十勝自然保護協会 活動速報 › 森林伐採 › 大雪山・日高山脈森林生態系保護地域設定案の問題点
2010年09月11日
大雪山・日高山脈森林生態系保護地域設定案の問題点
大雪山系から日高山脈にかけての森林生態系保護地域等を拡充する設定案について、9月6日開催の設定委員会(辻井達一座長)は、妥当との答申をしたとのことである。本当に妥当なのだろうか。まずこの設定案の問題点を指摘した意見書を北海道森林管理局に提出した当会理事の文書を掲載する。
設定案の問題点
北海道森林管理局(以下、管理局)は、森林生態系保護地域の拡充案作成にあたって、まず希少種等の生息・生育が期待される潜在性(ポテンシャル)が高いと評価される区域を検討対象国有林から選び出し、ここから森林生態系保護地域に指定するための基準(「我が国の主要な森林帯を代表する原生的な天然林の区域であって、原則として、1,000ヘクタール以上の規模を有するもの」と「その地域でしか見られない特徴を持つ希少な原生的な天然林の区域であって、原則として500ヘクタール以上の規模を有するもの」)に合致するところを森林生態系保護地域に設定したという(第1回森林生態系保護地域等設定委員会配布資料1による)。
このような手順によってできた設定案は、指標としていたはずの希少種であるクマタカとシマフクロウの潜在的繁殖域がほとんど含まれず、クマゲラの潜在的繁殖域がわずかに含まれる程度のものとなってしまった。
また設定方針として「森林生態系保護地域は、上記ポテンシャルが高いと評価された区域を踏まえるとともに、原生的な天然林の区域において、脊梁部等の高山帯から比較的標高の低い森林、あるいは、針葉樹林や広葉樹林等多様な森林生態系を包括的に保護できるように設定」するとしていたのだが、設定案にはほとんど反映されていない。
このようにお粗末な設定案となったのは、標高1000m以上の高標高域の森林帯を指標に入れたことと1,000ヘクタール以上の原生的天然林という1991年の基準に拘泥したためである。
このように管理局が提出したこの設定案には、生物多様性保全の観点から大いなる欠陥があるということを、まず指摘しておく。
設定案作成のあり方
今回の森林生態系保護地域の見直しの端緒は、1993年の生物多様性条約の批准を受けて、2001年に森林・林業基本法を制定し、その第二条で自然環境の保全を規定したことにあると理解すべきである。このような理解に立てば、原生的天然林の面積にこだわるのではなく、絶滅危惧種の危機回避の方策としての森林生態系保護地域の拡充が検討されることになる。そして希少種等の生息・生育が期待される潜在性(ポテンシャル)が高いと評価される区域を標高や原生的な天然林の面積基準で切り捨てることなく設定できるのである。
管理局が標高1000m以上の高標高域の森林帯を設定案作成の指標としたのは、これまでの過剰伐採により標高1000m未満では原生的天然林がほとんどなくなってしまったからである。管理局は、かつて成長量に見合った伐採をしていたと言っていたのだが、もはや北海道における天然林の過剰伐採の事実を覆い隠せなくなってしまった。
このように大雪山国立公園の森林も伐採による撹乱をうけてしまったが、蓄積量の減少した林分も時間の経過によって原生林に近い状態に回復する潜在性(ポテンシャル)はある。そこで、1991年の基準を見直し、生物多様性保全という新たな基準によって森林生態系保護地域を設定すべきである。
望まれる設定案
大雪山系(ここでは大雪山国立公園のエリアとする)における森林生態系保護地域を設定するに当たってまず着目しなければならないのは、この地域の森林生態系を象徴する生物種が何かということである。
脊椎動物でいうならミユビゲラ・キンメフクロウ・ミヤベイワナであろう。ミユビゲラ・キンメフクロウは、わが国では大雪山系でのみ繁殖が確認されている北方針葉樹林の鳥類であり、またミヤベイワナは然別湖とその流入河川にのみ生息し、ここで固有化しつつある魚類である。
これら3種の生息域や潜在的繁殖域が森林生態系保護地域に含まれてこそ生物多様性保全の実があがるのである。しかし今回の設定案にはこれらの種の生息域や潜在的繁殖域がほとんど含まれていない。例えば、キンメフクロウの繁殖記録地の一つは、上士幌町幌加の国道273号の東側に位置しているが、ここは大雪山国立公園内であるにもかかわらず今回の設定案では検討対象国有林にさえなっていない。
大雪山系森林生態系の象徴種を保全するための方策として、森林生態系保護地域を設定することが今日の社会の要請に見合った対応である。このことを踏まえ、今回の設定案を根本的に見直すことを求める。
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森林生態系保護地域等の設定案に対する意見
