十勝自然保護協会 活動速報 › 河川・ダム › 新岩松発電所新設工事環境影響評価見解書への意見書
2012年11月13日
新岩松発電所新設工事環境影響評価見解書への意見書
当会は、11月8日に新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書に係る事業者の見解書に対する意見書(下記)を事業者に送付した。
今後は北海道知事から諮問された北海道環境影響評価審議会が当会などの意見書も踏まえ、北電の環境影響評価準備書を審議していくことになる。審議会は小委員会委員を設置し、第1回の委員会が11月15日に開催されるという。なお、小委員会の委員は、帰山雅秀、池田 透、岡村俊邦、早矢仕有子、吉田国吉の各氏。慎重な審議を期待したい。
北電の見解書には説明不足、論点のすり替え、北海道の「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」の無視などの問題があることから意見書を提出する。
本論に入る前に改善すべき点を指摘しておく。「準備書」は縦覧期間しかインターネットで公開されておらず、コピーもプリントもできない仕様になっている。このため意見を書く際に確認することができない。なぜ「準備書」を非公開にしてしまうのか理解しがたい。環境保全が本当に大事であると考えるのであれば、方法書、準備書、評価書などはいつでも閲覧できるようにしておくべきである。
1.虚偽記載について
当会が「北電が配慮すべき希少動植物の存在を知りながら野生生物への配慮を記載しなかったのは否定しようのない事実である。『既存資料(方法書の段階)では、対象事業による野生生物への影響を確認することができなかったため』と『配慮』を『影響』にすり替えての言い訳は、見苦しい限りである。包み隠さず事実関係を明らかにし、道民に謝罪すべきである。」と指摘したのに対し、北電は「今回、新岩松発電所新設工事を実施する区域(対象事業実施区域)及びその周辺に、どの程度、生息・生育するかまでの詳細な記載はなかったため、工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮 (6)動植物』は記載しておりません。」と「配慮」を「影響」にすり替える言い訳を繰り返した。
この言い訳が成り立たないことをまず明らかにする。
北海道には、事業者が環境影響評価を実施するに当たって、方法書、準備書等の記載事項について定めるとともに、事業者が調査、予測及び評価の手法等環境影響評価を行う上で必要な技術的事項を選定するに当たり考慮すべき標準的事項を定めた「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」(以下、「指針」)と、この指針に解説を付した「環境影響評価技術指針の解説」(以下、「指針の解説」)がある。
方法書について指針の「(1) 事業計画の立案」には次のように書かれている。
ア 事業計画を立案する段階から、環境保全に関する法令の遵守はもちろん、道等が定めた環境保全に係る各種の指針等の趣旨を踏まえ事業者が自ら環境に配慮することは、環境保全を図る上で、極めて重要である。事業計画の立案に当たり考慮すべき道が定めた環境保全に係る各種の指針等は、次のとおりである。(略)
イ アの趣旨を踏まえ、方法書の事業計画の概要には、事業者の環境保全に対する基本的な考え方及び①事業計画の立案に際して行った環境への配慮を含めて記載すること。
そして、指針の解説には「本指針では、事業計画の内容決定に柔軟性を有している早い段階から環境配慮が適切に行われるように、事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載することとしたものである。」と書かれている。
つまり、指針は「事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載する」ことを求めているのであって、具体的な影響を予測することなど求めていないのである。したがって、「工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮 (6)動植物』は記載しておりません。」との北電の言い訳は成り立たない。
また北電は、現地調査を行わなかったが、既存文献で重要な動植物種が生息することは知っていた。しかし詳細な記載がなかったためこの動植物種への影響を予測できなかった、との論理を展開しているが、このような論理が成り立たないことは、指針および指針の解説を読めば明らかである。
指針の「第3-2 方法書 (2) 地域特性」の把握には次のように書かれている。
ア 環境影響評価の項目や調査等の手法の選定に当たっては、その選定を行うために必要な範囲内で、次に掲げる地域特性(事業実施区域及びその周辺地域の自然的状況及び社会的状況)を把握するものとする。
イ 地域特性の把握は、④既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行うこと。なお、⑤現況の情報のみならず、過去の状況の推移及び将来の状況も把握すること。
そして指針の解説には次のように書かれている。
④「既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行う」地域特性の把握については、一般に入手可能な最新の文献、資料等を中心に、環境影響評価の項目等の選定に必要な情報を広く収集する。なお、採用した文献等については、その出典を明らかにする必要がある。(第3-7の(1)参照)また、文献等による調査では必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等からの聴取等により補足する必要がある。
つまり、北海道は事業者に対し詳細が分からず必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等から聞取りをすることを求めているのであり、現地調査を行わなかったから、詳細が分からないというのは理由にならないのである。
このように北電の見解書は、指針を無視して手続きを進めてきたことを自ら証言しているのである。
当会は、前述のように準備書への意見で、2011年の環境推進課の文書に基づき北電の見解が虚偽であることを指摘したが、その後入手した道の開示文書から北電の見解書がいかに欺瞞に満ちたものであるかを明らかにする。
2010(平成22)年11月12日に、北海道環境推進課によって作成された文書「岩松発電所再開発計画に係る事業者説明において」によれば、同日、北電は環境推進課と今回の事業に関し事前相談を行っている。この席で北電が「第二種事業判定においてはいずれも該当無し(つまりアセス不要となる)と判断している」と主張したのに対し、環境推進課は以下のように指導している。
