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2010年07月08日

十勝川水系河川整備計画(案)に当会の意見は反映されたか(1)

 十勝川水系河川整備計画原案に対する公聴会での当会の3氏の意見陳述がどのように扱われたか気になっていたのですが、7月2日にようやく「寄せられたご意見の十勝川水系河川整備計画(案)への反映状況等」として、帯広開発建設部のホームページで公表されました。彼らがどれほど真剣に私たちの意見に耳を傾けたか検証してみましょう。

1.網状流
 「十勝川水系の河川形態の最大の特徴は、帯広構造盆地に展開する網状流にあります。北海道において、これほど網状流が集中するところは他にありません。(中略)網状流は、多量の砂礫の供給と移動により出現します。これが札内川に『清流日本一』(41ページ)をもたらし、『川のダイナミズムを感じ』(53ページ)させる秘密なのです。しかし、砂礫の多さゆえに網状流は、ときに『暴れ川』ともなる宿命をもっています。十勝川水系の河川の特性をこのように理解するのが大事であって、砂礫の多さを『河川を荒廃させ河川災害を大きくしており』(13ページ)などと捕らえるのは、河川の特性の理解力不足といわなければなりません。」との当会の理事の意見に対し、開発建設部は次のような見解を明らかにしました。

 「網状流については、河川の特性として重要なものと認識しており、ご意見を踏まえ、以下のように修正しました。
 急流河川である十勝川上流部、札内川及び音更川では、河床が砂礫で構成され土砂移動が激しく網状に蛇行しながら流れているのが最大の特徴である。(P.13)
 さらにその下流には、礫河原を網状に蛇行する流れがみられ、氷河期の遺存種であるケショウヤナギが広く分布しているなど変化に富む河川環境を有する。(P.53)
 札内川は日本有数の清流河川であり、河畔林と広い礫河原を網状に蛇行する流れを見ることができ、川のダイナミズムを感じることができる。(P.53)
 十勝川上流部、札内川の礫河原等に分布しているケショウヤナギは、氷河期の遺存種であり、国内でもごく限られた地域にしか生育していない貴重な種であることから、保全する必要がある。(P.60)
 急流河川である札内川は、広大な礫河原の中を網状に蛇行しながら流下し、ケショウヤナギ等の河畔林が広がる、特徴的な景観を有していることから、その保全・形成に努める。(P.86)
 また、ご指摘を踏まえ、「河川を荒廃させ」という表現については、以下のように本文を修正しました。
 一方、水源地域からの生産土砂、河岸侵食によって流下する土砂を抑制するため、昭和30年代より札内川流域各所において砂防えん堤等の整備が行われ、国の事業としては、昭和47 年より札内川の上流域において、砂防えん堤や床固工群の整備を実施している。(P.13)」

 一読すると、こちらの指摘に素直に従ったかのような印象を受けるかもしれません。しかし、河川工学の「プロ」としてのプライドが許さないのでしょうか、おかしな言い換えをしてこちらの指摘をかわそうとしています。

 開発建設部は、「網状流」という学術用語を意識的に避け「網状に蛇行する」と言い換えています。網状流とは、「網の目状に分岐・合流を繰り返す水流」のことです(地形学辞典:二宮書店)。一方、蛇行とは、「河道が屈曲している状態が、ヘビの移動している状態に似ていることから、蛇行」というのです(地形学辞典)。つまり、網状流は河道の中の水流(流路)の状態を表し、蛇行は河道の状態を表すのが一般的なのです。ですから、網状流のことを網状に蛇行するというのは、地形学的にはとてもおかしな言い方ということになります。
 それから、こちらが「砂礫川原」としているのに対し、開発建設部は「礫河原」と言い換えています。先の地形学辞典は「川原」を採用していますので、特別な理由がなければ、この用法に従うのが混乱を防ぐという意味からも妥当です。また、礫が目立つ川原を開発建設部は「礫河原」と言っていますが、砂を含まない礫川原はありませんから、砂礫川原とするほうがより正確です。

