十勝自然保護協会 活動速報 › 美蔓ダム › 帯広開発建設部の回答漏れに対する申入れ
2010年02月17日
帯広開発建設部の回答漏れに対する申入れ
昨年11月30日の説明会でわれわれが質問しこれに回答できなかった点について、昨年12月24日付けで帯広開発建設部から回答が寄せられましたが、肝心な点に答えていませんので下記の申入れをしました。
北海道開発局長 様
帯広開発建設部長 様
昨年11月30日の説明会において我々が質問し、その場で回答できなかった問題について、平成21年12月24日付「美蔓地区の国営かんがい排水事業に係わる環境調査について(回答)」(帯広開発建設部農業開発第1課長佐藤善文名)により回答がありました。しかし、下記に指摘するとおり回答漏れがありますので、速やかに回答願います。
1.我々は、昨年11月30日の説明会において、P4地点にはナキウサギの痕跡がなかったとしてロジスティク回帰分析した畜大論文(「大雪山系低標高域におけるエゾナキウサギによる小規模岩塊地の利用」のこと)の結果を導水路報告書(「美蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」のこと)にそのまま貼り付けたのはなぜか、と質問しました。これに対し、帯広開発建設部農業開発第1課の職員はわからないので今、説明できないと答えました。したがって、貴職はこの宿題となっていた問題にきちんと答える責任があったのですが、今回の回答文書では全くふれられていません。これは「美蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」の信憑性に関わる重大な問題ですので、事実関係を明らかにしてください。
2.我々は、昨年11月30日の説明会において、ペンケニコロ川における絶滅危惧ⅠB類のサケ科魚類の「絶滅」原因について質問しましたが、答えられませんでした。貴職の調査以前に生息が確認されていた本種を、貴職の調査に基づいて絶滅と判断するのであれば、その判断の客観性を担保するために絶滅原因について言及しなければなりません。そうでなければ開発行為の妨げになる絶滅危惧種が恣意的に絶滅扱いにされてしまう事態すら生じかねません。この河川における本種の絶滅原因について、物事を客観的に判断できる見識をもった専門家に聞き取るなどして、絶滅原因についての貴職の見解を明らかにしてください。
なお、一点目に関し質問の意味を十分理解してもらうため、以下に当会のブログの記事(2009年12月8日付)を転載します。
業者のデータ操作に対する研究者と行政機関の責任
11月30日夜の帯広開発建設部の呆れた回答 は、「平成19年度美蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」の問題点を十分理解できないことに起因するのかもしれない(いやとぼけているだけかもしれないが)。そこで、ブログの読者にも理解できるよう、ていねいに経過をたどって問題点を明らかにしてみよう。
1.2008年3月までに(あるいはそれ以降?)、林業土木コンサルタンツ北海道支所および株式会社森林環境リアライズにより作成された「平成19年度美 蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」(以下「導水路報告書」)が、発注者である帯広開発建設部に納入された。この導水路報告書によると「本調査実施に あたっては、国立大学法人帯広畜産大学環境総合科学講座野生動物管理学研究室との共同調査として、調査データの統合を行い統計解析して岩塊地規模等の利用 形態および季節変化などについて評価した」(111頁)とし、その結果を109・110頁に掲載した(表3.27~3.31)。
2.2009年3月に発行された「森林野生動物研究会誌」34号に、帯広畜産大学野生動物管理学研究室の佐藤周平・柳川久、株式会社森林環境リアライズの 石山浩一・谷津繁芳の各氏の連名で「大雪山系低標高域におけるエゾナキウサギによる小規模岩塊地の利用」(以下「畜大論文」)と題した論文が掲載された。 この論文の34・35頁に、ロジスティク回帰分析の結果として導水路報告書の109・110頁の表と全く同じもの(表4~8)を掲載した。そして、この論文の末尾には「本研究を行うにあたりデータの公表に関して御許可いただいた北海道開発局の高橋雄一氏ほか関係各位に厚くお礼申し上げます」との謝辞を載せた。
