さぽろぐ

自然  |その他北海道

ログインヘルプ


十勝自然保護協会 活動速報 › 河川・ダム › 十勝川水系河川整備計画(原案)に関する意見書

2009年10月20日

十勝川水系河川整備計画(原案)に関する意見書

10月18日に会長名で以下の意見書を提出しました。

十勝川水系河川整備計画(原案)に関する意見書
1.基本高水のピーク流量の科学的根拠について
十勝川水系河川整備計画原案(以下、原案という)によると、帯広地点における基本高水のピーク流量および計画高水流量は、昭和41年にそれぞれ4800㎥/s、4100㎥/sに設定され、その後昭和55年にそれぞれ6800㎥/s、6100㎥/sに大幅に引上げられた。そして、この数値は、「検証のうえ踏襲し」ているとして、現在も引き継がれている(21頁)。
しかし、昭和55年の大幅な引上げの理由について、原案では「昭和47年9月洪水を契機として、流域の開発の進展、特に中流部における人口・資産の増大を踏まえ」(16頁)と記述されているに過ぎない。
また、10月8日の音更町での説明会では、昭和55年の大幅引上げの根拠についての質問に対し、福田計画官は、過去の洪水を踏まえて、と原案に書かれていることを述べた。しかし、昭和41年から昭和55年までの間の帯広地点での最大流量は、昭和47年9月洪水の2880㎥であり(表1-2)、大幅な引上げの根拠とはならないと指摘されると、原案に明記されていない、1 50年に1度の降雨量から設定したと説明した。
原案に述べられているように、洪水のピーク流量(基本高水のビーク流量)は、洪水防御に関する計画の基本である(18頁)。それにもかかわらず、この原案において、この数値の算出根拠が十分説明されていないのは、この河川整備計画の根幹にかかわる重大な問題である。
よって当会は、この数値が過大に見積もられた洪水ピーク流量ではない、という科学的根拠を示すことを求める。なぜなら、洪水ピーク流量が過大に設定されるならば、洪水対策と称して無駄な公共土木工事が営々と行われることになるからである。

2.目標流量と基本高水のピーク流量との関係について
この度、今後30年にわたっての指針となるこの原案が作成され、ここでは、戦後最大規模の洪水流量を安全に流下させる「目標流量」を設定している。帯広地点における目標流量は5100㎥/s、十勝ダムでの調整により河道への分配流量は、4300㎥/sとされている(66頁)。つまり、昭和55年に設定された基本高水のピーク流量6800㎥/s、計画高水流量6100㎥/sと比較すると1700から1800㎥/sも少ない数値となっている。
もしこの数値が原案に述べられているような、「コストの縮減」(30頁)という観点から設定されたとするならば、流域住民を不安に落としいれるものであり、再検討を求めなければならない。
しかし、その必要はないだろう。なぜなら、6800㎥/s、6100㎥/sという基本高水のピーク流量および計画高水流量が過大見積りであった、ということを取り繕う手立てとして、目標流量が提案されていると見なされるからである。帯広地点で4952㎥/sの流量が観測された1981年、昭和56年8月の洪水は、「記録的な強い降雨」(22頁)とされ、芽室町での日降雨量は382年に1度の確率であり、集水域全体でも数百年に1度の降雨確率であって、戦後最大の洪水流量などというレベルのものではなかったのである。したがって、今後30年以内に1981年8月の規模の洪水が発生する確率は0.5%以下であろう。
よって当会は、これら目標流量・河道への分配流量と基本高水のピーク流量・計画高水流量との関係について納得のいく説明を記述することを求める。

3.流下能力不足区間の説明について
10月8日の音更町での説明会で、十勝川流域委員会(第5回 平成20年11月28日開催)の資料を転用し、流下能力不足区間の存在についてスライドで説明した。流下能力不足区間の詳細な実態を知ることは、流域住民が洪水に備えるという点からも不可欠な事柄であり、この原案の妥当性を評価する上で欠かせない事柄である。そのような事項が欠落したこの原案には、欠陥があるということである。したがって、当会は、このような治水の根幹にかかわる事柄を原案に記載することを求める。

