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2015年09月07日

居辺川砂防事業見直しを! 十勝総合振興局に申入れ

 今年3月30日帯広建設管理部は、当初の計画案を一部変更した居辺川砂防事業計画を当会に説明しました。しかしこの計画には少なくない問題点があることから当会は6回にわたり書面で質問しました。その結果、この計画が居辺川の河川特性を十分理解した上での治水対策でないことがあきらかとなりました。このため計画の見直しを求め8月17日付で、下記の申入れ書を十勝総合振興局長宛てに提出しました。

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居辺川砂防事業計画についての申入れ


 当会は、2012年3月に帯広建設管理部から居辺川砂防事業計画案について説明を受けた。この計画案には12基の床固工と2基の遊砂工がもりこまれており、過剰な砂防対策であることから、帯広建設管理部と2度の話し合いをもち、3度の申入れを行ってきた。2015年3月に至り、帯広建設管理部は当初の計画案を少し手直しした計画を当会に示した。
 このなかで、2012年3月には示されなかった、全体施設配置計画の目的が初めて提示された。つまり「1)H15年のような被災を防ぐ2)柏葉橋上流の河床露岩区間における河床高を維持し、砂礫河床に戻す3)朝陽橋~上流居辺橋(区間Ⅱ)の河床土砂堆積緩和のため、砂防区間からの土砂流出を低減する」の3点である。また、当初計画していた12基の床固工を半分に減らしてシミュレーションした結果も提示した。
 この見直し計画について疑問点が多くあることから、当会は6度にわたり帯広建設管理部に質問を行うなどして検討を加えてきた。その結果、この計画は居辺川の河川特性を十分踏まえた治水対策になっていないとの結論に達した。

 当会が居辺川の河川特性についてどのように理解しているか明らかにしておく。
 1.山地に水源をもたない居辺川の砂礫供給源は、上流部の古期扇状地礫層であり、この扇状地礫層から居辺川への砂礫供給箇所は限られている。つまり将来にわたり限りなく多量の砂礫が河道に供給される可能性は低い。
 2.居辺川は、水源近くでは傾斜のゆるやかな段丘面上を流れるが、標高291.4m付近(北緯43度15分17.61秒、東経143度23分44.83秒)で活断層上に到達し穿入蛇行incised meanderとなる(図1)。穿入蛇行は標高232.6m付近(北緯43度13分41.50秒、東経143度22分20.17秒)まで続く(図2)が、ここから下流では谷底が広がり自由蛇行free meanderとなる。そして標高178.9m付近(北緯43度11分13.08秒、東経143度22分20.32秒)で、微高地形によって流路が阻まれるため大きく曲流し、ここから再び穿入蛇行となる(図3)。
 3.居辺川の両岸には十勝平野東縁起震断層の2本の活断層がある(図4)。つまり居辺川は断層活動地帯を流下する河川である。標高178.9m付近で再び穿入蛇行となるのは、ここから下流が断層活動によって隆起している可能性がある。なお、この曲流部の右岸の微高地形は沢からの土砂の流入も寄与しているようである。
 4.このような地形条件のため、居辺川は標高178.9m地点付近で流速を減じ、運搬してきた砂礫を上流側に堆積する。図5に示すように、曲流部の上流側が砂礫川原の広い河道となるのに対し、下流側が砂礫川原の乏しい狭い河道となっているのはこのような事情による。つまり居辺川の砂礫移動を理解するうえで、この標高178.9m地点付近が重要な意味を持つ。

居辺川砂防事業見直しを! 十勝総合振興局に申入れ
図1.居辺川の穿入蛇行開始地点(北緯43度15分17.61秒、東経143度23分44.83秒、標高291.4m付近)〈国土地理院ホームページより〉

居辺川砂防事業見直しを! 十勝総合振興局に申入れ
図2.居辺川の自由蛇行開始地点(北緯43度13分41.50秒、東経143度22分20.17秒、標高232.6m付近)〈国土地理院ホームページより〉

居辺川砂防事業見直しを! 十勝総合振興局に申入れ
図3.居辺川の再穿入蛇行地点(北緯43度11分13.08秒、東経143度22分20.32秒、標高178.9m付近)〈国土地理院ホームページより〉

居辺川砂防事業見直しを! 十勝総合振興局に申入れ
図4.居辺川両岸の十勝平野東縁起震断層
https://gbank.gsj.jp/activefault/index_gmap.htmlより〉

