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十勝自然保護協会 活動速報 › 森林伐採 › ミユビゲラ保護対策を要望

2010年09月04日

ミユビゲラ保護対策を要望

 7月29日付け毎日新聞は、2006年に大雪山国立公園でエゾミユビゲラが確認されたことを報じました。これを受けて、当会も加盟する北海道自然保護連合は、農水大臣・環境大臣など関係機関にエゾミユビゲラ保護のための対策を求め、9月3日付けで下記の要望書を提出しました。

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エゾミユビゲラの生息確認に伴う大雪山国立公園での森林施業の

あり方についての要望


 7月29日付け毎日新聞は、エゾミユビゲラが大雪山国立公園の南部で確認されたことを報じました。このことについては貴職もすでにご承知のことと存じます。
 エゾミユビゲラは1942年に大雪山国立公園の十勝三股で風倒被害の調査が行なわれた際に発見され、1956年には同地でわが国初の繁殖も確認されました。その後、旭岳山腹でも目撃されましたが、1988年の十勝三股での目撃を最後に生息情報が途絶えていました。そしてこのほど、18年ぶりに生息が確認されました。今回の確認で注目しなければならないのは、本種の生息域が大雪山国立公園の十勝三股・幌加および旭岳の2地域から大きく広がったということです。
 今日、環境問題が人類にとって喫緊の課題となっています。このためわが国は、1993年に生物多様性条約締約国となりました。生物多様性条約は、生物の多様性の保全、つまり生態系や生息地を保全することを目的としています(同条約第1条)。わが国がこの条約を締約したということは、行政にとって生態系や生息地の保全が責務になったということであり、自然保護の枠組みのなかで開発行為をしなければならないということを意味します。このような認識については、貴職も異存ないことと思います。
 同条約第6条は、生物の多様性を保全するため、国家的な戦略あるいは計画を作成することと、部門別あるいは部門にまたがる計画や政策に生物の多様性の保全を組み入れることを義務づけています。このため政府は1995年に生物多様性国家戦略を、2002年に新・生物多様性国家戦略を、2007年に第三次生物多様性国家戦略を、そして今年生物多様性国家戦略2010を策定しました。
 林野行政においても1996年に林野庁から「自然保護等公益的機能の発揮をめざした森林施業の推進について」との通達が出され、2001年にこれまでの林業基本法を変えて森林・林業基本法を制定し、その第二条に自然環境の保全を規定しました。そして新・生物多様性国家戦略では「国有林においては、野生動植物の生息・生育環境の保全等自然環境の維持・形成に配慮した適切な森林施業を推進する」と明記しました。
 また国立公園行政については、自然公園法第3条に国や地方公共団体の責務として「生態系の多様性の確保と生物の多様性の確保」が加えられました。これまでの自然公園法は保護と利用がなかば対等に位置づけられていましたが、2003年4月からは生物多様性の確保つまり保護が前提となり、その枠内での利用が許されるということです。つまり生物多様性を損なう国立公園内での森林伐採は許されないということを意味します。新・生物多様性国家戦略でも「自然環境保全地域や国立国定公園等は、わが国における生物多様性保全施策の骨格をなすものといえます。これらの地域では、生物多様性の保全に向け、より一層の施策の強化を図ります」と明記しました。
 このような国内外の生物多様性保全の流れを踏まえ、貴職に以下の要望をいたします。

1.事前調査の実施について
 諸文献からミユビゲラは、北方針葉樹林、タイガを主な生息地とするキツツキであることが明らかになっています。現在のところ、わが国においては、北海道中央部の針葉樹林帯においてのみ生息が確認されていますが、これは旧北区の中緯度の山岳針葉樹林に分布する隔離個体群の一つとみなされます。大雪山国立公園の針葉樹林帯はわが国では最大の規模ですが、ミユビゲラの生息地としては、極めて狭小といえるでしょう。このことはエゾミユビゲラ個体群の存立基盤が脆弱である可能性が高いことを示唆します。
 今回の確認により本種の生息域が大雪山国立公園の全域に広がったことから、脆弱な個体群であるエゾミユビゲラの保護に当たっては、大雪山国立公園全体の森林での施業に細心の注意を払う必要があるということです。したがって、施業にあたっては事前に生息確認調査をすることを要望いたします。

2.風倒木・枯損木の処理について
 風倒木が発生すると、国立公園においても森林害虫防除を名目にこれまで風倒木処理がなされてきました。近年では、大雪山国立公園の幌加地区での風倒木処理がマスコミでも大きく取り上げられました(北海道新聞2008年6月19日付けなど)。
 しかし、風倒木の発生がきわめて自然な現象であることは論を待ちません。北海道の森林がいつから今日のような林相になったかはまだ十分明らかではありませんが、この間多く風倒木が発生してきたと推測されます。しかし、ここ百年の和人による略奪林業が進行するまでは良好な森林が維持されてきました。このことは風倒に伴う穿孔性昆虫の発生が森林の二次的崩壊をもたらさなかったことを示しています。
 風倒木の発生が太古から続いてきた現象であることから、生態系にとって意味のあることと考えられます。風倒木は、多くの場合、穿孔性昆虫のハビタットとなります。この穿孔性昆虫がキツツキ類にとって重要な意味を持っています。北海道森林管理局がクマゲラの採餌木を残すとの方針を打ち出したのもこのことを根拠にしています(北海道新聞2006年2月20日付け夕刊および4月26日付け朝刊)。
 1942年のエゾミユビゲラの発見は十勝三股における風倒被害調査によるものでした。また1988年の確認は、風倒に起因する採餌木で観察されたものです。今回の確認の詳細は不明ですが、風倒発生地ないしその周辺に出現したようです。このようなことから、エゾミユビゲラにとって、風倒木や枯損木は重要な意味を持ちます。したがって、大雪山国立公園における風倒木や枯損木を基本的に残置することを要望します。

3.エゾマツ(エゾトウヒ)の保存およびエゾマツ林の復元について
 ヨーロッパの文献によると、ミユビゲラはトウヒ属種からなる森林を好むとされています。トウヒ属種は北海道ではエゾマツ・アカエゾマツ(アカエゾトウヒ)ということになります。これらの樹木は材質の良さから選択的に伐採され、またエゾマツについては更新の難しさのため、アカエゾマツについては生育立地の特殊性のため、今日著しく個体数が減少しています(因みに十勝三股で1940年代に本種が採集された地点は、現在ルピナスが咲き誇る集落跡地周辺です)。つまりエゾミユビゲラの生存基盤が急速に失われているといえるでしょう。したがって、トウヒ属種の伐採は慎重に行うとともにエゾマツの優占する森林の復元に力を尽くすことを要望いたします。

4.大雪山森林生態系保護地域の見直しについて
 北海道森林管理局では生物多様性保全の観点から、現在、大雪山森林生態系保護地域の見直しを進めています。前述したことからも分かるようにエゾミユビゲラは大雪山森林生態系における象徴種(フラッグシップ・スピーシーズ)といえます。しかし、現在提案されている大雪山森林生態系保護地域の設定は、エゾミユビゲラの保全を考えるうえで、十分ではありません。特に針葉樹林帯の指定が不十分ですので、今回のミユビゲラの確認を機に大きく見直すことを要望いたします。また、大雪山国立公園に生息する絶滅危惧種はミユビゲラだけではありません。生物多様性保全を実効あるものにするとの観点から大雪山国立公園の天然林における伐採の中止を検討するよう要望いたします。

 以上の要望について、貴職の見解を文書で明らかにしていただきますようお願いいたします。
以上



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Posted by 十勝自然保護協会 at 22:38│Comments(0)森林伐採
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