(2)******について
******や******から聞き取りを行ったところ、当該地域には******が存在する蓋然性が高いという話であったことから、当方としては、第二種事業届出書の提出があった場合、「アセスを要する」と判断することになろうかと思う。
事業者として、既存文献には現れない当該種の情報収集や、アセス書を提出する場合に当該種の情報をどのように扱うべきか等について、上記2名などの専門家に聞き取りを行ったほうがよいのでは。
つづいて2010(平成22)年11月26日に事前相談が行われ、北電は以下のように説明した(同日付環境推進課作成文書「岩松発電所再開発計画に係る事前相談について」による)。
①(近くで開発局がおこなっている、かんがい排水事業の自主アセスにならって)自主アセスを実施することで環境配慮の責任を果たすこととしたい。
②******の専門家である、************に助言をいただいた。開発の規模からも自主アセスを実施することでも、環境の保全は担保されるのではないか、との私見をいただいた。
③******の情報の取り扱いについては慎重を期する必要があるが、アセスを実施することにより情報を流布させてしまう危険性がある。
④実際にアセスを実施するとして、******の情報を一切出さないとなると評価書の記載はどのようにすればいいのか苦慮する。
⑤略
⑥***については生息の情報はない。屈足湖の発電ではJ-POWERが調査を実施しているが、生息魚類はウグイとニジマスぐらいだった。
これに対し、環境推進課は以下のように指摘した。
①条例によるアセスでは住民とのコミュニケーション手続きがある。自主アセスではそれが規定されておらず、内容には大きな差がある。条例対象規模(第2種)であるから、適正な手続きを踏むということであれば条例によるべきであろう。
②希少種(******)の情報が外に漏れるおそれがあるからアセスをしないというのは理由にならない。
③事業者が自主アセスを実施することにより、スクリーニングで条例のアセス手続きを不要にするということはありえない。仮に自主アセスをやるとした場合、その実施の意味は、環境への影響のおそれを事業者自らが判断したからであろう。であれば、事業者がそのような判断を下すような事業について、道がスクリーニングでアセス不要という結果を下すことはないのではないか。
④略
⑤非公式情報であるが、***が生息するという情報がある。注意してもらいたい。
(当会注:黒塗りは開示にさいして北海道が行なったもので、黒塗りの生物種はシマフクロウとイトウである。)
北海道の指導により、北電は、「会社内部の整理上の問題もあるので、第2種事業届出(別添案のとおり)をし、道の判断を仰ぎ、しかるべき対応をとることとしたい。」と、当初固執していた「自主アセス」の方針を変更することになったのである。
このように北海道は、希少動物への影響を懸念して、条例に基づく環境影響評価を行うことを求めたにもかかわらず、また事前相談の主要なテーマが希少種シマフクロウのことであったにもかかわらず、北電は動植物への配慮を方法書に記載しなかったのである。
以上の指摘を真摯に受け止め、北電は道民を誤魔化すことなく、動植物への配慮を方法書に記載しなかった本当の理由をきちんと説明しなければならない。
3.シマフクロウ調査の瑕疵について
「調査対象範囲でシマフクロウを確認できなかった北電の調査には重大な瑕疵があったということである。社会の信頼を得られるきちんとした調査で現状を把握せずに環境影響評価を行うのは論外である。シマフクロウの調査をやりなおすべきである。」との当会の意見に対し、北電は「希少猛禽類の調査は、定点調査により調査対象範囲(対象事業実施区域の周囲約500mまでの範囲)及びその周辺における生息状況を把握し、この生息状況をもとに現地踏査を実施して営巣地の有無を把握しています。これら調査結果から、希少猛禽類は十分な影響評価が可能であると考えています。(略)特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため生息情報と影響予測・評価は、別冊版に取り纏め、北海道の審査を受けることになっています。なお、説明会における、生態系の「上位性」の注目種にシマフクロウを選定しなかった理由につきましては、当社は「対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息は確認されていないことから選定していない」としています。」との見解を明らかにした。
発電に使われた水が流れ下る岩松発電所の放水路は、発電を停止すると水位が下がり、プール状となる。そうするとこの溜りに多くの魚類がとり残され、シマフクロウが採食に訪れことが知られている。ここが対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)であることはいうまでもない。北電が対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)でどのような調査をしてシマフクロウを確認できなかったのか、非公開のためわからないのだが、対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)でシマフクロウを確認できなかった北電の調査には重大な瑕疵があったということである。社会の信頼を得られるきちんとした調査で現状を把握せずに環境影響評価を行うのは論外であり、シマフクロウの調査をやりなおすべきである。
4.肝心な情報の非公開について
今回の環境影響評価の最大のポイントは、シマフクロウの繁殖あるいは生息に対する建設工事の影響であるから、肝心なことがいっさい非公開というのは、この制度を形骸化させるものである。シマフクロウへの影響がどのように評価されているか、道民が意見を述べられるようにすべきである、との当会の意見に対し、北電は、知事意見を盾に「特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため生息情報と影響予測・評価は、別冊版に取り纏め、北海道の審査を受けることになっています。」とし、「シマフクロウへの影響がどのように評価されているか、道民が意見を述べられるようにすべきである」との意見に答えようとしない。
これは道民の意見は聞かず、一部の者にすべてを委ねて秘密裏に処理するという姿勢である。国民・道民の財産である希少動物の保護に関し、道民の意見を聞く必要は一切ないと理解できるが、この点についてきちんとした説明をするべきである。
