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2013年03月01日

十勝川水系河川整備計画変更原案に意見公述

 帯広開発建設部主催の「十勝川水系河川整備計画変更原案に関する公聴会」が2月28日帯広市で開催されました。当日、公述した十勝自然保護協会の意見を以下に掲載します。

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 今回の十勝川水系河川整備計画変更原案は、「札内川の礫河原再生の取り組み」を十勝川水系河川整備計画に盛り込むことが主要なテーマとなっています。
 「近年、河道内の樹林化が著しい札内川では、かつての河道内に広く見られた礫河原が急速に減少しており、氷河期の遺存種であるケショウヤナギの更新地環境の衰退が懸念されている」、だから「礫河原再生の取り組み」が必要だ、というのが提案の骨子です。
 そうならば、礫河原が急速に減少した原因について語られていなければならないのですが、この変更原案には、このことについての記述が全くありません。したがって、十勝自然保護協会は、なぜ礫河原が急速に減少したのかについて記述することを求めます。
 なお、当会は、帯広開発建設部のいうところの「礫河原」ではなく、「砂礫川原」という言葉を用います。なぜなら地形学辞典(町田ほか編)では「川原」を採用していますし、砂を含まない礫だけの川原などないからです。

 帯広開発建設部は、砂礫川原が急速に減少した原因について考察していなかったわけではありません。この変更原案を作成するに当たり、札内川技術検討会を設置し、帯広開発建設部はこの検討会に「河道内樹林化の原因分析」なる資料を提出して、河道内樹林化についての見方を明らかにしています。
 それによると、「融雪出水の冠水は樹林化に大きく影響を与え」「冠水する時期や頻度は河道内樹木の生育に影響を与え」るとし、H18~22年はH10~17年に比べて平均年最大流量が半減し、融雪期最大流量も減少傾向にある、だから樹林化が進行していると原因分析をしています。
 この原因分析は、札内川技術検討会での議論を経て作成された札内川自然再生計画書に、近年の年最大流量や融雪期の流量の減少傾向が河道内樹林化の主要因として引き継がれています。
 1998年、H10年以降の高々15年ほどの流量変動を基に河道内が樹林化している、だから砂礫河原の復元をしなければならないとの論理は、札内川の歴史の無視、あるいは札内川の歴史への無知と言わなければなりません。
 札内川がいつから網状流河川すなわち砂礫川原を持つ河川であったか、誰にも正確なことは分からないのですが、光地園礫層が形成された更新世中期(78~12.6万年前)のおそらく海洋酸素同位体ステージ12、すなわち約40万年前から札内川は砂礫川原をもつ網状流河川であったと考えていいでしょう。
 この長い歴史のなかでは、降雨量の減少などにより河畔林が拡大し砂礫川原が縮小したこともあったに違いありません。しかし数十年に1度、あるいは数百年に1度の大雨によって、河畔林が流され砂礫川原が出現したことでしょう。だからこそ、砂礫川原を生育地とするケショウヤナギが今日まで世代を重ねることができたのです。
 札内川自然再生計画書によれば、上札内橋付近では、平成に入った頃、つまり1989年ころから砂礫川原に樹木が定着したといい、第二大川橋付近ではH17年、2005年頃までは砂礫川原が維持されていたといいます。札内川の砂礫川原を写した空中写真で最も古いものは、1944年、昭和19年に旧陸軍が撮影したものですが、これには広々とした砂礫川原が写っています。1963年、1977年、1982年の国土地理院撮影の空中写真でも立派な砂礫川原を確認できます。
 札内川では1955年、1962年、1972年、1981年に洪水が発生したことが知られています(札内川自然再生計画書などによる)。帯広開発建設部によると1955年についてはデータが残されていないとのことですが、1962年と1972年の洪水における第二大川橋での最大流量はそれぞれ毎秒1,250立方メートルと1,400立方メートル程度と推定されます。しかし、1973年以降、この第二大川橋では最大流量が毎秒800立方メートル程度にしか達していません。つまり、1944年以降の札内川の立派な砂礫川原は、7年から10年間隔での大雨による大量出水によって維持されていたのですが、1973年以降、第二大川橋で毎秒1,000立方メートルを超える出水がないため、1989年頃から河畔林が拡大してきた、と理解すべきです。
 では、1973年以降札内川の集水域では、大量出水をもたらす大雨が降らなくなるような気候の変化が生じたのでしょうか。そのような事実はないでしょう。1998年、H10年以降、札内川の集水域では大量の降雨があっても大量出水しない仕組みができてしまったのです。大量出水しない仕組みとは、札内川ダムによる流量調整です。
 2011年、H23年9月の大雨では札内川ダムに毎秒630立方メートルの流入があったのですが、毎秒130立方メートルだけ放流されました。この時の第二大川橋での最大流量は毎秒552立方メートルありましたから、札内川ダムで貯留しなければ毎秒1,000立方メートルを超える流量となったことでしょう。また2001年に第二大川橋で毎秒800立方メートルの最大流量を観測していますが、この時も札内川ダムで貯留しなければ毎秒1,000立方メートルに近い流量となっていたと推測されます。つまり1973年以降も砂礫川原が拡大するチャンスが2回あったということです。

