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十勝自然保護協会 活動速報 › 美蔓ダム › エゾナキウサギ生息地の不正確な記述

2009年10月08日

エゾナキウサギ生息地の不正確な記述

 2005年にわが国で開催されたIMC9(第9回国際哺乳類学会議)を記念し、最新知見を盛り込んだガイドブック と銘打って“The Wild Mammals of Japan”が今年7月に刊行された。

 ナキウサギをめぐっては、いまも生息地破壊が止まらない状況にある。したがって、ナキウサギの生息地を保全する上で、実態を反映した記述が求められるのだが、このガイドブックの記述は最新の知見に基づくものとなっていない。

 ナキウサギのhabitat(生息地)の項は、次のように記述されている(原文は英語)。
「北海道でキタナキウサギは、標高400mから2290mまで(Kawamichi 1969)の標高800mより上の主に高山帯に出現する(Ishi 2005)。キタナキウサギは、岩の斜面を織り交ぜた蘚苔類がはえる森林のなかの岩石地帯に住む(Kawamichi 1969、Inukai and Shimakura 1930)。」

 川道氏の40年前の論文を引用し、エゾナキウサギの生息標高を400mからとしているのだが、エゾナキウサギが海岸近くの標高50mから生息し、標高400m未満のところにも多くの生息地があることは、ナキウサギの保護に関心をもつものならよく知っていることである。

 いうまでもなく低標高地は人間の生産活動が盛んなところである。かつてはナキウサギが低標高地に生息しないという思い込みのも手伝って、道路建設などによりナキウサギの生息地が消滅してしまったところも少なくない。そして、現在も低標高の生息地である日高山脈南部で大規模林道建設が、大雪山系南部のペンケニコロ川で灌漑施設建設が進められようとしている。したがって、低標高の生息地を無視することは、生息地破壊者には都合のよいことである。
 
 また、標高2290mまで生息するとされているのだが、2290mとは旭岳の頂上である。ここにエゾナキウサギが生息しないことは、ナキウサギウオッチャーにはよく知られている。無論、論文を引用された川道氏も旭岳山頂にエゾナキウサギがいないことを知っており、論文ではnear 2290mと記述している。したがって、最新知見を盛り込むならエゾナキウサギの生息標高は50mから2230m(白雲岳山頂)としなければならない。

 ついでに、気のついたことにもふれておく。エゾナキウサギは「主に高山帯に出現する」としながら「森林のなかの岩石地帯に住む」と文を続けているが、これでは、主要な生息地である高山帯のすみかの様子がわからない。また、鹿追町の岩の貯まった生息地、すなわち然別火山群の岩塊が積み重なる斜面(岩塊斜面)の写真が掲載され、ここをrocky bankと記述しているのだが、自然界で岩塊が貯まった状態は地形学的に注目すべき現象であり、地形学用語を尊重しblock slope(岩塊斜面)とすべきである。


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Posted by 十勝自然保護協会 at 14:35│Comments(0)美蔓ダム
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