森林生態系保護地域等の設定案に対する意見
設定案の問題点
北海道森林管理局(以下、管理局)は、森林生態系保護地域の拡充案作成にあたって、まず希少種等の生息・生育が期待される潜在性(ポテンシャル)が高いと評価される区域を検討対象国有林から選び出し、ここから森林生態系保護地域に指定するための基準(「我が国の主要な森林帯を代表する原生的な天然林の区域であって、原則として、1,000ヘクタール以上の規模を有するもの」と「その地域でしか見られない特徴を持つ希少な原生的な天然林の区域であって、原則として500ヘクタール以上の規模を有するもの」)に合致するところを森林生態系保護地域に設定したという(第1回森林生態系保護地域等設定委員会配布資料1による)。
このような手順によってできた設定案は、指標としていたはずの希少種であるクマタカとシマフクロウの潜在的繁殖域がほとんど含まれず、クマゲラの潜在的繁殖域がわずかに含まれる程度のものとなってしまった。
また設定方針として「森林生態系保護地域は、上記ポテンシャルが高いと評価された区域を踏まえるとともに、原生的な天然林の区域において、脊梁部等の高山帯から比較的標高の低い森林、あるいは、針葉樹林や広葉樹林等多様な森林生態系を包括的に保護できるように設定」するとしていたのだが、設定案にはほとんど反映されていない。
このようにお粗末な設定案となったのは、標高1000m以上の高標高域の森林帯を指標に入れたことと1,000ヘクタール以上の原生的天然林という1991年の基準に拘泥したためである。
このように管理局が提出したこの設定案には、生物多様性保全の観点から大いなる欠陥があるということを、まず指摘しておく。
設定案作成のあり方
今回の森林生態系保護地域の見直しの端緒は、1993年の生物多様性条約の批准を受けて、2001年に森林・林業基本法を制定し、その第二条で自然環境の保全を規定したことにあると理解すべきである。このような理解に立てば、原生的天然林の面積にこだわるのではなく、絶滅危惧種の危機回避の方策としての森林生態系保護地域の拡充が検討されることになる。そして希少種等の生息・生育が期待される潜在性(ポテンシャル)が高いと評価される区域を標高や原生的な天然林の面積基準で切り捨てることなく設定できるのである。
管理局が標高1000m以上の高標高域の森林帯を設定案作成の指標としたのは、これまでの過剰伐採により標高1000m未満では原生的天然林がほとんどなくなってしまったからである。管理局は、かつて成長量に見合った伐採をしていたと言っていたのだが、もはや北海道における天然林の過剰伐採の事実を覆い隠せなくなってしまった。
このように大雪山国立公園の森林も伐採による撹乱をうけてしまったが、蓄積量の減少した林分も時間の経過によって原生林に近い状態に回復する潜在性(ポテンシャル)はある。そこで、1991年の基準を見直し、生物多様性保全という新たな基準によって森林生態系保護地域を設定すべきである。
望まれる設定案
大雪山系(ここでは大雪山国立公園のエリアとする)における森林生態系保護地域を設定するに当たってまず着目しなければならないのは、この地域の森林生態系を象徴する生物種が何かということである。
脊椎動物でいうならミユビゲラ・キンメフクロウ・ミヤベイワナであろう。ミユビゲラ・キンメフクロウは、わが国では大雪山系でのみ繁殖が確認されている北方針葉樹林の鳥類であり、またミヤベイワナは然別湖とその流入河川にのみ生息し、ここで固有化しつつある魚類である。
これら3種の生息域や潜在的繁殖域が森林生態系保護地域に含まれてこそ生物多様性保全の実があがるのである。しかし今回の設定案にはこれらの種の生息域や潜在的繁殖域がほとんど含まれていない。例えば、キンメフクロウの繁殖記録地の一つは、上士幌町幌加の国道273号の東側に位置しているが、ここは大雪山国立公園内であるにもかかわらず今回の設定案では検討対象国有林にさえなっていない。
大雪山系森林生態系の象徴種を保全するための方策として、森林生態系保護地域を設定することが今日の社会の要請に見合った対応である。このことを踏まえ、今回の設定案を根本的に見直すことを求める。
然別湖北岸の風倒地の扱いについて要望書を送付
風倒被害について十勝西部森林管理署からの回答
風倒地の取り扱いについて十勝西部森林管理署に質問書を送付
ミユビゲラ保護対策を要望
「新たな森林環境政策」(素案)に対する意見
青空裁判で出てきた驚くべき資料
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Posted by 十勝自然保護協会 at 22:40│Comments(0)
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