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2009年07月12日
問題の多いナキウサギ論文
われわれがナキウサギ生息地の破壊になるとして問題にしているペンケニコロ川のナキウサギのことにふれた論文があるというので、知人からコピーをもらい読みました。その論文とは、樋口輔三郎・谷津繁芳・石山浩一・山本英一著「十勝岳泥流地域のナキウサギ(Ochotona hyperborea yesoensis)の生息状況」です。この論文は、2006年に学術雑誌(森林野生動物研究会誌,32:20-26)に掲載されたのですが、曖昧な用語など論文として多くの問題を抱えていますので、問題点を指摘しておきます。
この論文ではエゾナキウサギの生息地を表す言葉がいろいろ出てきます。岩場、ガレ場、溶岩堆積地(帯)、非溶岩堆積地、岩石堆積地、露岩(地帯)などです。そして「岩場,ガレ場の風穴」「溶岩堆積地[ガレ場] 」「岩石堆積地・ガレ場からはなれた」などと使われています。露岩については、砂礫により岩石がうずまり、頭の残された状態のもので、傾斜の緩いところに多く見られる、と定義していますが、他の用語には説明がありません。
そこで当人たちに代わり解説すると、「岩場」というのは、「溶岩堆積地」と「岩石堆積地」の両方(注:後者は溶岩起源ではない岩石を指すようです)を、「ガレ場」というのは、岩塊が崩落して堆積したところを指しているようです。ただし、溶岩や岩石には大きさの概念がありませんから、溶岩岩塊堆積地や岩塊堆積地にすべきです。
岩塊堆積地の岩塊と岩塊の間の空隙を風穴と小穴に分け、風穴とは、「岩石堆積内の穴の深さが10cm以上のもの」で、小穴とは、「10cm足らずの浅く閉塞しているもの」だといいます。風穴という用語は、穴の入口で空気の吹き出し現象が確認されたところを指すべきですが、彼らは、そのようなことに関係なく単に穴の深さが10cm以上のものを風穴としています。このような用語の使い方は風穴研究者にとってなははだ迷惑なことでしょう。
「火山噴火による溶岩流(泥流)の溶岩堆積地に生息」との記述がありますが、これは「溶岩流の自破砕溶岩堆積地に生息」とし、泥流を削除すべきです。また、英文タイトルでは「泥流地域」がthe lava area(溶岩地域)になっているのはどうしたことでしょう。溶岩流=泥流と認識しているのかもしれません。
「道内には岩石堆積地・ガレ場からはなれた、ガレ場でない環境での生息が報告されている。たとえば、・・・ペンケニコロ川、パンケニコロ川流域の峰筋の露岩地帯や、・・・・猿留川流域の露岩地帯である。」と露岩地帯という用語が使われていますが、露岩についての彼らの定義は、前述のように「砂礫により岩石がうずまり、頭の残された状態のもの」でした。しかしペンケニコロ川やパンケニコロ川、猿留川の岩塊堆積地の地形は、崖錐や地すべり地形ですから、彼らの定義する「露岩」ではありません。
彼らは、小疇尚ほか(2003)を引用して「地中には永久凍土があるような岩石堆積地帯にのみ生息している」としていますが、南日高の幌満や豊似湖のように永久凍土の確認されていない岩塊堆積地にもナキウサギは生息しています。
このように著者たちは、地質学や地形学に精通していないため適当に言葉をつかっています。科学論文は、きちんと定義された用語に基づいて記述されなければ、科学論文たりえません。彼らはいわゆるアセスメント会社の関係者です。普段は個人名を出すことなく行政から受託した調査報告書を執筆していますので、調査や取りまとめ能力が社会的に問われることなどありません。今回のように校閲も受けずに公表されると彼らのレベルが丸見えとなります。その意味では、この論文は貴重な資料となっています。ところで、この原稿を受領した編集者は、文章の意味を理解できたのでしょうか。この論文は、執筆者のみならず編集者の責任を問うものとなっています。
最後に、たんなる思い違いではすまされない問題点を指摘します。
「痕跡がみあたらず,・・・・長く生息が出来ると思われない」としているペンケニコロ川・パンケニコロ川流域、猿留川流域において、われわれは調査のたびに貯食などの痕跡を確認しています。
ペンケニコロ川・パンケニコロ川流域では、1999年から帯広開発建設部がダム建設(後に頭首工に変更)のために環境調査を行なっていますが、調査のたびにナキウサギの生息が確認されています。また猿留川流域では、林野庁が大規模林道の建設のためにアセスメント調査を行っています。この調査でも痕跡が確認されています。とりわけ登沢の岩塊堆積地は重要な生息地と位置づけられており、一時的な生息地ではありません。
著者らはこれらの調査に携わっているにも関わらず「アセスメントの関係で再度確認調査をおこなったが、痕跡はみあたらず」としているはどうしたことでしょう。データを無視あるいは隠蔽して議論をすることなど科学の世界では許されないことです。この点に関しては、雑誌発行者である森林野生動物研究会の見解を問わなければならないでしょう。