5.要約書の欠陥について
当会が「要約書の『環境影響評価の結果』には本事業で最も影響が懸念されるシマフクロウについて一切書かれていない。これでは事業予定地一帯がシマフクロウの生息地であることを無視ないし否定しているようなものである。アセスメントの要約書として欠陥がある」と指摘したのに対し、北電は、知事意見を根拠に、「特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため要約書におきましても、準備書でシマフクロウの調査範囲や生息情報等を非公開としていることに配慮したものです。」との見解を述べている。
しかし、準備書には、現地調査結果および予測対象種としてシマフクロウが記載されているし、1で述べたように、シマフクロウの生息地であるがゆえに条例に基づく手続きを行なったのである。したがって要約書にシマフクロウの種名を記載しないのは一貫性のない扱いであるうえ、重要な種の存在を隠蔽することに通じる。要約書にシマフクロウの種名を記載しなかった理由を明らかにしなければならない。
6.選択肢の追加について
シマフクロウという希少猛禽類への影響が懸念される以上、既存の規模のまま水車や発電機を新しいものに交換するという選択肢が検討されてしかるべきである。これを選択肢に加えて再度環境影響評価を行うべきである。との当会の意見に対し、北電は、「新岩松発電所新設計画策定にあたっては、河川の流量や発電機の効率などから想定される可能発電電力量を算出した上で発電所の経済性を評価しています」と経済性を優先した計画策定であるとの見解を明らかにした。
経済性を優先して取水量を増やせば、河川の流量が大きく変動することになり河川生態系、とりわけフクドジョウ・イトウなどの絶滅危惧種に悪影響を生じさせることを指摘しておく。事業費からも、環境への影響からも現在の発電規模を変えずに老朽化した部分だけを交換することが最善であることは言うまでもない。このような選択肢をはじめから用意しない計画策定は「はじめに事業ありき」であり、環境影響評価条例の趣旨に反する。このような経済性優先の計画策定であるから、動植物への配慮を方法書に記載できなかったといわれても仕方がない。
7.類似工事の前例について
「シマフクロウの営巣地あるいは採餌場の近くでこのような発破を伴う大規模な工事によって、ストレスなどの影響を与えなかったと断定できるデータが得られているのか明らかにすべきである。」との当会の意見に対し、北電は、「シマフクロウの繁殖を阻害せず実施した事例はあります。」とこたえたものの、発破を伴う大規模な工事によって、ストレスなどの影響を与えなかったと断定できるデータについては答えていない。すなわち、ストレスを与えないとは言えないということである。
8.上位性の種の選定について
北電は、今回の見解書で「生態系の『上位性』の注目種にシマフクロウを選定しなかった理由につきましては、当社は『対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息は確認されていないことから選定していない』としています。」と述べている。
つまり、北電は、生態系の対象範囲が対象事業実施区域に限定されるという見解を持ち出してきた。しかし指針の解説では、「生態系の保全」について「概況調査の結果から、事業実施区域及びその周辺において生物の生息(育)がほとんど認められないことが明らかな場合を除き、原則として環境影響評価の対象項目とする。」(p133)とし、生態系の対象範囲を対象事業実施区域とその周辺と定義しているのである。
また、平成23年11月17日付で北海道知事が出した「新岩松発電所新設工事環境影響評価方法書に対する環境保全の見地からの意見について」では以下のように述べられている。
(2)当該事業の実施により発電所放流口の移設や取水量が増加するなど、河川生態系への影響が懸念される。当該事業実施区域およびその周辺には採餌を河川に依存する希少種が生息する可能性があることから、当該事業の実施が要因となる河川生態系の変化が本地域の生態系上位種に与える影響について、準備書において予測・評価することが必要である。よって、「生態系」についても評価項目として選定し、食物網図を用いるなどして種間関係を構造的に把握すること。
知事は、事業実施区域及びその周辺には採餌を河川に依存する希少種が生息する可能性があるから、本地域の生態系上位種に与える影響について注意を喚起しているのである。生態系の対象範囲が対象事業実施区域に限定されるという北電の見解は、知事意見を無視するものである。なおここでいう「河川に依存する希少種」にシマフクロウが含まれることはいうまでもない。したがってシマフクロウを「上位性」の注目種に選定しなかった理由を北電はきちんと説明しなければならない。
9.工事計画等の調整で対処することについて
「準備書に記載した『重要な行動』とは、希少猛禽類の『繁殖に係る行動』を示しています」とのことだが、繁殖への影響しか考慮しないのは不十分である。工事による影響で他の場所に移動してしまう可能性などはなぜ考慮しないのか。また、岩松地区は環境省がシマフクロウの保護増殖事業(給餌や巣箱かけ)を行っているところである。たとえシマフウロウが1羽だけで繁殖できない状態の場合でも、あるいは姿を消したということがあったとしても、他の地域から分散してくる個体が定着して繁殖できる場所である。シマフクロウにストレスを与え定着に影響を及ぼす可能性のある事業は、繁殖しているか否かに関わらず回避しなければならない。繁殖を阻害しなければいいという判断は誰によるものなのか、明らかにしていただきたい。
「もし、調査対象範囲及びその近傍で繁殖が確認された場合には…」とのことだが、3で指摘したように放水路でシマフクロウを確認できない調査は信用に足るものではない。しかも、調査自体がシマフクロウに悪影響を与えないように慎重に行わなければならないのである。繁殖しているか、あるいは繁殖に影響を及ぼしているか否かを常に確認しなければならないようなところで事業を行うこと自体が問題といわなければならない。
「調査対象範囲及びその近傍」での繁殖への影響しか考えていないのは驚くべきことである。行動圏の広い猛禽類への影響の範囲を500m程度とする根拠を示していただきたい。ちなみに、世界ラリー選手権において主催者である毎日新聞は、コース選定にあたってシマフクロウの繁殖地から5km以内の場所を避けるとしていた。なお、事業者はもちろん知っているはずだが、シマフクロウの重要な採餌場が図に示された調査対象範囲内にある。また繁殖地は本事業の実施場所の5キロよりはるかに近いところにあることを指摘しておく。