3.両者、すなわち導水路報告書と畜大論文の表が同じであるというのは、「共同調査として、調査データの統合を行い統計解析し」たというのであるから当然である。ところが、である。われわれが導水路報告書と畜大論文を丹念に読んだところ、両者の観察データには違いがあることが判明したのだ。導水路報告書では、P4地点において2007年5月15日に新しいオシダの茎と葉がそれぞれ30本、24枚確認されていた(63頁)。これに対し、畜大論文ではP4地点 において2007年5月に痕跡がまったく確認されていなかったのである(33頁)。
4.異なるデータを入力して、ロジスティク回帰分析の結果が同じになることなどありえない。このことは、株式会社森林環境リアライズの石山浩一・谷津繁芳 の両氏が、P4地点にはナキウサギの痕跡がなかったとしてロジスティク回帰分析された畜大論文の結果をそのまま導水路報告書に貼り付けたということを意味する。
注)畜大論文の方が導水路報告書より後に発行されているが、畜大論文の原型は、第一著者の佐藤氏の2007年度卒業論文(2008年2月に提出か)であった。したがって、ロジスティク回帰分析結果は導水路報告書の完成前に出ていたのである。
5.そこで、導水路報告書と畜大論文の両方にかかわっている株式会社森林環境リアライズの石山浩一・谷津繁芳の両氏の責任を問いただすため、十勝自然保護 協会とナキウサギふぁんくらぶは、10月9日付で発注者である帯広開発建設部に「美蔓地区の国営かんがい排水事業に係わるナキウサギ調査の信憑性および調査員の適性についての質問書」を提出した。
6.これに対し11月30日夜、帯広開発建設部は「なお、質問書にあります『大雪山系低標高域におけるエゾナキウサギによる小規模岩塊地の利用』と題した論文については、研究者の名前で発表されたものであり回答する立場にないことをご理解願います」と、能天気に農業開発第1課佐藤善文課長名の書面を読み上げた。この日の話合いの中で、P4地点にはナキウサギの痕跡がなかったとしてロジスティク回帰分析した畜大論文の結果を導水路報告書にそのまま貼り付けたのはなぜか、との質問に対し、わからないので今、説明できないと答えた。
7. 12月2日、北海道新聞は十勝版で「ナキウサギ再調査要求」「説明能力の不足露呈」との見出しをつけ、6段ぬきで11月30日の話合いの様子を伝えた。さらに新聞社の取材に対し、帯広開発建設部は「報告書の信ぴょう性に問題はないと思っている。報告書と論文は解析はおなじだがデータの取扱い方が違うだけ。 必要があればコンサルにも確認した上であらためて回答したい」と、また、環境コンサルタント会社は「ある時期にはナキウサギの痕跡と考えられるものがあったが、別の時期には違う動物の痕跡と考えられるものもあったため、畜大との論文では痕跡地に加えなかった」とコメントした。
コンサルタント会社のモラル崩壊
こうして経過をたどってくると、12月2日の北海道新聞に掲載された環境コンサルタント会社のコメントの重大性が理解できる。環境コンサルタント会社、 すなわち森林環境リアライズは、開発建設部から受託した導水路報告書にはP4地点のナキウサギの痕跡を加えたが、帯広畜産大学との共同研究にはP4地点の ナキウサギの痕跡を加えなかった、というのである。つまり、恣意的に取捨選択したデータを共同研究者に提供して、ロジスティク回帰分析をしてもらい、それ をこともあろうに導水路報告書に掲載したのである。客観的事実を記載しなければならない報告書に、恣意的なデータに基づく分析結果を掲載することが、社会 を欺く行為であることを理解していないのだ。こんなコメントをだせるのは、これに類したことが常態化していて感覚が麻痺しているのかもしれない。
研究者としての責任
帯広畜産大学の佐藤・柳川両氏は、森林環境リアライズが恣意的に取捨選択したデータを使って分析し、科学論文として学術雑誌に発表してしまったのである。もしデータ操作の事実を知らなかったのなら、欺かれた側として同情されるべきかもしれない。しかし、このようにデータを恣意的に取捨選択したものが科 学論文に値しないことは論を待たない。研究者の責任において、全容を明らかにし、論文の訂正ないし抹消を掲載誌の編集責任者に申し出るべきである。