4.相生中島地区の掘削工事について
原案には、河道への配分流量を安全に流下させるとして、相生中島地区で右岸高水敷の一部を掘削することが明記されている(72頁)。しかし、現状の危険度、つまりどの程度の洪水で災害が生じるかについて具体的説明はない。
前述のとおり、昭和56年8月の洪水のときの日降雨量は、芽室町では382年に1度の確率とされ、集水域全体でも数百年に1度の降雨確率と考えられる記録的なものであった。この時の帯広地点での流量は4952㎥/sに達したが、相生中島地区では、堤防から洪水流の氾濫はなかった(22頁)。その後、昭和60年に十勝ダムが完成したことにより、今回の戦後最大規模の洪水流量を安全に流下させる、というこの原案において、帯広地点の河道への分配流量は4300㎥/sとされている。つまり、現状の堤防でも想定した洪水流が溢れ出る可能性はないのである。
また、当会は、帯広開発建設部に今年6月に質問書を、7月に再質問書を提出し、この掘削工事による洪水防止効果について具体的説明を求めたが、治水課長からの回答は、安全度の向上を繰り返すだけで、具体的根拠を示すことができなかった。
以上のことから、相生中島地区の掘削工事は、安全に名を借りた不必要な公共土木工事である、と判断せざるを得ない。よって当会は、原案から相生中島地区の掘削工事を削除することを求める。

5.河道掘削と計画高水位について
原案の72頁には、「河道への分配流量を安全に流下させることができるよう河道の掘削を行う」と述べ、73頁には河道掘削のイメージ図(図2-3、図2-4)が載せられている。そして、このイメージ図には計画高水位の線が引かれている。
今後30年の河川整備にあたっては、計画高水流量が過大であることから、戦後最大規模の洪水流量を安全に流下させる「目標流量」と「河道への分配流量」を設定したはずである。ならばこのイメージ図には「分配流量の水位」がなければならない。「分配流量の水位」を記載しないのは、不都合な事実の隠蔽といわれてもしかたがない。
河道掘削の必要性は「分配流量の水位」との関係で判断するのが合理的である。したがって、当会は、この河道掘削の必要性が低いと考えており、再検討を求める。

6.河畔林伐採と計画高水位について
原案では、「河道内の樹木は、・・・・・・洪水時には水位の上昇や流木の発生の原因になる」ので「樹木が繁茂する前に伐採を行う」とし、河道内樹木の管理イメージ図(図2-17)を掲載している。ここでも計画高水位の線が引かれ、樹木が繁茂すると計画高水位よりも水位が上昇するとの説明がなされている。河道掘削同様、河畔林伐採の必要性は「分配流量の水位」との関係で判断するのが合理的である。また特に下流域の河畔林には流木捕捉効果が知られている。したがって、当会は、この河畔林伐採について、再検討を求める。

7.河川行政のあり方について
原案によれば、「十勝川水系の河川整備は、・・・地域住民や関係機関、関係団体と連携・協働しながら、・・・推進する」と記されている(61頁)が、この点に関し、指摘しなければならないことがある。
当会は、相生中島地区の掘削工事について今年6月に質問書を、7月に再質問を提出した。しかし治水課から的外れな回答が寄せられたため、面談を求めたところ、回答済みにつき会う必要はないと面談を拒否した。このような対応がここに明記された「地域住民や関係団体との連携・協働」と矛盾することはいうまでもない。
また、当会の質問に対する回答とまったく異なることが今回の原案に記述されているのには、驚くばかりである。つまり、相生中島地区の水路掘削による周辺の河川形態への影響について質問したのに対し、「当該工事は、現在の低水路を残したうえで右岸側の高水敷に洪水時のみ流れる水路を掘削するものであり、洪水時の水位低下により治水安全度は向上しますが、通常時の流れは現在と変わらないことから、上下流域や流入する支川等への影響はないと考えています。」との回答が寄せられた。しかし、この原案では「整備中の相生中島地区では洪水時の流れの状況がこれまでと変化することから、河床の低下や土砂堆積、河岸の侵食等の土砂動態について注意深く監視する必要がある」と書かれている。このような不誠実かつ無責任な態度は、「地域住民や関係団体との連携・協働」を阻害するものである。
新政権によるダム計画の凍結にみられるように河川管理の根本が変わろうとしている。今後、公共土木事業を行うにあたっては、住民に対し情報を包み隠さず公開し、十分な説明をするとともに十分な議論をすることが前提となる。これまでの不誠実な態度を深く反省し、公明正大な河川行政へ転換しなければならない。

8.結論
以上具体的に指摘したように、今回の十勝川水系河川整備計画原案は、洪水防御に関する計画の基本となる洪水のピーク流量や流下不足区間についての説明が欠落し、計画高水位の取り扱いをめぐって混乱がみられるなど、住民議論に耐えうるものではない。よって、十勝自然保護協会は、原案を練り直し再提出することを要求する。