10.猛禽類に与えるストレスについて
9の意見で述べたように、猛禽類への影響を考慮する範囲を500m程度とする根拠を明らかにすべきである。
当会は騒音、振動、人や自動車の往来、環境の変化がストレスを与えると指摘しているのであり、繁殖への影響だけを問題視しているわけではない。繁殖さえ成功すれば、希少動物にストレスを与えてもよいという考えなのか。
事業対象地一帯はシマフクロウの生息地となっており、日中にシマフクロウが事業対象地の近くにいる可能性もあることを指摘しておく。
12.重要な種の影響予測について
ここで指摘しているのは「ほかにも生育(生息)環境があるから大丈夫」との論法では、どんなに貴重な環境でも破壊できることになり、アセスの意味がないということである。しかし、見解は相変わらず「ほかにも生育(生息)環境があるから影響が少ない」という内容で、意見に対応する見解となっていない。
今日までに人類は大変な自然破壊を行い、多くの種を絶滅に追い込んできた。そのような反省から生物多様性の保全が求められ、環境影響評価が行われるのである。意見6で述べた選択肢があれば新たな環境破壊は防げるにも関わらず、「ほかにも生育(生息)環境があるから影響が少ない」との論法を主張するのは欺瞞である。
13.騒音の予測・評価を行った地点について
近傍民家の位置を示していただきたい。
たった500m程度の距離しか考慮せず、営巣地が確認されていないから影響が小さい、などという主張はすべきでない。繰り返すが、事業実施区域の含む周辺一帯はシマフクロウの行動圏の範囲内である。
なお、騒音および振動の環境保全措置として「建設機械の稼働時間は原則として夜間を避け…」としているが、シマフクロウの活動時間は日長によって左右され、日長の短い秋や冬は夕方から活動時間となる。「原則として夜間を避け」などという曖昧な保全措置は不適切である。
14.騒音の数値について
「準備書」がホームページより削除され数値が確認できないが、既設発電所の撤去作業での騒音予測値(L5)が74dBで環境基準値の70dB以上であるなら要約書にもその数値を記載すべきである。
15.専門家の氏名の公表について
当会の「指導内容に責任をもたせるため、専門家の氏名を明らかにすべきである。」との意見に対し、北電は、「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」では「専門分野を明らかにすること」とされているが、氏名までは明らかにすることになってないし、環境省も「助言した専門家個人が特定された場合、多くの意見が個人に集中し対応不能となるといった事態も想定されるため、過去の判例も考慮し、これら情報によって専門家個人が特定されることのないよう配慮が必要である」(「環境影響評価法に基づく基本的事項等に関する技術検討委員会報告書」平成24 年3 月)としているから、非公開とするとの見解を明らかにした。
希少動物であるシマフクロウの情報自体が非公開であり、シマフクロウへの影響が専門家の判断に任されるのであれば、本事業のアセスにおいて最も重要な種に対する影響の判断は秘密裏に行われることになる。つまり情報を入手し判断を委ねられる専門家は大きな責任を負っているのである。本人に氏名公表の可否を確認したうえで、了解を得られた人物については氏名を公表すべきである。「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」では氏名を明らかにせよとしていないが、氏名を明らかにしてはならないともしていない。氏名を公表できないような専門家のアドバイスは社会の評価に耐えられないことも肝に銘じなければならない。
さきごろ原子力規制委員会は、大飯原発の活断層調査に携わる専門家の選出に当たって、関連学術団体に推薦を要請し、そのなかから今まで原発の安全審査に携わらなかった専門家を調査委員に選定した。これは専門家による評価の透明性、信頼性を高めるためにおこなわれたものである。北電もこれにならって依頼した猛禽類専門家の氏名を公表すべきである。そうすれば過去に開発事業で猛禽類保護についてどのようなアドバイスした人物か知ることができるから、環境影響評価が適切におこなわれているか、道民が一定の判断をくだせるようになる。
「過去の判例」にふれているが、これは辺野古基地建設の地質調査・海象調査などに係る専門家の氏名開示請求をめぐる判例と保護司名簿に記載された保護司の氏名の開示をめぐる判例のことである。シマフクロウに関するあらゆる情報が非公開になっている今回のケースと同列に扱うべきではない。専門家の名前を公表することで多くの意見が個人に集中し対応不能になるといった事態が想定されるというが、たとえ多くの意見が寄せられても個人個人に回答をする必要はなく、まとめて見解を公表すればいいことである。
最後に専門家のアドバイスに関して言っておかなければならないことがある。
前述のように、2010(平成22)年11月26日に事前相談が行われた際、北電は「******の専門家である、************に助言をいただいた。開発の規模からも自主アセスを実施することでも、環境の保全は担保されるのではないか、との私見をいただいた。」と環境推進課に語っている(同日付環境推進課作成文書「岩松発電所再開発計画に係る事前相談について」による。)。
今回、第二種事業であるが、環境推進課がアセス必要との判断をくだしたのは、「第二種事業に係る判定基準」(平成11年1月25日北海道告示第126号)の「野生生物の重要な生息地」に基づくものであると理解できる。
もし、この私見を猛禽類専門家が自発的に北電に提示したのであれば、猛禽類専門家としての守備範囲を超える行政手続きについて、北海道が定めた基準を無視ないし軽視するよう北電に求めたことになる。北海道の基準などを遵守できない猛禽類専門家に条例に基づく環境影響評価について、アドバイスを求めるべきではない。
もし、猛禽類専門家が北電の求めに応じてこのような私見を出したのであれば、北電の見識が厳しく問われる。北電が当初意図していた自主アセスを実現するため、猛禽類専門家の「権威」をかざしながら行政の担当者に迫ったと解されるからである。このことについて北電はきちんと説明しなければならない。
付記 本ブログでは、開示文書の黒塗り部分を******に変換している。
今後は北海道知事から諮問された北海道環境影響評価審議会が当会などの意見書も踏まえ、北電の環境影響評価準備書を審議していくことになる。審議会は小委員会委員を設置し、第1回の委員会が11月15日に開催されるという。なお、小委員会の委員は、帰山雅秀、池田 透、岡村俊邦、早矢仕有子、吉田国吉の各氏。慎重な審議を期待したい。
