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2012年04月29日
十勝大橋上流の河畔林伐採の問題点
希望者を募り十勝大橋付近の河畔林を伐採するという記事が北海道新聞(2012年1月26日付朝刊)に掲載された。昨年7月5日に平成23年度十勝川治水計画説明会が開催されたが、この時の説明および配布資料にはこの伐採は取り上げられていなかった。
このため自然保護NGOとして今回の伐採の区域設定の妥当性、必要性について検証すべく、2月29日に現地で説明を受けた。この伐採の一番の目的が流下断面の確保だというのに、今回伐採するとどれほど水位の低下が見込まれるか具体的に説明できないのには驚いた。2010年9月に策定した十勝川水系河川整備計画では、このあたりは河道掘削で流下断面を確保することになっていたのだが、急にこの方針を変更し河川敷に草原環境をつくるということになったという。なんとも思いつき的事業であることから、3月12日付で下記の要望書を帯広開発建設部長に送付した。
さる2月29日に、治水課福田課長補佐および帯広河川事務所小原計画課長より、現地で今回の河畔林伐採について以下の説明を受けました。
1.伐採の目的は、流下断面の確保である。ただし水位がどれほど下がるか即答できない。(3月2日に福田課長補佐から十勝大橋で0.5m水位が下がるとの連絡があった)
2.伐採箇所は十勝大橋上流の左岸730mまでの約5ha。
3.公募したが応募者が少ないため、伐採対象地の2割ほどで伐採を実施する。
4.公募伐採後、開発建設部が抜根し、その周辺の土や在来種の種子が多いと思われる地表部分の土砂を均して、草原となるようにする。
5.伐採対象となる河畔林については、樹種構成は把握しているが、密度や材積などは調査していない。
6.伐採跡地にオオアワダチソウなど外来種が入り込む懸念がある。
今回の伐採の問題点
1.十勝川水系河川整備計画の形骸化
2010年9月に十勝川水系河川整備計画(以下、整備計画という)が策定され、これをうけて、貴職は「十勝川中流部川づくりワークショップ」を2010年10月に設置しました。このワークショップの第6回(2011年3月開催)において、「河道内の樹木が年々増加傾向にあるのに対し、草原や河原環境が減少傾向にあることから、第5回で提案した『左岸の樹木を伐採し草原環境とし、河原は保全する案』を提案したい」とし、2011年10月の第8回ワークショップで伐採を決定しました。しかし、今回の伐採箇所は、整備計画では河道掘削区間とされていたところです。つまり公聴会や流域委員会を開催し2年8ヶ月かけて策定した整備計画をわずか半年で、特別緊急性が高いとも思えない理由により変更してしまったのです。
2.十勝川水系河川整備計画の無視
整備計画では「樹木の大きさ、密度、成長速度等を踏まえた効果的な樹木管理方法、流木対策について、関係機関と連携しつつ、引き続き調査・検討を進める。」とされているにもかかわらず、今回伐採する河畔林については、樹木の大きさ、密度、成長速度といった基礎的データも収集していません。つまり自ら決めたことを無視しているのです。
3.無責任な対応
第3回ワークショップ(2010年12月2日)において、伐採にあたっては「河畔林に依存する生物への配慮が必要」と言っているもかかわらず、伐採対象地での生物の調査もしていません。生物の生息実態を知らずして配慮などできません。
4.外来植物侵入のリスク
われわれは、河川敷に多くの外来植物が繁茂しているという事実を知っていますし、外来植物の多くが河畔林の林床ではなく林外の開放地を好むことも知っています。河畔林伐採後の開放地は外来種に格好の生育地を提供することになるでしょう。外来種の侵入を防ぎ草原化が本当に可能なのか。また、その場合の草原はどのような種構成になるのか。こういった基礎的な調査や検討も行なわず、河畔林を伐採するのは無謀というものです。
5.伐根の除去について
伐採後、草原をつくるためと称して、埴土をあつめ地ごしらえすることは、融雪時の出水や多雨による異常出水などで埴土が流失する危険性が高くなります。埴土が流下したなら水生昆虫はもとより淡水魚の生存を脅かすことになり、河川生態系への悪影響が懸念されます。また予算縮減で民間に伐採を依頼するとしながら、抜根に公費を使うのは矛盾しているといわなければなりません。
6.流域委員会委員の短絡的意見
2009年9月の第9回流域委員会で委員から「草原性の鳥類の生息地としては、農耕地があるもののかならずしも適しておらず、河跡湖周辺の草原の他は河川敷くらいしかない。そのため、鳥の生息環境として、草原環境を維持することが重要である」。「樹木の伐採に関して、やむを得ず切るというのではなく、積極的に草原環境を維持するという側面もあってよいのではないか」。「原案では、できるだけ木を切らないように、というニュアンスが強いが、逆に積極的に木を切って草原環境を維持していく面があってもよいのではないか」といった意見が表明されました。