行政機関としての責任
「データの取扱い方が違うだけ」などいう帯広開発建設部のコメントは、科学論文におけるデータのもつ重要性に無知であることを自ら証明しているようなものである。このコメントからは、彼らにとって事業の遂行こそがすべてであり、環境調査など付随的なものにすぎないとの本音も読み取れる。
第三者が読んでもわかるように、ていねいに説明してきたので、帯広開発建設部農業開発第1課の課員も、「研究者の名前で発表されたものであり回答する立場にない」などということが、いかに無責任であるか気付いたであろう。公金による業務を受注した委託業者がデータを操作し、社会を欺く行為をしたのである。発注した公的機関としての責任を自覚し、厳正に対処すべきである。
十勝自然保護協会 会長 安藤 御史 様
ナキクサギふあんくらぶ 代表 市川 利美 様
平成21年11月30日の説明会における質問に関して、下記のとおり回答いたします。
1 ナキウサギの生息痕跡について
平成19年度「美蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」におけるナキウサギの生息状況の確認については、痕跡調査等による生息状況調査を実施し、何れの調査地点においても、鳴き声、糞及び生体については確認されず、岩穴に引き込まれた特徴的な食跡のみを確認しております。当方の調査業務は、ナキウサギ等への配慮を目的としており、ナキウサギの生息痕跡として可能性があるものは、すべて「痕跡あり」として業務報告書に取りまとめ、その配慮としての対策を検討する基礎データに利用しています。
一方、質問にありました「大雪山系低標高域におけるエゾナキウサギによる小規模岩塊地の利用」と題した論文については、研究者の名前で発表されたものであり回答する立場にありませんが、科学論文という立場から、地域(十勝岳低標高部)のナキウサギの一生息環境を解析するため、疑わしきデータは全て排除して、確信の持てるデータのみで解析していると聞いております。
当方の報告書と大学の論文における痕跡地点数の違いは、調査結果の判断基準の違いによるものと考えております。
なお、畜大論文に当方の業務を請け負ったアセスメント会社職員が共同著者として名を連ねているのは、当方が調査を実施した地域外の調査部分について関与していたためであると聞いております。
また、当方の調査の結果、貴協会ご指摘のP4地点を含めた、ナキウサギ生息の痕跡のある地点について、有識者からの助言を頂き、①生息痕跡が確認された箇所を極力避ける線形の見直し②立木伐採を極力少なくし、日照条件が変化すると考えられる範囲には、遮光シートで日よけを設置③推進工法箇所において新技術を採用して中間立て坑を廃止し、地表部の改変を抑制④推進工法立て坑箇所は、生息箇所から100m以上離す等の対策を取っていることは、今回の説明会でご説明したとおりです。
今後とも、環境との調和への配慮のため、環境調査を継続すると共に、有識者から助言を頂き事業実施に反映させていく所存です。
2 ナキウサギ調査における湿度データと考察について
平成20年度「美蔓地区取水導水路施工計画検討業務報告書」における湿度調査データが100%を示すことについては、一般にはあり得ないとのご指摘でしたが、気体を冷却すると、その中に含まれる水蒸気量は変わらなくても、相対湿度は増加し、ある温度になると相対湿度は100%となり飽和に達します。当該調査地点は、その状態と考えられ観測機器でもそのような数値となっています。
また、「平成20年度調査報告書で、ナキウサギの分散期は8月以降なのに5~7月の調査結果でナキウサギが定着していないと結論づけており疑問だ。」とのご質問ですが、平成19年度までの調査に於いて、5~11月までペンケニコロ川流域の4地点とペンケナイ川の4地点で実施した痕跡調査等の結果を踏まえ、定着した個体群は存在せず、分散個体によって一時的に利用される範囲と判断したところです。なお、平成20年度調査においては、過年度まで調査結果を踏まえ、7月後半以降の現地調査では生息痕跡の確認が少ないことから、5~7月に集中的に調査を実施しております。