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北電の見解書には説明不足、論点のすり替え、北海道の「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」の無視などの問題があることから意見書を提出する。
本論に入る前に改善すべき点を指摘しておく。「準備書」は縦覧期間しかインターネットで公開されておらず、コピーもプリントもできない仕様になっている。このため意見を書く際に確認することができない。なぜ「準備書」を非公開にしてしまうのか理解しがたい。環境保全が本当に大事であると考えるのであれば、方法書、準備書、評価書などはいつでも閲覧できるようにしておくべきである。
1.虚偽記載について
当会が「北電が配慮すべき希少動植物の存在を知りながら野生生物への配慮を記載しなかったのは否定しようのない事実である。『既存資料(方法書の段階)では、対象事業による野生生物への影響を確認することができなかったため』と『配慮』を『影響』にすり替えての言い訳は、見苦しい限りである。包み隠さず事実関係を明らかにし、道民に謝罪すべきである。」と指摘したのに対し、北電は「今回、新岩松発電所新設工事を実施する区域(対象事業実施区域)及びその周辺に、どの程度、生息・生育するかまでの詳細な記載はなかったため、工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮 (6)動植物』は記載しておりません。」と「配慮」を「影響」にすり替える言い訳を繰り返した。
この言い訳が成り立たないことをまず明らかにする。
北海道には、事業者が環境影響評価を実施するに当たって、方法書、準備書等の記載事項について定めるとともに、事業者が調査、予測及び評価の手法等環境影響評価を行う上で必要な技術的事項を選定するに当たり考慮すべき標準的事項を定めた「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」(以下、「指針」)と、この指針に解説を付した「環境影響評価技術指針の解説」(以下、「指針の解説」)がある。
方法書について指針の「(1) 事業計画の立案」には次のように書かれている。
ア 事業計画を立案する段階から、環境保全に関する法令の遵守はもちろん、道等が定めた環境保全に係る各種の指針等の趣旨を踏まえ事業者が自ら環境に配慮することは、環境保全を図る上で、極めて重要である。事業計画の立案に当たり考慮すべき道が定めた環境保全に係る各種の指針等は、次のとおりである。(略)
イ アの趣旨を踏まえ、方法書の事業計画の概要には、事業者の環境保全に対する基本的な考え方及び①事業計画の立案に際して行った環境への配慮を含めて記載すること。
そして、指針の解説には「本指針では、事業計画の内容決定に柔軟性を有している早い段階から環境配慮が適切に行われるように、事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載することとしたものである。」と書かれている。
つまり、指針は「事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載する」ことを求めているのであって、具体的な影響を予測することなど求めていないのである。したがって、「工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮 (6)動植物』は記載しておりません。」との北電の言い訳は成り立たない。
また北電は、現地調査を行わなかったが、既存文献で重要な動植物種が生息することは知っていた。しかし詳細な記載がなかったためこの動植物種への影響を予測できなかった、との論理を展開しているが、このような論理が成り立たないことは、指針および指針の解説を読めば明らかである。
指針の「第3-2 方法書 (2) 地域特性」の把握には次のように書かれている。
ア 環境影響評価の項目や調査等の手法の選定に当たっては、その選定を行うために必要な範囲内で、次に掲げる地域特性(事業実施区域及びその周辺地域の自然的状況及び社会的状況)を把握するものとする。
イ 地域特性の把握は、④既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行うこと。なお、⑤現況の情報のみならず、過去の状況の推移及び将来の状況も把握すること。
そして指針の解説には次のように書かれている。
④「既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行う」地域特性の把握については、一般に入手可能な最新の文献、資料等を中心に、環境影響評価の項目等の選定に必要な情報を広く収集する。なお、採用した文献等については、その出典を明らかにする必要がある。(第3-7の(1)参照)また、文献等による調査では必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等からの聴取等により補足する必要がある。
つまり、北海道は事業者に対し詳細が分からず必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等から聞取りをすることを求めているのであり、現地調査を行わなかったから、詳細が分からないというのは理由にならないのである。
このように北電の見解書は、指針を無視して手続きを進めてきたことを自ら証言しているのである。
当会は、前述のように準備書への意見で、2011年の環境推進課の文書に基づき北電の見解が虚偽であることを指摘したが、その後入手した道の開示文書から北電の見解書がいかに欺瞞に満ちたものであるかを明らかにする。
2010(平成22)年11月12日に、北海道環境推進課によって作成された文書「岩松発電所再開発計画に係る事業者説明において」によれば、同日、北電は環境推進課と今回の事業に関し事前相談を行っている。この席で北電が「第二種事業判定においてはいずれも該当無し(つまりアセス不要となる)と判断している」と主張したのに対し、環境推進課は以下のように指導している。
(2)******について
******や******から聞き取りを行ったところ、当該地域には******が存在する蓋然性が高いという話であったことから、当方としては、第二種事業届出書の提出があった場合、「アセスを要する」と判断することになろうかと思う。
事業者として、既存文献には現れない当該種の情報収集や、アセス書を提出する場合に当該種の情報をどのように扱うべきか等について、上記2名などの専門家に聞き取りを行ったほうがよいのでは。
