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十勝自然保護協会 活動速報 › 森林伐採 › 「新たな森林環境政策」(素案)に対する意見

2009年05月01日

「新たな森林環境政策」(素案)に対する意見

北海道は「新たな森林環境政策」(素案)に対する意見を募集していましたが、当会の提出した意見を公開します。

1 新たな森林環境政策の必要性について
(「Ⅰ森林をめぐる現状と課題」、「Ⅱ新たな森林環境政策の必要性」、「Ⅲ新たな森林管理の仕組み」について)

「Ⅰ森林をめぐる現状と課題」について
 「国有林、道有林では、・・・・・公益的機能の発揮に重点を置いた森林づくりを進めています」と書いているが、実態は保安林に指定された天然林で過剰な伐採が行なわれて生態系が大きく破壊され、乱暴な伐採によって土壌が撹乱されて河川の生態系にも悪影響がでている。たとえば、えりもの道有林では受光伐の名目で皆伐が行なわれたことで「えりもの森裁判」が起こされ、これによってさまざまな違法伐採疑惑が明らかになってきたが、被告の北海道は真実に眼を背け疑惑の否定に終始している。また国有林でも上ノ国町のブナ林で違法伐採が行なわれたほか、大雪山国立公園の特別地域内で風倒木処理の名目で皆伐が行なわれて大きな問題となった。足寄町ではナキウサギの生息地が施業によって破壊された。このように公益的機能の発揮と逆行する施業が営々と行なわれている。大雪山国立公園の森林を上空から見れば、「国有林」で公益的機能の発揮に重点を置いた森林づくりが進められていたかどうかは、一目瞭然である。「国有天然林を、すべて林野庁より環境省へ移管する請願署名」が10万筆に迫ろうとしている現在、「国有林が公益的機能の発揮に重点を置いた森林づくりを進めています」という文言は、その現実認識の欠如ゆえに、日本の森林の未来を憂慮している人々の激しい反発を招くものであることを知るべきである。公正な視点から国有林の実態を直視し、収奪的林業のあやまちを謙虚に反省しなければ、道有林行政への信頼は得られないことをまず指摘しておく。
 「本道の過去20年間の台風等による災害発生」が図示されているが、説明不足であり、不適切である。なぜなら、災害発生件数は開発域の拡大との関連から検討されなければならないからである。
 「3森林づくりの課題」の一番目に、伐採面積が植林面積を上回っているから安定的な木材の供給体制を構築する必要があるとされている。つまり、今回の政策でいうところの「森林づくり」とは林業振興であることを示している。これまで環境を破壊しつづけてきた林業が環境政策に寄与できるとは信じがたいということを指摘しておく。
 【手入れが遅れている森林】については、5行190字あまりに句点が1個という悪文になっている。道民の立場を考えわかり易い文としなければならない。
 「重視すべき公益的機能を発揮させるための適切な整備を進める必要があります」としているが、意味不明であり、わかりやすく説明しなければならない。

「Ⅱ新たな森林環境政策の必要性」について
 「公益的機能の発揮に支障が生じる前に」は意味不明であり、具体的に説明しなければならない。

「Ⅲ新たな森林管理の仕組み」について
 「本道の豊かな森林環境を保全し」とあるが、放置された人工林間伐が豊かな森林環境保全とどのように結びつくのかはっきりと説明しなければならない。前述のように林業が豊かな森林環境を築いたという事実をわれわれは知らないからである。

2 新たな森林環境政策で進める取組について
 (「Ⅳ新たな森林環境政策の仕組み」の「2新たな森林環境政策の仕組み」の各項目について)

(1)人工林の間伐、無立木地への植林について
 対象森林である私有林について、所有者の人数や、個々の所有面積・規模などの統計が明らかでない。つまり、どのくらいの山林を所有する、何人くらいが、「政策」の直接の受益者なのかが不明である。法人所有の森林についても同様に不明である。
 「居住地や道路、河川周辺にある森林を対象」とのことだが、そのような森林がどこにどの程度あるのか、具体的に示さなければこの事業の適否を判断できない。
 スギ林業に習い高密度にカラマツを植栽してきたわけだが、成長をうながし、二酸化炭素の吸収を高めようとするなら間伐が欠かせないのは当然である。今後は高密度植栽を見直さなければならない。
 「無立木地」などと一般に馴染みのない用語を使っているが、なぜ無立木地になったかをまず明らかにしなければならない。その上でそこにカラマツあるいはトドマツを植栽することが適切なのか、問わなければならない。
 カラマツやトドマツなどの単一樹種から成る人工林は、病害虫や風倒被害に弱いなどさまざまな問題点を抱えている。また、森林の公益的機能とは地球温暖化問題に関わる二酸化炭素の吸収の役割だけではない。災害の防止、生物の生息場所となるほか、地域住民の憩いの場を提供するなど様々な機能がある。森林環境政策を考えるにあたっては、このような様々な公益的機能を考える必要があり、従来の単一樹種の一斉林からなる人工林から、より天然林に近づけた森林での木材生産を行なうようにしなければならない。したがって、立地によっては潜在自然植生を復元すべきである。
 森林所有者に対し、協定違反があった場合には、税投入相当額の返還を義務付けるとのことだが、投じた時間もエネルギー(=二酸化炭素の排出)も取り返せないし、インフレが進行したなら税投入相当額は過小なものとなる。また、公的資金の投入を受けて林地の価値が上昇した時点で転売し、収益を上げるなどの行為も考えられる。したがって、個人所有林にこのような制度を導入することは不適切であるということを指摘しておく。