3 魚類調査について
美蔓地区における魚類調査については、取水河川のペンケニコロ川において採捕調査等を実施し、その調査結果を考慮し、魚類の生息環境へ配慮を行っております。
そのうち、河川への直接的な構造物となる取水施設の構造については、魚類の降下遡上の障害となる落差を解消し、更に、取水により取水施設内に魚類の引き込みが無くなるよう、河床下に有孔管を埋設し浸透した河川水を集めて取水する「集水理渠方式」の取水施設を設置することとしています。
先般の説明会でも説明させていただきましたが、今後も、環境との調和への配慮のため、魚類調査を実施し、これまでに確認されていない魚種が確認された場合には、有識者から助言等をいただき、事業実施に反映していきたいと考えております。
4 希少種の情報について
国営土地改良事業の実施における「環境との調和への配慮」について、情報収集・意見交換を行う場として学識経験者等から構成される「環境情報協議会」を開催しています。公開している資料(環境情報協議会)は、広域的な周辺情報としているため、環境省RDB、北海道RDB種についても公開しております。
一方、流域を対象とした限定された調査範囲の情報では、希少種の扱いは慎重に行っているところです。
5 工事の再開について
以上のように、ご指摘を受けた点を改めて確認した結果、今回の工事が生態系に大きな影響を与えるものではないと確認したところです。
なお、当方といたしましては、地元農家の方々からの強い要望もあり、工事を再開させていただきますが、その際にも、より一層の環境配慮に努めながら工事を実施してまいる所存でございます。
ご理解のほど宜しくお願い申し上げます。
*******************
2010年2月16日
北海道開発局長 様
帯広開発建設部長 様
十勝自然保護協会会長 安藤 御史
ナキウサギふぁんくらぶ代表 市川 利美
ナキウサギふぁんくらぶ代表 市川 利美
説明会(2090年11月30日開催)での質問に対する回答漏れについて
昨年11月30日の説明会において我々が質問し、その場で回答できなかった問題について、平成21年12月24日付「美蔓地区の国営かんがい排水事業に係わる環境調査について(回答)」(帯広開発建設部農業開発第1課長佐藤善文名)により回答がありました。しかし、下記に指摘するとおり回答漏れがありますので、速やかに回答願います。
1.我々は、昨年11月30日の説明会において、P4地点にはナキウサギの痕跡がなかったとしてロジスティク回帰分析した畜大論文(「大雪山系低標高域におけるエゾナキウサギによる小規模岩塊地の利用」のこと)の結果を導水路報告書(「美蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」のこと)にそのまま貼り付けたのはなぜか、と質問しました。これに対し、帯広開発建設部農業開発第1課の職員はわからないので今、説明できないと答えました。したがって、貴職はこの宿題となっていた問題にきちんと答える責任があったのですが、今回の回答文書では全くふれられていません。これは「美蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」の信憑性に関わる重大な問題ですので、事実関係を明らかにしてください。
2.我々は、昨年11月30日の説明会において、ペンケニコロ川における絶滅危惧ⅠB類のサケ科魚類の「絶滅」原因について質問しましたが、答えられませんでした。貴職の調査以前に生息が確認されていた本種を、貴職の調査に基づいて絶滅と判断するのであれば、その判断の客観性を担保するために絶滅原因について言及しなければなりません。そうでなければ開発行為の妨げになる絶滅危惧種が恣意的に絶滅扱いにされてしまう事態すら生じかねません。この河川における本種の絶滅原因について、物事を客観的に判断できる見識をもった専門家に聞き取るなどして、絶滅原因についての貴職の見解を明らかにしてください。
なお、一点目に関し質問の意味を十分理解してもらうため、以下に当会のブログの記事(2009年12月8日付)を転載します。