つづいて2010(平成22)年11月26日に事前相談が行われ、北電は以下のように説明した(同日付環境推進課作成文書「岩松発電所再開発計画に係る事前相談について」による)。
①(近くで開発局がおこなっている、かんがい排水事業の自主アセスにならって)自主アセスを実施することで環境配慮の責任を果たすこととしたい。
②******の専門家である、************に助言をいただいた。開発の規模からも自主アセスを実施することでも、環境の保全は担保されるのではないか、との私見をいただいた。
③******の情報の取り扱いについては慎重を期する必要があるが、アセスを実施することにより情報を流布させてしまう危険性がある。
④実際にアセスを実施するとして、******の情報を一切出さないとなると評価書の記載はどのようにすればいいのか苦慮する。
⑤略
⑥***については生息の情報はない。屈足湖の発電ではJ-POWERが調査を実施しているが、生息魚類はウグイとニジマスぐらいだった。
これに対し、環境推進課は以下のように指摘した。
①条例によるアセスでは住民とのコミュニケーション手続きがある。自主アセスではそれが規定されておらず、内容には大きな差がある。条例対象規模(第2種)であるから、適正な手続きを踏むということであれば条例によるべきであろう。
②希少種(******)の情報が外に漏れるおそれがあるからアセスをしないというのは理由にならない。
③事業者が自主アセスを実施することにより、スクリーニングで条例のアセス手続きを不要にするということはありえない。仮に自主アセスをやるとした場合、その実施の意味は、環境への影響のおそれを事業者自らが判断したからであろう。であれば、事業者がそのような判断を下すような事業について、道がスクリーニングでアセス不要という結果を下すことはないのではないか。
④略
⑤非公式情報であるが、***が生息するという情報がある。注意してもらいたい。
(当会注:黒塗りは開示にさいして北海道が行なったもので、黒塗りの生物種はシマフクロウとイトウである。)
北海道の指導により、北電は、「会社内部の整理上の問題もあるので、第2種事業届出(別添案のとおり)をし、道の判断を仰ぎ、しかるべき対応をとることとしたい。」と、当初固執していた「自主アセス」の方針を変更することになったのである。
このように北海道は、希少動物への影響を懸念して、条例に基づく環境影響評価を行うことを求めたにもかかわらず、また事前相談の主要なテーマが希少種シマフクロウのことであったにもかかわらず、北電は動植物への配慮を方法書に記載しなかったのである。
以上の指摘を真摯に受け止め、北電は道民を誤魔化すことなく、動植物への配慮を方法書に記載しなかった本当の理由をきちんと説明しなければならない。
3.シマフクロウ調査の瑕疵について
「調査対象範囲でシマフクロウを確認できなかった北電の調査には重大な瑕疵があったということである。社会の信頼を得られるきちんとした調査で現状を把握せずに環境影響評価を行うのは論外である。シマフクロウの調査をやりなおすべきである。」との当会の意見に対し、北電は「希少猛禽類の調査は、定点調査により調査対象範囲(対象事業実施区域の周囲約500mまでの範囲)及びその周辺における生息状況を把握し、この生息状況をもとに現地踏査を実施して営巣地の有無を把握しています。これら調査結果から、希少猛禽類は十分な影響評価が可能であると考えています。(略)特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため生息情報と影響予測・評価は、別冊版に取り纏め、北海道の審査を受けることになっています。なお、説明会における、生態系の「上位性」の注目種にシマフクロウを選定しなかった理由につきましては、当社は「対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息は確認されていないことから選定していない」としています。」との見解を明らかにした。
発電に使われた水が流れ下る岩松発電所の放水路は、発電を停止すると水位が下がり、プール状となる。そうするとこの溜りに多くの魚類がとり残され、シマフクロウが採食に訪れことが知られている。ここが対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)であることはいうまでもない。北電が対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)でどのような調査をしてシマフクロウを確認できなかったのか、非公開のためわからないのだが、対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)でシマフクロウを確認できなかった北電の調査には重大な瑕疵があったということである。社会の信頼を得られるきちんとした調査で現状を把握せずに環境影響評価を行うのは論外であり、シマフクロウの調査をやりなおすべきである。
4.肝心な情報の非公開について
今回の環境影響評価の最大のポイントは、シマフクロウの繁殖あるいは生息に対する建設工事の影響であるから、肝心なことがいっさい非公開というのは、この制度を形骸化させるものである。シマフクロウへの影響がどのように評価されているか、道民が意見を述べられるようにすべきである、との当会の意見に対し、北電は、知事意見を盾に「特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため生息情報と影響予測・評価は、別冊版に取り纏め、北海道の審査を受けることになっています。」とし、「シマフクロウへの影響がどのように評価されているか、道民が意見を述べられるようにすべきである」との意見に答えようとしない。
これは道民の意見は聞かず、一部の者にすべてを委ねて秘密裏に処理するという姿勢である。国民・道民の財産である希少動物の保護に関し、道民の意見を聞く必要は一切ないと理解できるが、この点についてきちんとした説明をするべきである。
5.要約書の欠陥について
当会が「要約書の『環境影響評価の結果』には本事業で最も影響が懸念されるシマフクロウについて一切書かれていない。これでは事業予定地一帯がシマフクロウの生息地であることを無視ないし否定しているようなものである。アセスメントの要約書として欠陥がある」と指摘したのに対し、北電は、知事意見を根拠に、「特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため要約書におきましても、準備書でシマフクロウの調査範囲や生息情報等を非公開としていることに配慮したものです。」との見解を述べている。