居辺川砂防事業見直しを! 十勝総合振興局に申入れ
図5.曲流部(矢印)の上流側の広い河道と下流側の狭い河道〈国土地理院ホームページより〉

 居辺川の河川特性をこのように認識したうえで、貴職の見直し計画について当会の見解を述べる。
 「1)H15年のような被災を防ぐ」について
 これについては災害復旧事業により、旧東居辺小学校付近の護岸の強化、上流居辺橋の架け替えなどがなされており、すでに対策は講じられていると考える。
 「2)柏葉橋上流の河床露岩区間における河床高を維持し、砂礫河床に戻す」について
 穿入蛇行区間において、流入量が増大すると、激しい河床の洗掘がもたらされることは自明のことである。貴職の考えは6基の床固工で「河床高を維持し、砂礫河床に戻す」ということだが、東居辺橋を保護し下流右岸の河岸浸食を防止するという1号床固工については東居辺橋のすぐ上流の曲流部で水勢が弱まることから、床固工ではなく護岸工での対応を検討すべきである。
 9号床固工~12号床固工について「河道の自然蛇行の回復」を目的に掲げているが、ここは本来河道の狭い穿入蛇行区間であり、「河道の自然蛇行の回復」よりも河床低下の防止に主眼を置くべきところである。つまり、「河道の自然蛇行の回復」を目的に掲げる必要性は乏しい。ここでは豪雨によって激しい河床低下が生ずるであろうことは容易に想像される。しかし、床固工だけに頼るのは持続可能な河川管理とは言いかねる。登山道洗掘対策の基本である流れを集中させないとの考え方を参考に、明渠末端部分の流路幅を広げるとか明渠の出口を分岐させるなど洗掘の力を分散させることも検討されなければならない。貴職には持続可能な河川管理の在り方についてさらに知恵を絞ることを求めたい。
 「3)朝陽橋~上流居辺橋(区間Ⅱ)の河床土砂堆積緩和のため、砂防区間からの土砂流出を低減する」について
 2015年3月の説明によると、区間Ⅰ(上流居辺橋-精進橋間)は砂礫供給不足区間であり、区間Ⅱ(朝陽橋-上流居辺橋間)は砂礫供給過多区間である。区間Ⅰと区間Ⅱは、それぞれ穿入蛇行区間と自由蛇行区間にほぼ該当する。穿入蛇行は河道の砂礫を運び出すから穿入するのであり、自由蛇行は砂礫を河道に堆積させるから自由蛇行となる。したがって居辺川は元々、区間Ⅰの砂礫を区間Ⅱに堆積させてきたのである。1960年代以降、水源付近の段丘面上の森林が切り開かれ、農地に明渠・暗渠など排水施設が建設されたことにより掃流力が著しく増大した。このため区間Ⅰから区間Ⅱへの砂礫移動量は、過去とは比べ物にならないほど増加したと理解される。そして居辺川の特性として区間Ⅱの下流部に曲流部があることから、区間Ⅱに堆積した砂礫が流下せず、区間Ⅱに留まるということになっているのである。
 帯広建設管理部によると「道道居辺本別線の保護、居辺橋の保護、洪水時の土砂流出の調整・抑制」として遊砂工を提案しているが、これは木を見て森を見ずの類といわなければならない。山地に水源をもたない居辺川の砂礫供給源は、上流部の古期扇状地礫層であり、この扇状地礫層からの砂礫供給箇所は限られている。帯広建設管理部も、区間Ⅰは「山地や河岸の浸食に加え、上流からの土砂供給が少なく、区間に土砂がとどまらない」ところだと認めている。つまり区間Ⅱへの多量の土砂堆積が今後とも限りなく続くという可能性は低いのである。したがって、土砂堆積量を減らすための恒久施設である遊砂工は必須ではない。今しばらく居辺川の砂礫移動の特性を見極めるべきである。河道の土砂堆積量を減らすということであれば、利別川との合流点で行っているように砂礫を除去するという方法が検討されるべきである。無暗に河川横断構造物を造ることなく最適な治水方策を考えるというのが賢明な人間、ホモ・サピエンスのやることだと当会は考える。貴職にも更なる最適な治水方策の検討を期待したい。
 今回の砂防事業計画の対象になっていないが、居辺温泉付近から下流では著しい河床浸食が生じている。下流居辺橋のところの床固工もこの河床浸食に寄与していることは間違いない。ついては切り欠きを入れるなどの対策をとるよう貴職に要請する。


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Posted by 十勝自然保護協会 at 21:14│Comments(0)河川・ダム
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