この論文ではエゾナキウサギの生息地を表す言葉がいろいろ出てきます。岩場、ガレ場、溶岩堆積地(帯)、非溶岩堆積地、岩石堆積地、露岩(地帯)などです。そして「岩場,ガレ場の風穴」「溶岩堆積地[ガレ場] 」「岩石堆積地・ガレ場からはなれた」などと使われています。露岩については、砂礫により岩石がうずまり、頭の残された状態のもので、傾斜の緩いところに多く見られる、と定義していますが、他の用語には説明がありません。
そこで当人たちに代わり解説すると、「岩場」というのは、「溶岩堆積地」と「岩石堆積地」の両方(注:後者は溶岩起源ではない岩石を指すようです)を、「ガレ場」というのは、岩塊が崩落して堆積したところを指しているようです。ただし、溶岩や岩石には大きさの概念がありませんから、溶岩岩塊堆積地や岩塊堆積地にすべきです。
岩塊堆積地の岩塊と岩塊の間の空隙を風穴と小穴に分け、風穴とは、「岩石堆積内の穴の深さが10cm以上のもの」で、小穴とは、「10cm足らずの浅く閉塞しているもの」だといいます。風穴という用語は、穴の入口で空気の吹き出し現象が確認されたところを指すべきですが、彼らは、そのようなことに関係なく単に穴の深さが10cm以上のものを風穴としています。このような用語の使い方は風穴研究者にとってなははだ迷惑なことでしょう。
「火山噴火による溶岩流(泥流)の溶岩堆積地に生息」との記述がありますが、これは「溶岩流の自破砕溶岩堆積地に生息」とし、泥流を削除すべきです。また、英文タイトルでは「泥流地域」がthe lava area(溶岩地域)になっているのはどうしたことでしょう。溶岩流=泥流と認識しているのかもしれません。
「道内には岩石堆積地・ガレ場からはなれた、ガレ場でない環境での生息が報告されている。たとえば、・・・ペンケニコロ川、パンケニコロ川流域の峰筋の露岩地帯や、・・・・猿留川流域の露岩地帯である。」と露岩地帯という用語が使われていますが、露岩についての彼らの定義は、前述のように「砂礫により岩石がうずまり、頭の残された状態のもの」でした。しかしペンケニコロ川やパンケニコロ川、猿留川の岩塊堆積地の地形は、崖錐や地すべり地形ですから、彼らの定義する「露岩」ではありません。
彼らは、小疇尚ほか(2003)を引用して「地中には永久凍土があるような岩石堆積地帯にのみ生息している」としていますが、南日高の幌満や豊似湖のように永久凍土の確認されていない岩塊堆積地にもナキウサギは生息しています。
このように著者たちは、地質学や地形学に精通していないため適当に言葉をつかっています。科学論文は、きちんと定義された用語に基づいて記述されなければ、科学論文たりえません。彼らはいわゆるアセスメント会社の関係者です。普段は個人名を出すことなく行政から受託した調査報告書を執筆していますので、調査や取りまとめ能力が社会的に問われることなどありません。今回のように校閲も受けずに公表されると彼らのレベルが丸見えとなります。その意味では、この論文は貴重な資料となっています。ところで、この原稿を受領した編集者は、文章の意味を理解できたのでしょうか。この論文は、執筆者のみならず編集者の責任を問うものとなっています。
最後に、たんなる思い違いではすまされない問題点を指摘します。
「痕跡がみあたらず,・・・・長く生息が出来ると思われない」としているペンケニコロ川・パンケニコロ川流域、猿留川流域において、われわれは調査のたびに貯食などの痕跡を確認しています。
ペンケニコロ川・パンケニコロ川流域では、1999年から帯広開発建設部がダム建設(後に頭首工に変更)のために環境調査を行なっていますが、調査のたびにナキウサギの生息が確認されています。また猿留川流域では、林野庁が大規模林道の建設のためにアセスメント調査を行っています。この調査でも痕跡が確認されています。とりわけ登沢の岩塊堆積地は重要な生息地と位置づけられており、一時的な生息地ではありません。
著者らはこれらの調査に携わっているにも関わらず「アセスメントの関係で再度確認調査をおこなったが、痕跡はみあたらず」としているはどうしたことでしょう。データを無視あるいは隠蔽して議論をすることなど科学の世界では許されないことです。この点に関しては、雑誌発行者である森林野生動物研究会の見解を問わなければならないでしょう。
ペンケニコロの導水管工事を視察
美蔓地区のかんがい事業で再質問書を送付
帯広開発建設部の回答漏れに対する申入れ
業者のデータ操作に対する研究者と行政機関の責任
劣化進む帯広開発建設部
美蔓地区のナキウサギ調査で質問書を送付
美蔓地区のかんがい事業で再質問書を送付
帯広開発建設部の回答漏れに対する申入れ
業者のデータ操作に対する研究者と行政機関の責任
劣化進む帯広開発建設部
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Posted by 十勝自然保護協会 at 16:29│Comments(0)
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