計画地はエゾナキウサギにとって重要な生息地
 この岩塊堆積地は、これまで(1987 年と1991 年)に確認されていた岩塊堆積地よりも面積が大きく、エゾナキウサギの複数のつがいの生息が可能な規模であることから、佐幌岳におけるエゾナキウサギのコア的生息地であるといえる。
 北海道におけるエゾナキウサギの分布は、1991 年に北海道が刊行した「野生動物分布等実態調査報告書 ナキウサギ生態等調査報告書」により概要が明らかになった。これによると、ナキウサギの分布域は大きく3 つに分けられる(別添資料参照)。すなわち、大雪山系・北見山地、日高山脈そして夕張山地である。このうち大雪山系・北見山地と日高山脈の生息地を結ぶのが佐幌岳の生息地である。もし佐幌岳での生息地が撹乱により失われると、大雪山系・北見山地のナキウサギ個体群と日高山脈のナキウサギ個体群との遺伝子交流が大きく損なわれると考えられる。したがって、北海道におけるエゾナキウサギの保護を考えるうえからも、佐幌岳の岩塊堆積地を保全することは極めて重要である。

三 北海道の許可手続きの重大な問題点
 北海道は、この5 月末に特定開発行為を許可したが、この手続きには以下の重大な瑕疵があり、許可は無効である。

1 知事の付帯意見の無視
 かつて佐幌岳一帯のリゾート開発が進められたときに、北斜面の開発は中止され、H4(1992)年の北海道環境影響評価条例に基づく狩勝高原サホロリゾート開発事業の環境影響評価において、知事は事業者に以下の意見を出した。
 付帯意見1.エゾナキウサギについては、事業予定地域周辺にその供給源となる生息地のある可能性があるため、今後も調査を実施するとともに、その生息地に影響を与えることのないよう努力すること。
 私たちは、昨年11 月17 日付で「サホロリゾート北斜面開発(スキー場拡張)の『知事意見』無視についての申入れ」を知事に送付し、北斜面スキーコースの開発区域コース1、コース2 でガレ場を確認した事実は上記知事の付帯意見1に該当するため、これを尊重するよう申し入れをした。
 これに対し、貴職からは、米安環境計画担当課長名で、「付帯意見のナキウサギの件についてでありますが、環境影響評価は事業者に自主的な環境配慮の取組みを促すものであり、当該案件に係る審査意見書については、旧環境影響評価条例(S53)に基づき平成4 年に事業者あてに発出し手続きは終了しております」(2011 年11 月25 日付文書)との回答があった。
 しかし、これは事実に反するものであった。
 北海道は、2010 年1 月7 日に加森観光に対し「平成4 年の知事意見に対応した事業者の考え方及び既に講じた措置を報告書に記載し提出すること」と指導していたのである(同日付「環境影響評価業務相談票」)。
 私たちの指摘に対して、米安課長は、森林管理局から知事意見のことを指摘された加森観光が相談にきて指導した、と道が指導した事実を認めた。
知事の付帯意見は、佐幌岳におけるエゾナキウサギの生息地の重要性を十分認識したうえで、事業予定地のみならず、予定地域周辺にその供給源となる生息地のある可能性があるため、今後も調査を実施するとともに、その生息地に影響を与えることのないよう努力することを求めるという、知事の高い見識と強い意志が明記されたものである。
 したがって、平成4年に手続きが終了するものではなく、この地域での開発に際しては、周辺も含めて調査を詳細に行う必要があり、生息地に影響を与える開発は一切許されない。
 それゆえ、道の環境推進課は2010 年度に何度も加森観光に対して「指導」を行っているのである。
 環境推進課は、2010 年1 月に加森観光が北海道森林管理局へ提出した「2008年 十勝北海道サホロリゾート北斜面開発行為に伴う森林施業のあり方調査調査報告書」(以下、「調査報告書」)において北斜面のエゾナキウサギ生息地を隠蔽している」と私たちから指摘されていたにも関わらず(2010 年4 月12 日・新得町における住民説明会)、この報告書を容認し、エゾナキウサギの生息環境の悪化についての検討をすることなく、特定開発行為の手続きを進めたのである。
 これは知事の付帯意見の無視と言わざるを得ない。
 今回、私たちの調査により北斜面のエゾナキウサギの生息が明らかになった以上、知事の付帯意見を尊重し、エゾナキウサギの生息に重大な影響を及ぼす本事業の中止を加森観光に求める必要がある。

2 特定開発行為における許可基準の無視
 「北海道自然環境等保全条例」30 条第3 項(1)は、「特定の開発行為をする土地の区域に所在する森林が、当該区域及びその周辺の地域の環境の保全上又は水源のかん養上必要な限度において、適正に保存されるように措置されていること」を定めている。
 「当該区域及びその周辺の地域の環境の保全上」とは、「例えば、貴重な動植物の生息・生育環境、大切な自然景観、人の生活に重要な憩いの場を悪化させるおそれがある開発行為」である(北海道のホームページ)。
 エゾナキウサギが地史的、生態的側面だけから見ても学術的に貴重な動物であることは、北海道自らが認めていることである(上記「エゾナキウサギ生態等調査報告書」)。その生息地において森林を伐採しスキーコースを造成することは、エゾナキウサギの生息環境を著しく悪化させる開発行為であるから、許可基準(1)に反する。
 また上記条例30 条第7 項に基づく北海道特定開発行為審査会が2011 年に3回開催されているが、この中で、知事意見やエゾナキウサギのガレ場が存在していることについては一切資料が配布されておらず、審査委員に知らされていない。
 このように、エゾナキウサギの生息地への影響の検討が全くなされていない許可手続きには重大な瑕疵があり、許可は無効である。