業者のデータ操作に対する研究者と行政機関の責任
11月30日夜の帯広開発建設部の呆れた回答 は、「平成19年度美蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」の問題点を十分理解できないことに起因するのかもしれない(いやとぼけているだけかもしれないが)。そこで、ブログの読者にも理解できるよう、ていねいに経過をたどって問題点を明らかにしてみよう。
1.2008年3月までに(あるいはそれ以降?)、林業土木コンサルタンツ北海道支所および株式会社森林環境リアライズにより作成された「平成19年度美 蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」(以下「導水路報告書」)が、発注者である帯広開発建設部に納入された。この導水路報告書によると「本調査実施に あたっては、国立大学法人帯広畜産大学環境総合科学講座野生動物管理学研究室との共同調査として、調査データの統合を行い統計解析して岩塊地規模等の利用 形態および季節変化などについて評価した」(111頁)とし、その結果を109・110頁に掲載した(表3.27~3.31)。
2.2009年3月に発行された「森林野生動物研究会誌」34号に、帯広畜産大学野生動物管理学研究室の佐藤周平・柳川久、株式会社森林環境リアライズの 石山浩一・谷津繁芳の各氏の連名で「大雪山系低標高域におけるエゾナキウサギによる小規模岩塊地の利用」(以下「畜大論文」)と題した論文が掲載された。 この論文の34・35頁に、ロジスティク回帰分析の結果として導水路報告書の109・110頁の表と全く同じもの(表4~8)を掲載した。そして、この論文の末尾には「本研究を行うにあたりデータの公表に関して御許可いただいた北海道開発局の高橋雄一氏ほか関係各位に厚くお礼申し上げます」との謝辞を載せた。
3.両者、すなわち導水路報告書と畜大論文の表が同じであるというのは、「共同調査として、調査データの統合を行い統計解析し」たというのであるから当然である。ところが、である。われわれが導水路報告書と畜大論文を丹念に読んだところ、両者の観察データには違いがあることが判明したのだ。導水路報告書では、P4地点において2007年5月15日に新しいオシダの茎と葉がそれぞれ30本、24枚確認されていた(63頁)。これに対し、畜大論文ではP4地点 において2007年5月に痕跡がまったく確認されていなかったのである(33頁)。
4.異なるデータを入力して、ロジスティク回帰分析の結果が同じになることなどありえない。このことは、株式会社森林環境リアライズの石山浩一・谷津繁芳 の両氏が、P4地点にはナキウサギの痕跡がなかったとしてロジスティク回帰分析された畜大論文の結果をそのまま導水路報告書に貼り付けたということを意味する。
注)畜大論文の方が導水路報告書より後に発行されているが、畜大論文の原型は、第一著者の佐藤氏の2007年度卒業論文(2008年2月に提出か)であった。したがって、ロジスティク回帰分析結果は導水路報告書の完成前に出ていたのである。
5.そこで、導水路報告書と畜大論文の両方にかかわっている株式会社森林環境リアライズの石山浩一・谷津繁芳の両氏の責任を問いただすため、十勝自然保護 協会とナキウサギふぁんくらぶは、10月9日付で発注者である帯広開発建設部に「美蔓地区の国営かんがい排水事業に係わるナキウサギ調査の信憑性および調査員の適性についての質問書」を提出した。
6.これに対し11月30日夜、帯広開発建設部は「なお、質問書にあります『大雪山系低標高域におけるエゾナキウサギによる小規模岩塊地の利用』と題した論文については、研究者の名前で発表されたものであり回答する立場にないことをご理解願います」と、能天気に農業開発第1課佐藤善文課長名の書面を読み上げた。この日の話合いの中で、P4地点にはナキウサギの痕跡がなかったとしてロジスティク回帰分析した畜大論文の結果を導水路報告書にそのまま貼り付けたのはなぜか、との質問に対し、わからないので今、説明できないと答えた。