今回の拙速な河畔林伐採がこれらの意見に影響されたのではないかと懸念されますので、これらの意見の問題点に言及しておきます。
彼らは、河畔林を伐って非森林的空間(草原的なもの)を造ることを主張しているのですが、植生学の教えるところによれば、北海道で草原が出現するのは強風にさらされる海岸や高山などきわめて限られた立地だということです。もし十勝川水系の氾濫原にかつて草原的な環境があったとしたなら、どのような群落であったかを解明し、そのような群落をどうしたら復元できるかを検討すべきであって、伐採して非森林空間にすればいいというものではありません。
第3回ワークショップ(2010年12月2日)において、治水課は「伐採跡地の再樹林化を防ぎ、草原として維持していくための工夫や維持管理が必要となる。」と発言し、河畔林を伐採して人工的草原を維持することの難しさを認めています。
結 論
今回の河畔林伐採は整備計画を形骸化するものであり、河畔林に依存する生物への配慮にも欠けるものでした。伐採して草原にしたいというものの、どのような草原環境を実現しようとしているのかも明らかではありません。また外来種の侵入を防ぐ確信ももっていません。つまり今回の河畔林伐採は場当たり的、思いつき的な事業と判定せざるを得ません。
このようなことから、当会は今回の河畔林伐採については中断し、流下断面確保という目標を達成するよりよい方策を緻密に検討するよう、貴職に要望いたします。
なお、当会はかねてから指摘しているように、貴職が治水事業の拠りどころとしている計画高水流量や目標流量の数値に納得しているわけではないことを申し添えるとともに、貴職が十勝大橋で水位が0.5m下がるという根拠について丁寧に説明していただきたくお願いいたします。また今回の抜根にかかる経費の総額について明らかにしてください。
このため自然保護NGOとして今回の伐採の区域設定の妥当性、必要性について検証すべく、2月29日に現地で説明を受けた。この伐採の一番の目的が流下断面の確保だというのに、今回伐採するとどれほど水位の低下が見込まれるか具体的に説明できないのには驚いた。2010年9月に策定した十勝川水系河川整備計画では、このあたりは河道掘削で流下断面を確保することになっていたのだが、急にこの方針を変更し河川敷に草原環境をつくるということになったという。なんとも思いつき的事業であることから、3月12日付で下記の要望書を帯広開発建設部長に送付した。
十勝大橋上流部における公募による河畔林伐採についての要望書
さる2月29日に、治水課福田課長補佐および帯広河川事務所小原計画課長より、現地で今回の河畔林伐採について以下の説明を受けました。
1.伐採の目的は、流下断面の確保である。ただし水位がどれほど下がるか即答できない。(3月2日に福田課長補佐から十勝大橋で0.5m水位が下がるとの連絡があった)
2.伐採箇所は十勝大橋上流の左岸730mまでの約5ha。
3.公募したが応募者が少ないため、伐採対象地の2割ほどで伐採を実施する。
4.公募伐採後、開発建設部が抜根し、その周辺の土や在来種の種子が多いと思われる地表部分の土砂を均して、草原となるようにする。
5.伐採対象となる河畔林については、樹種構成は把握しているが、密度や材積などは調査していない。
6.伐採跡地にオオアワダチソウなど外来種が入り込む懸念がある。
今回の伐採の問題点
1.十勝川水系河川整備計画の形骸化
2010年9月に十勝川水系河川整備計画(以下、整備計画という)が策定され、これをうけて、貴職は「十勝川中流部川づくりワークショップ」を2010年10月に設置しました。このワークショップの第6回(2011年3月開催)において、「河道内の樹木が年々増加傾向にあるのに対し、草原や河原環境が減少傾向にあることから、第5回で提案した『左岸の樹木を伐採し草原環境とし、河原は保全する案』を提案したい」とし、2011年10月の第8回ワークショップで伐採を決定しました。しかし、今回の伐採箇所は、整備計画では河道掘削区間とされていたところです。つまり公聴会や流域委員会を開催し2年8ヶ月かけて策定した整備計画をわずか半年で、特別緊急性が高いとも思えない理由により変更してしまったのです。
2.十勝川水系河川整備計画の無視
整備計画では「樹木の大きさ、密度、成長速度等を踏まえた効果的な樹木管理方法、流木対策について、関係機関と連携しつつ、引き続き調査・検討を進める。」とされているにもかかわらず、今回伐採する河畔林については、樹木の大きさ、密度、成長速度といった基礎的データも収集していません。つまり自ら決めたことを無視しているのです。