3 加森観光の調査報告書の重大な問題点
 前記「調査報告書」は、加森観光が北海道森林管理局の指示に基づき調査し、提出したものであるが、加森観光は北海道にも提出している。この「調査報告書」は、道の特定開発行為の許可の検討のための資料になっていると考えられる。仮に、道が資料として一顧だにしていないとすると、知事の付帯意見及び許可基準の無視といえ、重大な手続き上の瑕疵である。
 その内容に重大な事実の隠蔽があり、調査内容も極めて不十分であったことは、私たちがこれまでに再三指摘してきたことであるが、ここに再度詳述する。

 (1) 事実の隠蔽
 加森観光は新得町において4 月12 日に住民説明会、5 月17 日に意見交換会を行ったが、この席上、十勝自然保護協会から調査報告書に佐幌岳北斜面のエゾナキウサギの生息の事実が全くふれられていないと問いただされたのに対し、環境調査を行った株式会社森林環境リアライズの担当者は、佐幌岳北斜面でエゾナキウサギの生息が確認されていたことは知っていたと証言した。つまり知っていながら調査報告書では佐幌岳北斜面のエゾナキウサギの生息についてふれなかったのである。開発を計画している北斜面においてエゾナキウサギの生息が確認されていたという重大な事実を隠蔽し、森林管理局に報告が行われていた。その後、十勝自然保護協会などの要請により森林管理局が指導して、加森観光は北斜面からエゾナキウサギの生息が確認されていると修正した調査報告書を提出した。
 この調査報告書にはまだ重大な欠陥がある。加森観光は、佐幌岳山頂から北西へ1.4km ほどのところにある「佐幌岳北西尾根ガレ場」でエゾナキウサギの調査を行ったが、生息や生息痕跡を確認できなかったと調査報告書に記述している。しかし、ここから900mほど北に位置し、1993 年にエゾナキウサギの貯食や糞が発見された「佐幌岳北方尾根1036mピーク」では調査を行わなかったのである。ここでエゾナキウサギの貯食や糞が発見されていたことは、彼らが調査報告書で引用した「北海道中央部、佐幌岳とその周辺におけるエゾナキウ
サギの生息地」(ひがし大雪博物館友の会エゾナキウサギ調査グループ 2000)に書かれていることである。しかもこの地点は彼らの調査範囲に含まれているのである。
 このように加森観光は、調査では有力な生息地である佐幌岳北方尾根1036mピークでの生息調査を避け、調査報告書では開発計画地ある佐幌岳北斜面における過去の生息事実を隠していた。

 (2) 不十分な調査内容
 加森観光の「調査報告書」71 頁によると、各ガレ場は(北斜面コース沿いガレ場以外)、わずか1 日しか調査されていない。北斜面ガレ場の調査は2009 年7 月2 日、北斜面コース沿いガレ場は2009年11 月5、6 日に調査されただけである。それにも関わらず、生息を否定することは、およそ科学的とは言い難い。エゾナキウサギが生息していることの確認であれば一日の調査で判明することもあるが、生息していないことの確認は、通常一日の調査では困難である。特に森林帯のガレ場での調査は鳴き声、目視が困難である。また、生息痕跡の内容も季節によって異なることが多く、例えば貯食は秋から初冬にかけて多い。
以上から複数日、複数の季節、複数の年数にわたる調査が求められる。特に北斜面のような過去にエゾナキウサギが生息していたことが明らかであり、生息環境としても適している場所での調査には慎重さが求められる。
 現に私たちは北斜面における今年3 月、5 月、6 月の3 回の調査によって、エゾナキウサギの生息痕跡を複数確認した。
 以上、加森観光の調査は、極めて不十分であるばかりか意図的に事実を隠蔽しようとするものであり、信憑性に欠ける。繰り返しになるが、このような報告書を前提にした許可手続きは無効である。

四 結 論
 佐幌岳はエゾナキウサギにとって重要な生息地であり、佐幌岳北斜面におけるスキー場造成はエゾナキウサギの生存に深刻な影響を与える可能性が高い。
 私たちは、知事に、知事の付帯意見を尊重し、すでに出した特定開発行為の許可を撤回し、佐幌岳の開発を中止することを強く要望する。
 加森観光は、昨年12 月27 日の私たちのとの話合いの席で、私たちが知事の付帯意見を無視するのかと問うたのに対し、加森観光の担当者は知事の付帯意見を無視しませんと明言したことを申し添えておく。


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Posted by 十勝自然保護協会 at 11:44│Comments(0)サホロスキー場問題
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