7. 12月2日、北海道新聞は十勝版で「ナキウサギ再調査要求」「説明能力の不足露呈」との見出しをつけ、6段ぬきで11月30日の話合いの様子を伝えた。さらに新聞社の取材に対し、帯広開発建設部は「報告書の信ぴょう性に問題はないと思っている。報告書と論文は解析はおなじだがデータの取扱い方が違うだけ。 必要があればコンサルにも確認した上であらためて回答したい」と、また、環境コンサルタント会社は「ある時期にはナキウサギの痕跡と考えられるものがあったが、別の時期には違う動物の痕跡と考えられるものもあったため、畜大との論文では痕跡地に加えなかった」とコメントした。
コンサルタント会社のモラル崩壊
こうして経過をたどってくると、12月2日の北海道新聞に掲載された環境コンサルタント会社のコメントの重大性が理解できる。環境コンサルタント会社、 すなわち森林環境リアライズは、開発建設部から受託した導水路報告書にはP4地点のナキウサギの痕跡を加えたが、帯広畜産大学との共同研究にはP4地点の ナキウサギの痕跡を加えなかった、というのである。つまり、恣意的に取捨選択したデータを共同研究者に提供して、ロジスティク回帰分析をしてもらい、それ をこともあろうに導水路報告書に掲載したのである。客観的事実を記載しなければならない報告書に、恣意的なデータに基づく分析結果を掲載することが、社会 を欺く行為であることを理解していないのだ。こんなコメントをだせるのは、これに類したことが常態化していて感覚が麻痺しているのかもしれない。
研究者としての責任
帯広畜産大学の佐藤・柳川両氏は、森林環境リアライズが恣意的に取捨選択したデータを使って分析し、科学論文として学術雑誌に発表してしまったのである。もしデータ操作の事実を知らなかったのなら、欺かれた側として同情されるべきかもしれない。しかし、このようにデータを恣意的に取捨選択したものが科 学論文に値しないことは論を待たない。研究者の責任において、全容を明らかにし、論文の訂正ないし抹消を掲載誌の編集責任者に申し出るべきである。
行政機関としての責任
「データの取扱い方が違うだけ」などいう帯広開発建設部のコメントは、科学論文におけるデータのもつ重要性に無知であることを自ら証明しているようなものである。このコメントからは、彼らにとって事業の遂行こそがすべてであり、環境調査など付随的なものにすぎないとの本音も読み取れる。
第三者が読んでもわかるように、ていねいに説明してきたので、帯広開発建設部農業開発第1課の課員も、「研究者の名前で発表されたものであり回答する立場にない」などということが、いかに無責任であるか気付いたであろう。公金による業務を受注した委託業者がデータを操作し、社会を欺く行為をしたのである。発注した公的機関としての責任を自覚し、厳正に対処すべきである。
****************
平成21年12月24日
十勝自然保護協会 会長 安藤 御史 様
ナキクサギふあんくらぶ 代表 市川 利美 様
帯広開発建設部
農業開発第1課長 佐藤 善文
農業開発第1課長 佐藤 善文
美蔓地区の国営かんがい排水事業に係わる環境調査について(回答)
平成21年11月30日の説明会における質問に関して、下記のとおり回答いたします。
記
1 ナキウサギの生息痕跡について
平成19年度「美蔓地区導水路国有林使用検討業務報告書」におけるナキウサギの生息状況の確認については、痕跡調査等による生息状況調査を実施し、何れの調査地点においても、鳴き声、糞及び生体については確認されず、岩穴に引き込まれた特徴的な食跡のみを確認しております。当方の調査業務は、ナキウサギ等への配慮を目的としており、ナキウサギの生息痕跡として可能性があるものは、すべて「痕跡あり」として業務報告書に取りまとめ、その配慮としての対策を検討する基礎データに利用しています。
一方、質問にありました「大雪山系低標高域におけるエゾナキウサギによる小規模岩塊地の利用」と題した論文については、研究者の名前で発表されたものであり回答する立場にありませんが、科学論文という立場から、地域(十勝岳低標高部)のナキウサギの一生息環境を解析するため、疑わしきデータは全て排除して、確信の持てるデータのみで解析していると聞いております。
当方の報告書と大学の論文における痕跡地点数の違いは、調査結果の判断基準の違いによるものと考えております。