3.無責任な対応
第3回ワークショップ(2010年12月2日)において、伐採にあたっては「河畔林に依存する生物への配慮が必要」と言っているもかかわらず、伐採対象地での生物の調査もしていません。生物の生息実態を知らずして配慮などできません。
4.外来植物侵入のリスク
われわれは、河川敷に多くの外来植物が繁茂しているという事実を知っていますし、外来植物の多くが河畔林の林床ではなく林外の開放地を好むことも知っています。河畔林伐採後の開放地は外来種に格好の生育地を提供することになるでしょう。外来種の侵入を防ぎ草原化が本当に可能なのか。また、その場合の草原はどのような種構成になるのか。こういった基礎的な調査や検討も行なわず、河畔林を伐採するのは無謀というものです。
5.伐根の除去について
伐採後、草原をつくるためと称して、埴土をあつめ地ごしらえすることは、融雪時の出水や多雨による異常出水などで埴土が流失する危険性が高くなります。埴土が流下したなら水生昆虫はもとより淡水魚の生存を脅かすことになり、河川生態系への悪影響が懸念されます。また予算縮減で民間に伐採を依頼するとしながら、抜根に公費を使うのは矛盾しているといわなければなりません。
6.流域委員会委員の短絡的意見
2009年9月の第9回流域委員会で委員から「草原性の鳥類の生息地としては、農耕地があるもののかならずしも適しておらず、河跡湖周辺の草原の他は河川敷くらいしかない。そのため、鳥の生息環境として、草原環境を維持することが重要である」。「樹木の伐採に関して、やむを得ず切るというのではなく、積極的に草原環境を維持するという側面もあってよいのではないか」。「原案では、できるだけ木を切らないように、というニュアンスが強いが、逆に積極的に木を切って草原環境を維持していく面があってもよいのではないか」といった意見が表明されました。
今回の拙速な河畔林伐採がこれらの意見に影響されたのではないかと懸念されますので、これらの意見の問題点に言及しておきます。
彼らは、河畔林を伐って非森林的空間(草原的なもの)を造ることを主張しているのですが、植生学の教えるところによれば、北海道で草原が出現するのは強風にさらされる海岸や高山などきわめて限られた立地だということです。もし十勝川水系の氾濫原にかつて草原的な環境があったとしたなら、どのような群落であったかを解明し、そのような群落をどうしたら復元できるかを検討すべきであって、伐採して非森林空間にすればいいというものではありません。
第3回ワークショップ(2010年12月2日)において、治水課は「伐採跡地の再樹林化を防ぎ、草原として維持していくための工夫や維持管理が必要となる。」と発言し、河畔林を伐採して人工的草原を維持することの難しさを認めています。
結 論
今回の河畔林伐採は整備計画を形骸化するものであり、河畔林に依存する生物への配慮にも欠けるものでした。伐採して草原にしたいというものの、どのような草原環境を実現しようとしているのかも明らかではありません。また外来種の侵入を防ぐ確信ももっていません。つまり今回の河畔林伐採は場当たり的、思いつき的な事業と判定せざるを得ません。
このようなことから、当会は今回の河畔林伐採については中断し、流下断面確保という目標を達成するよりよい方策を緻密に検討するよう、貴職に要望いたします。
なお、当会はかねてから指摘しているように、貴職が治水事業の拠りどころとしている計画高水流量や目標流量の数値に納得しているわけではないことを申し添えるとともに、貴職が十勝大橋で水位が0.5m下がるという根拠について丁寧に説明していただきたくお願いいたします。また今回の抜根にかかる経費の総額について明らかにしてください。
以上
幌加調整池通砂バイパストンネル工事についての要望と回答
居辺川砂防事業への質問に対する回答
平成27年度治水事業についての質問と意見に対する回答
平成27年度治水事業概要書についての質問と意見
「2015年8月17日付居辺川砂防事業計画についての申し入れ」の回答への質問
北電の新得発電所建設計画環境影響評価方法書に意見書
居辺川砂防事業への質問に対する回答
平成27年度治水事業についての質問と意見に対する回答
平成27年度治水事業概要書についての質問と意見
「2015年8月17日付居辺川砂防事業計画についての申し入れ」の回答への質問
北電の新得発電所建設計画環境影響評価方法書に意見書
Posted by 十勝自然保護協会 at 21:56│Comments(0)
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