しかし、準備書には、現地調査結果および予測対象種としてシマフクロウが記載されているし、1で述べたように、シマフクロウの生息地であるがゆえに条例に基づく手続きを行なったのである。したがって要約書にシマフクロウの種名を記載しないのは一貫性のない扱いであるうえ、重要な種の存在を隠蔽することに通じる。要約書にシマフクロウの種名を記載しなかった理由を明らかにしなければならない。
6.選択肢の追加について
シマフクロウという希少猛禽類への影響が懸念される以上、既存の規模のまま水車や発電機を新しいものに交換するという選択肢が検討されてしかるべきである。これを選択肢に加えて再度環境影響評価を行うべきである。との当会の意見に対し、北電は、「新岩松発電所新設計画策定にあたっては、河川の流量や発電機の効率などから想定される可能発電電力量を算出した上で発電所の経済性を評価しています」と経済性を優先した計画策定であるとの見解を明らかにした。
経済性を優先して取水量を増やせば、河川の流量が大きく変動することになり河川生態系、とりわけフクドジョウ・イトウなどの絶滅危惧種に悪影響を生じさせることを指摘しておく。事業費からも、環境への影響からも現在の発電規模を変えずに老朽化した部分だけを交換することが最善であることは言うまでもない。このような選択肢をはじめから用意しない計画策定は「はじめに事業ありき」であり、環境影響評価条例の趣旨に反する。このような経済性優先の計画策定であるから、動植物への配慮を方法書に記載できなかったといわれても仕方がない。
7.類似工事の前例について
「シマフクロウの営巣地あるいは採餌場の近くでこのような発破を伴う大規模な工事によって、ストレスなどの影響を与えなかったと断定できるデータが得られているのか明らかにすべきである。」との当会の意見に対し、北電は、「シマフクロウの繁殖を阻害せず実施した事例はあります。」とこたえたものの、発破を伴う大規模な工事によって、ストレスなどの影響を与えなかったと断定できるデータについては答えていない。すなわち、ストレスを与えないとは言えないということである。
8.上位性の種の選定について
北電は、今回の見解書で「生態系の『上位性』の注目種にシマフクロウを選定しなかった理由につきましては、当社は『対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息は確認されていないことから選定していない』としています。」と述べている。
つまり、北電は、生態系の対象範囲が対象事業実施区域に限定されるという見解を持ち出してきた。しかし指針の解説では、「生態系の保全」について「概況調査の結果から、事業実施区域及びその周辺において生物の生息(育)がほとんど認められないことが明らかな場合を除き、原則として環境影響評価の対象項目とする。」(p133)とし、生態系の対象範囲を対象事業実施区域とその周辺と定義しているのである。
また、平成23年11月17日付で北海道知事が出した「新岩松発電所新設工事環境影響評価方法書に対する環境保全の見地からの意見について」では以下のように述べられている。
(2)当該事業の実施により発電所放流口の移設や取水量が増加するなど、河川生態系への影響が懸念される。当該事業実施区域およびその周辺には採餌を河川に依存する希少種が生息する可能性があることから、当該事業の実施が要因となる河川生態系の変化が本地域の生態系上位種に与える影響について、準備書において予測・評価することが必要である。よって、「生態系」についても評価項目として選定し、食物網図を用いるなどして種間関係を構造的に把握すること。
知事は、事業実施区域及びその周辺には採餌を河川に依存する希少種が生息する可能性があるから、本地域の生態系上位種に与える影響について注意を喚起しているのである。生態系の対象範囲が対象事業実施区域に限定されるという北電の見解は、知事意見を無視するものである。なおここでいう「河川に依存する希少種」にシマフクロウが含まれることはいうまでもない。したがってシマフクロウを「上位性」の注目種に選定しなかった理由を北電はきちんと説明しなければならない。
9.工事計画等の調整で対処することについて
「準備書に記載した『重要な行動』とは、希少猛禽類の『繁殖に係る行動』を示しています」とのことだが、繁殖への影響しか考慮しないのは不十分である。工事による影響で他の場所に移動してしまう可能性などはなぜ考慮しないのか。また、岩松地区は環境省がシマフクロウの保護増殖事業(給餌や巣箱かけ)を行っているところである。たとえシマフウロウが1羽だけで繁殖できない状態の場合でも、あるいは姿を消したということがあったとしても、他の地域から分散してくる個体が定着して繁殖できる場所である。シマフクロウにストレスを与え定着に影響を及ぼす可能性のある事業は、繁殖しているか否かに関わらず回避しなければならない。繁殖を阻害しなければいいという判断は誰によるものなのか、明らかにしていただきたい。
「もし、調査対象範囲及びその近傍で繁殖が確認された場合には…」とのことだが、3で指摘したように放水路でシマフクロウを確認できない調査は信用に足るものではない。しかも、調査自体がシマフクロウに悪影響を与えないように慎重に行わなければならないのである。繁殖しているか、あるいは繁殖に影響を及ぼしているか否かを常に確認しなければならないようなところで事業を行うこと自体が問題といわなければならない。
「調査対象範囲及びその近傍」での繁殖への影響しか考えていないのは驚くべきことである。行動圏の広い猛禽類への影響の範囲を500m程度とする根拠を示していただきたい。ちなみに、世界ラリー選手権において主催者である毎日新聞は、コース選定にあたってシマフクロウの繁殖地から5km以内の場所を避けるとしていた。なお、事業者はもちろん知っているはずだが、シマフクロウの重要な採餌場が図に示された調査対象範囲内にある。また繁殖地は本事業の実施場所の5キロよりはるかに近いところにあることを指摘しておく。
10.猛禽類に与えるストレスについて
9の意見で述べたように、猛禽類への影響を考慮する範囲を500m程度とする根拠を明らかにすべきである。
当会は騒音、振動、人や自動車の往来、環境の変化がストレスを与えると指摘しているのであり、繁殖への影響だけを問題視しているわけではない。繁殖さえ成功すれば、希少動物にストレスを与えてもよいという考えなのか。
事業対象地一帯はシマフクロウの生息地となっており、日中にシマフクロウが事業対象地の近くにいる可能性もあることを指摘しておく。