2.遺存種など
 「氷河期の遺存種および着目種の説明文は、不適切なので、それぞれ『氷河期に広く分布していたが、現在限られたところに生息・生育している種』『十勝川水系を特徴づける種』などと書き直す必要があります。44ページの「土壁」は誤用であり、河岸の小崖とでもすべきです。また、「動植物の生息・生育・繁殖の場」との記述が各所にでてきますが、第三次生物多様性国家戦略では、「生育・生息環境」に含まれる概念として扱い、繁殖の場を略す、としています。この原案もこの見解に従うべきです。」との当会の意見に対し、開発建設部は次のような見解を示しました。

 「河川整備計画(案)では、遺存種に関する文献をもとに、氷河期の遺存種を氷河期に分布していた種が現在も残って生息・生育している種(P.43)として定義しています。
 ケショウヤナギは遺存種(P.43 5行目の記述)と認識していますが、よりわかりやすくするため、P.60と同様に、地域的に限定されて生息・生育している種であることを以下のように加筆しました。
 氷河期の遺存種であり国内でもごく限られた地域にしか生育していない貴重な種であるケショウヤナギが分布している。(P.43)
 ※遺存種:過去の気候、その他の環境条件から現在までこれらの変化に耐えて生き残った生物種。『生態学事典』(築地書館)より抜粋。なお、現時点で『氷河期に広く分布していたこと』を示す根拠資料が得られていない。」

 「生態学事典」(築地書館)には、開発建設部が引用した文のあとに「残存種。一般には現在種に抑圧されているものが多い」と書いてあります。つまり遺存種は一般に局所的に分布することを示唆しています。
 遺存種のなかでも、氷期(氷河期)の遺存種と考えられる植物は、高山植物の例からもわかるように、現在(後氷期)、点在的に分布(隔離分布)しているのですが、過去には連続的に分布していたであろうと考えられます。つまり今よりも広く分布していたが、気候やその他の環境条件の変化により、分布が途切れたと解釈しなければ、隔離分布を説明できないからです。このようなことから、こちらが「広く分布していた」と加筆するように求めたことについて、開発建設部は「『氷河期に広く分布していたこと』を示す根拠資料が得られていない」と反論しました。言い訳のために「根拠資料」をもちだしたのでしょうが、ならばケショウヤナギが氷期から十勝地方に分布していたという根拠資料はあるのでしょうか。氷期の十勝の地層からケショウヤナギの化石が見つかったという話を聞いたことがありません。
 そもそも「氷河期の遺存種を氷河期に分布していた種が現在も残って生息・生育している種」という日本語のおかしさに気がつかないというのが困ったことなのですが。

 「土壁」の取扱いについて、開発建設部は「ご意見を踏まえ、より一般的と考えられる「土崖」(P.44,48)に修正しました」というのですが、土崖などという言い方は全く「一般的」ではありません。

 「繁殖の場」の取扱いについて、開発建設部は「平成18 年10 月に策定された多自然川づくり基本指針(国交省)では、『繁殖環境』が河川を特徴づける重要な環境であると明記しています。また、第三次生物多様性国家戦略では、繁殖環境については、『ここでは、[生息・生育環境]に含まれる概念として扱い略します。』とされています。このことから、河川整備計画(案)では、一般の方にとってもより分かりやすい表現とするため、略さず明記しています」というのです。しかし第三次生物多様性国家戦略が閣議決定されたのは平成19年11月です。つまり、第三次生物多様性国家戦略を作文した本省の担当者は、これまで使っていた「動植物の生息・生育・繁殖の場」という言い回しが、なんとも調子が悪いと判断し「繁殖の場」を削除したのでしょう。しかし、帯広開発建設部は、このような判断はまずいのであり、「生息・生育・繁殖の場」を復活させなければならないというのです。本当にそう思うのなら、このことを第三次生物多様性国家戦略の作文にあたった本省の担当者に指摘しなければなりません。

 このように、こちらの意見を素直に聞き入れず、おかしなプライドにこだわるためみっともない記述の多い計画書になってしまったのです。



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Posted by 十勝自然保護協会 at 21:24│Comments(0)河川・ダム
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