(2)1人30本植樹運動について
 単に樹をたくさん植えればいいというものではない。何のためにどのような森づくりをするかという目的やビジョンを明確にしたうえで、森林生態系を重視し、正しい知識のもとに森づくりを目指すべきである。「生態学的混播法」とか「かみねっこん」などいかがわしい緑化をしてはならない。なお、1人30本などと植樹の目標本数を掲げるのは愚かしいことであり、やめるべきである。
 屋上緑化や壁面緑化などに植栽した場合の植物の所有権について説明の必要がある。

(3)地域に根ざした森林環境保全活動について
 ここで謳っているのは自然破壊をいかに食い止めるかという問題である。現在の自然破壊の大半は、生態系や生物多様性の保全を無視した過剰な森林伐採、道路やダム建設など無駄な公共事業によってもたらされている。まずはこのような伐採や公共事業を行なってきたことを行政が反省し、改善するとともに、自然破壊をともなうこれらの工事を即刻中止すべきである。とりわけ人目につかない山奥で進められる、大規模な自然破壊をともなう「山のみち」(大規模林道)に、これ以上の道税を支出することは止めるべきである。
 「里山をはじめとする道民生活に身近な森林の荒廃」とあるが、「里山」の大半はカラマツなどの人工林と皆伐後放置された二次林であり、「森林の荒廃」がどういう状態をさしているのか理解しかねる。具体的に荒廃状態を説明しなければならない。

(4)森林づくりに対する道民意識の醸成について
 北海道には百数十年前には多様な生物を育む豊かな天然林があったが、その大半は急速に失われてしまった。私達は失われた本来の森林を復元することを目指さなければならない。そのためには、植樹や木育だけでは不十分である。里山など身近なところに本来の森林を復元させるような自然の理にかなった森づくりをし、時には天然林の生物多様性を垣間見る体験などで道民の関心を喚起することも、生物多様性条約の締約国である我が国の自治体の責務である。
 森林ボランティア団体の活動を支援するのに、市町村と連携しなければならないというのは理解しかねる。行政がボランティア団体をコントロールしようと意図しているならば愚かなことである。

3 新たな森林環境政策の財源と(仮称)森林環境税制度の導入について
(「Ⅳ新たな森林環境政策の仕組み」の「3多様な財源の活用」及び「4財源需用額」、「Ⅴ(仮称)森林環境税制度の概要 」の各項目について)

 「公益的機能の発揮に支障が生じる前に整備を進めるためには」とあるが、意味不明であり、具体的に説明すべきである。
事業費を記載しているが、その積算根拠を示さなければ、額の妥当性を評価できない。
 年間100万本の植樹・育樹活動とあるが、これは何年実施することを想定しているのか、不明である。
 「新たな森林環境政策は、森林の公益的機能の維持・増進を目的としている」と謳ってはいるものの、「その恩恵はすべての道民が等しく享受します」という実感を得ることは、このままでは困難であり、不公平感がぬぐえない。
 事業費111億円の70%にあたる77.6億円が私有林の間伐・植栽に使われるということである。個人の財産である私有林の整備のため、環境問題にかこつけて税金を徴収するのは道民を愚弄するものである。森林整備に税金を投入するのであるから、従来のように補助金などを当てるべきである。もしどうしても再提案したいというのなら、政策の実態に合わせて「私有林振興税」と銘打って提案し、道民の判断を仰ぐべきである。

4 新たな森林環境政策の透明性の確保する仕組みについて
 前項と同じ

5 その他
 すでに多くの問題点を指摘してきたが、改めて十勝自然保護協会の見解を述べる。
北海道の天然林が木材生産のために乱伐されたことで、かけがえのない原生的な森林がほとんど失われてしまった。森林環境政策を考えるなら、まずこのような林業の過ちを反省しなければならない。また、木材生産のためには人工林は必要不可欠であるが、これまでのような単一樹種による人工林のあり方の見直しも必要である。さらに、林業が低迷した原因を把握して建て直しを図らない限り、林業の発展は望めない。これらを棚にあげた森林環境政策は、行政の失敗を道民に押し付けることにほかならない。対処療法的に新たな税金徴収によって問題解決を図ろうとするのは筋違いである。よって当会は今回の提案に反対する。
 過去を反省できない民族に未来は語れないといった賢者の言葉をかみしめ、林業の未来を考えてもらいたい。


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Posted by 十勝自然保護協会 at 14:33│Comments(0)森林伐採
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