12.重要な種の影響予測について
ここで指摘しているのは「ほかにも生育(生息)環境があるから大丈夫」との論法では、どんなに貴重な環境でも破壊できることになり、アセスの意味がないということである。しかし、見解は相変わらず「ほかにも生育(生息)環境があるから影響が少ない」という内容で、意見に対応する見解となっていない。
今日までに人類は大変な自然破壊を行い、多くの種を絶滅に追い込んできた。そのような反省から生物多様性の保全が求められ、環境影響評価が行われるのである。意見6で述べた選択肢があれば新たな環境破壊は防げるにも関わらず、「ほかにも生育(生息)環境があるから影響が少ない」との論法を主張するのは欺瞞である。
13.騒音の予測・評価を行った地点について
近傍民家の位置を示していただきたい。
たった500m程度の距離しか考慮せず、営巣地が確認されていないから影響が小さい、などという主張はすべきでない。繰り返すが、事業実施区域の含む周辺一帯はシマフクロウの行動圏の範囲内である。
なお、騒音および振動の環境保全措置として「建設機械の稼働時間は原則として夜間を避け…」としているが、シマフクロウの活動時間は日長によって左右され、日長の短い秋や冬は夕方から活動時間となる。「原則として夜間を避け」などという曖昧な保全措置は不適切である。
14.騒音の数値について
「準備書」がホームページより削除され数値が確認できないが、既設発電所の撤去作業での騒音予測値(L5)が74dBで環境基準値の70dB以上であるなら要約書にもその数値を記載すべきである。
15.専門家の氏名の公表について
当会の「指導内容に責任をもたせるため、専門家の氏名を明らかにすべきである。」との意見に対し、北電は、「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」では「専門分野を明らかにすること」とされているが、氏名までは明らかにすることになってないし、環境省も「助言した専門家個人が特定された場合、多くの意見が個人に集中し対応不能となるといった事態も想定されるため、過去の判例も考慮し、これら情報によって専門家個人が特定されることのないよう配慮が必要である」(「環境影響評価法に基づく基本的事項等に関する技術検討委員会報告書」平成24 年3 月)としているから、非公開とするとの見解を明らかにした。
希少動物であるシマフクロウの情報自体が非公開であり、シマフクロウへの影響が専門家の判断に任されるのであれば、本事業のアセスにおいて最も重要な種に対する影響の判断は秘密裏に行われることになる。つまり情報を入手し判断を委ねられる専門家は大きな責任を負っているのである。本人に氏名公表の可否を確認したうえで、了解を得られた人物については氏名を公表すべきである。「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」では氏名を明らかにせよとしていないが、氏名を明らかにしてはならないともしていない。氏名を公表できないような専門家のアドバイスは社会の評価に耐えられないことも肝に銘じなければならない。
さきごろ原子力規制委員会は、大飯原発の活断層調査に携わる専門家の選出に当たって、関連学術団体に推薦を要請し、そのなかから今まで原発の安全審査に携わらなかった専門家を調査委員に選定した。これは専門家による評価の透明性、信頼性を高めるためにおこなわれたものである。北電もこれにならって依頼した猛禽類専門家の氏名を公表すべきである。そうすれば過去に開発事業で猛禽類保護についてどのようなアドバイスした人物か知ることができるから、環境影響評価が適切におこなわれているか、道民が一定の判断をくだせるようになる。
「過去の判例」にふれているが、これは辺野古基地建設の地質調査・海象調査などに係る専門家の氏名開示請求をめぐる判例と保護司名簿に記載された保護司の氏名の開示をめぐる判例のことである。シマフクロウに関するあらゆる情報が非公開になっている今回のケースと同列に扱うべきではない。専門家の名前を公表することで多くの意見が個人に集中し対応不能になるといった事態が想定されるというが、たとえ多くの意見が寄せられても個人個人に回答をする必要はなく、まとめて見解を公表すればいいことである。
最後に専門家のアドバイスに関して言っておかなければならないことがある。
前述のように、2010(平成22)年11月26日に事前相談が行われた際、北電は「******の専門家である、************に助言をいただいた。開発の規模からも自主アセスを実施することでも、環境の保全は担保されるのではないか、との私見をいただいた。」と環境推進課に語っている(同日付環境推進課作成文書「岩松発電所再開発計画に係る事前相談について」による。)。
今回、第二種事業であるが、環境推進課がアセス必要との判断をくだしたのは、「第二種事業に係る判定基準」(平成11年1月25日北海道告示第126号)の「野生生物の重要な生息地」に基づくものであると理解できる。
もし、この私見を猛禽類専門家が自発的に北電に提示したのであれば、猛禽類専門家としての守備範囲を超える行政手続きについて、北海道が定めた基準を無視ないし軽視するよう北電に求めたことになる。北海道の基準などを遵守できない猛禽類専門家に条例に基づく環境影響評価について、アドバイスを求めるべきではない。
もし、猛禽類専門家が北電の求めに応じてこのような私見を出したのであれば、北電の見識が厳しく問われる。北電が当初意図していた自主アセスを実現するため、猛禽類専門家の「権威」をかざしながら行政の担当者に迫ったと解されるからである。このことについて北電はきちんと説明しなければならない。
以上
付記 本ブログでは、開示文書の黒塗り部分を******に変換している。
幌加調整池通砂バイパストンネル工事についての要望と回答
居辺川砂防事業への質問に対する回答
平成27年度治水事業についての質問と意見に対する回答
平成27年度治水事業概要書についての質問と意見
「2015年8月17日付居辺川砂防事業計画についての申し入れ」の回答への質問
北電の新得発電所建設計画環境影響評価方法書に意見書
居辺川砂防事業への質問に対する回答
平成27年度治水事業についての質問と意見に対する回答
平成27年度治水事業概要書についての質問と意見
「2015年8月17日付居辺川砂防事業計画についての申し入れ」の回答への質問
北電の新得発電所建設計画環境影響評価方法書に意見書
Posted by 十勝自然保護協会 at 18:58│Comments(0)
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