なお、畜大論文に当方の業務を請け負ったアセスメント会社職員が共同著者として名を連ねているのは、当方が調査を実施した地域外の調査部分について関与していたためであると聞いております。
また、当方の調査の結果、貴協会ご指摘のP4地点を含めた、ナキウサギ生息の痕跡のある地点について、有識者からの助言を頂き、①生息痕跡が確認された箇所を極力避ける線形の見直し②立木伐採を極力少なくし、日照条件が変化すると考えられる範囲には、遮光シートで日よけを設置③推進工法箇所において新技術を採用して中間立て坑を廃止し、地表部の改変を抑制④推進工法立て坑箇所は、生息箇所から100m以上離す等の対策を取っていることは、今回の説明会でご説明したとおりです。
今後とも、環境との調和への配慮のため、環境調査を継続すると共に、有識者から助言を頂き事業実施に反映させていく所存です。
2 ナキウサギ調査における湿度データと考察について
平成20年度「美蔓地区取水導水路施工計画検討業務報告書」における湿度調査データが100%を示すことについては、一般にはあり得ないとのご指摘でしたが、気体を冷却すると、その中に含まれる水蒸気量は変わらなくても、相対湿度は増加し、ある温度になると相対湿度は100%となり飽和に達します。当該調査地点は、その状態と考えられ観測機器でもそのような数値となっています。
また、「平成20年度調査報告書で、ナキウサギの分散期は8月以降なのに5~7月の調査結果でナキウサギが定着していないと結論づけており疑問だ。」とのご質問ですが、平成19年度までの調査に於いて、5~11月までペンケニコロ川流域の4地点とペンケナイ川の4地点で実施した痕跡調査等の結果を踏まえ、定着した個体群は存在せず、分散個体によって一時的に利用される範囲と判断したところです。なお、平成20年度調査においては、過年度まで調査結果を踏まえ、7月後半以降の現地調査では生息痕跡の確認が少ないことから、5~7月に集中的に調査を実施しております。
3 魚類調査について
美蔓地区における魚類調査については、取水河川のペンケニコロ川において採捕調査等を実施し、その調査結果を考慮し、魚類の生息環境へ配慮を行っております。
そのうち、河川への直接的な構造物となる取水施設の構造については、魚類の降下遡上の障害となる落差を解消し、更に、取水により取水施設内に魚類の引き込みが無くなるよう、河床下に有孔管を埋設し浸透した河川水を集めて取水する「集水理渠方式」の取水施設を設置することとしています。
先般の説明会でも説明させていただきましたが、今後も、環境との調和への配慮のため、魚類調査を実施し、これまでに確認されていない魚種が確認された場合には、有識者から助言等をいただき、事業実施に反映していきたいと考えております。
4 希少種の情報について
国営土地改良事業の実施における「環境との調和への配慮」について、情報収集・意見交換を行う場として学識経験者等から構成される「環境情報協議会」を開催しています。公開している資料(環境情報協議会)は、広域的な周辺情報としているため、環境省RDB、北海道RDB種についても公開しております。
一方、流域を対象とした限定された調査範囲の情報では、希少種の扱いは慎重に行っているところです。
5 工事の再開について
以上のように、ご指摘を受けた点を改めて確認した結果、今回の工事が生態系に大きな影響を与えるものではないと確認したところです。
なお、当方といたしましては、地元農家の方々からの強い要望もあり、工事を再開させていただきますが、その際にも、より一層の環境配慮に努めながら工事を実施してまいる所存でございます。
ご理解のほど宜しくお願い申し上げます。
ペンケニコロの導水管工事を視察
美蔓地区のかんがい事業で再質問書を送付
業者のデータ操作に対する研究者と行政機関の責任
劣化進む帯広開発建設部
美蔓地区のナキウサギ調査で質問書を送付
美蔓地区のかんがい事業で農水相に要望書を送付
美蔓地区のかんがい事業で再質問書を送付
業者のデータ操作に対する研究者と行政機関の責任
劣化進む帯広開発建設部
美蔓地区のナキウサギ調査で質問書を送付
美蔓地区のかんがい事業で農水相に要望書を送付
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