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十勝自然保護協会 活動速報 › 河川・ダム › シマフクロウを消してしまった北電の環境影響評価

2012年08月10日

シマフクロウを消してしまった北電の環境影響評価

 北海道の主催により、8月7日、新得町で新岩松発電所建設工事環境影響評価準備書の説明会が開催された。質疑をとおして、事業者である北海道電力の環境影響評価の意図が見えてきた。それは徹底したシマフクロウ隠しであった。

 この環境影響評価対象地域では、かつて世界ラリー選手権が行われていた。このため当会はシマフクロウをはじめとする野生動物に悪影響を与えるとしてラリーの中止を求めて運動した。つまりこの岩松地域はシマフクロウの生息地として、自然保護に関わる市民や環境行政関係者には良く知られているところである。したがって、シマフクロウの生息地で発破を含む大掛かりな土木建築工事をするというのが、今回の環境影響評価の核心である。

 ところが、昨年、北電が縦覧に供した環境影響評価方法書では、事業計画の立案に際して行った環境への配慮に野生生物への配慮の項を設けなかったのである。環境影響評価の核心であるシマフクロウの存在を隠して方法書を作成したというわけである。

 では、北電はシマフクロウの存在を知らなかったのであろうか。断じてノーである。なぜなら、北電から相談を受けた北海道環境推進課の職員が昨年7月8日に開催された環境影響評価審議会で次のように述べているからである。

 今回の事業及び規模(注:新岩松発電所建設のこと)は道条例の第二種事業に該当するものなので、アセス手続きが必要か、必要でないか判断を行うことになっています。ただし、今回は事業者である北海道電力が自ら、判定を受けずにアセス手続を行うこととなりました。これは、既存文献等の調査からこの水系には希少動植物の生息の記録があったこと、企業の社会的責任から判断したことによるものと聞いています。(第117回北海道環境影響評価審議会議事録より)

 説明会でこのことを質したところ、まともに答えようとしなかったが、本音の一端を語った。道の判定を受けると、時間がかかるので自主的にアセス手続きをすることにしたというのだ。北海道はここにシマフクロウがいることを知っているから判定の結果アセスをさせられる、と読んだということだろう。

 今回縦覧された準備書では「地域を特徴づける注目種・群集」の上位性としてオジロワシとクマタカを選定しているのだが、シマフクロウは選定されていない。そこで説明会でその理由を質問したところ、北電は調査対象範囲では確認されなかったからと回答した。

 これには、このあたりのことをよく知るほかの出席者も驚いたようで、調査対象範囲でシマフクロウの声を何度も聞いていると指摘した。これに対し北電は、2011年3月から2012年2月までの調査では確認されなかったと回答した。とうとう北電は準備書で岩松にはシマフクロウがもはや存在しないことにしてしまったのである。

 準備書の7-2-115ページ以下に「重要な鳥類」として猛禽類などの記載がある。クマタカについては、調査箇所での確認状況として、「平成23年3月~平成24年1月(平成23年6月を除く)に岩松ダムからくったり湖にかけての広い範囲で118例が確認された。とまり行動などが確認された。対象事業実施区域以外で営巣木が確認されており、・・・・・・調査対象範囲には営巣地は確認されなかった。」(7-2-120ページ)とことこまかに書き、オオタカなどほかの猛禽類についても「調査対象範囲に営巣地は確認されなかった」などと書いて、確認位置図も掲載していている。

 しかし「シマフクロウについては種の保護のため、現地確認状況は準備書(別冊)に記載する」とだけ書いているのである(ただし、この別冊なるものは一般道民には非公開)。調査対象範囲で確認されなかったということすら記述していない。北海道の指針は、「盗掘、密猟又は繁殖阻害等が懸念されるような特に希少な生物種については、その生育(生息)環境が維持されるよう、種の生態等を勘案して存在場所が特定されないよう慎重な配慮が求められる」としているのであって、調査対象範囲で確認されていないと書くことまで制限してはいない。行政からの「慎重な配慮」を逆手にとって、シマフクロウに関するいっさいの情報を隠し、一般道民が知りえないのをいいことに事を運んでいるのだ。もし説明会で質問しなければ、調査対象範囲にはシマフクロウはもはやいないものとして、アセス手続きが進んでいくことになったであろう。

 シマフクロウを工事前からいなかったことにすれば、たとえ工事によってシマフクロウがいなくなっても責任を問われることもないとでも踏んでいるのだろうか。近くに活断層が存在する可能性があるにもかかわらず、知らぬふりをして泊原発を建設したのもこの電力会社だった。不都合なことを隠蔽する性分が染み付いているようだ。シマフクロウ隠しの意図のもと作成されたこの準備書およびアセス手続きに大きな欠陥があることはもはや隠蔽のしようがない。


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Posted by 十勝自然保護協会 at 17:56│Comments(0)河川・ダム
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