あなたにおススメの記事


同じカテゴリー(河川・ダム)の記事画像
居辺川砂防事業見直しを! 十勝総合振興局に申入れ
「ケショウヤナギを知る会」報告
河畔林伐採についての帯広開発建設部の回答
音更川堤防流失についての帯広開発建設部の 調査報告書
然別川の河畔林伐採に関して質問書を送付
魚が上れない魚道
同じカテゴリー(河川・ダム)の記事
 幌加調整池通砂バイパストンネル工事についての要望と回答 (2022-07-22 16:26)
 居辺川砂防事業への質問に対する回答 (2016-06-17 11:48)
 平成27年度治水事業についての質問と意見に対する回答 (2016-06-14 14:53)
 平成27年度治水事業概要書についての質問と意見 (2016-06-14 14:41)
 「2015年8月17日付居辺川砂防事業計画についての申し入れ」の回答への質問 (2016-04-09 16:42)
 北電の新得発電所建設計画環境影響評価方法書に意見書 (2016-03-28 22:45)

Posted by 十勝自然保護協会 at 20:51│Comments(2)河川・ダム
この記事へのコメント
十勝川の基本高水流量について

私が河川整備基本方針検討小委員会で明らかにされた情報を引用すると次のようなものでした。現在はインターネット上で見ることはできません。

***********************************************

治水基準点 茂岩(残念ながら帯広のデータは記録してなかった。)
治水安全度 1/150
基本高水流量 15200m3/s
流量確率 治水安全度1/150における確率流量範囲 12120m3/s~15600m3/s
確率流量平均値 13771.7m3/s
基本高水流量は計画雨量まで引き伸ばした対象降雨からの12洪水の最大値より決定。

以上のデータから基本高水流量15200m3/sは治水安全度1/150の基本高水流量としては過大である。流量確率の平均値13771.3m3/sは治水安全度1/150におけるピーク流量に近いと判断される。計画規模の確率雨量を計算する際には雨量確率の確率雨量の平均値で日雨量を計算することは国交省も採用している方法であり、流量確率に応用することに問題はない。治水安全度1/150における基本高水流量が13770m3/s程度であるとするなら、一般的な流量確率の治水安全度と確率流量の関係から、ピーク流量15200m3/sの治水安全度は1/250程度であると推定される。

茂岩のデータから帯広の基本高水流量6800m3/sの治水安全度も1/250程度ではないかと推測される。単純計算すると治水安全度1/150におけるピーク流量は6160m3/s程度と推定される。帯広の計画高水流量は6100m3/sとされているので、流量の差の700m3/sは既に解決済みとなる。この差はダムにより洪水調節される計画ならば、ダムは不要であるとの結論になる。

向こう30年間の河川整備計画で目標流量は、ダムによる洪水調節量800m3/sを考慮して4300m3/sとされているが、ピーク流量5100m3/sは再検討の必要がある。流量確率における治水安全度1/30の確率流量は5100m3/sをはるかに下回る。

改めて十勝川の帯広の治水安全度1/150における適切な基本高水流量を決定する必要がある。雨量から基本高水流量を決定する場合、引き伸ばし率2.0倍程度にこだわらずに対象降雨を30程度選択し、得られたピーク流量群について確率年の定義(改訂新版 建設省河川砂防技術基準(案)同解説 調査編 p64~p65に記載)にしたがって、治水安全度1/150におけるピーク流量を基本高水流量に決定すべきである。

***********************************************

私は長野県浅川の治水政策について関心があり、国交省の「河川砂防技術基準」による雨量から基本高水流量を決定する方法は見直さなければならないとする持論を持っています。持論は以下のホームページの日ごろ思うことに色々と書いていますのでご参照下さい。

http://www5b.biglobe.ne.jp/~yamayosi/public_html/

このコメントをお読みになって更に具体的な考えを聞きたいと思われたら直接メールをいただければと思います。

以上
Posted by 山好人 at 2009年10月21日 12:30
山好人 様

 大変詳細なご指摘、ありがとうございました。これまで我々が指摘してきたように、十勝川の基本高水流量は過大に設定されているということになりますね。今後の参考にさせていただきます。
Posted by 十勝自然保護協会 at 2009年10月22日 16:51
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
十勝川水系河川整備計画(原案)に関する意見書
    コメント(2)