 今回、札内川技術検討会の委員長を勤めている北海道大学大学院教授の中村太士さんは、新聞のコラム(北海道新聞2009年7月8日付「魚眼図」)に次のように書いています。
 「日本の多くの川で『樹林化』が進んでいる。(中略)樹木が繁茂する理由はさまざまであるが、その多くは川が変動しなくなり、『洪水撹乱』が減ったことに原因がある。(中略)今の日本の川では、ダムや取水によって流量が低下もしくは安定し、河川改修によって『澪筋』が変動しなくなっているのが特徴である」。
 中村さんの言う通りのことが札内川で起こっていたのです。そして札内川技術検討会(第1回)の議事概要には「樹林化の原因の一つとして、札内川ダムによる流量調節や供給土砂の減少が考えられる。工学的な判断を行う上で、流量だけではなく土砂の情報も重要」と記されています。これは河川工学研究者の発言と思われますが、河川に精通している者にとってダムが樹林化を促進することは常識といってよいでしょう。それにもかかわらず、札内川自然再生計画書に札内川ダムがもたらす「樹林化」について書かれなかったのは不可解なことです。
 
 そしてもう一点不可解なことがあります。前述のように技術検討会で委員が指摘した札内川ダムによる供給土砂の減少について書かれていないことです。中村太士委員長も、2011年9月の新聞のコラム(北海道新聞2011年9月27日付「魚眼図」)で「ダム等で砂利が山から供給されなくなると、最後に川は基岩をえぐりエネルギーを消費する。これを英語で『hungry water』と呼ぶ。今、日本の川はおなかが減っており、砂利が必要だ」と指摘しています。
 札内川ダムそして戸蔦別川の砂防ダム群が、山間部で生産された土砂の流下を妨げていることは明らかです。長い時間でみるなら、現在ケショウヤナギが生育する流域の砂礫は下流に運ばれているのであり、上流から砂礫が補給されなければ、河床低下による河岸の段丘化が進みケショウヤナギの生育適地は縮小することになります。
 ケショウヤナギは、山岳部において岩屑生産が多く河川の砂礫移動の激しかった氷河期には北海道のもっと多くの河川に生育していたけれども、氷河期が終わって岩屑生産が減少し砂礫移動も乏しくなったため生育適地が消失し分布が縮小した、と推測されます。つまりケショウヤナギの生存には、出水による砂礫川原の出現とともに砂礫の供給が鍵を握っていると考えられるのです。

 帯広開発建設部が変更原案でダムのことに触れなかったのは、ダムの負の側面を隠したいとの意図があったのではと疑わざるを得ません。もしそうならば、国民を愚弄するものです。
 十勝自然保護協会は、今回の計画変更にあたって、札内川ダムが札内川の樹林化促進の要因であること、そしてダムが砂礫の流下を妨げていることを明記するよう求めます。
 例えば、「近年、河道内の樹林化が著しい札内川では、かつての河道内に広く見られた砂礫川原が札内川ダムでの流量調整によって急速に減少するとともに、今後砂礫の供給が困難になることから、氷河期の遺存種であるケショウヤナギの更新地環境の衰退が懸念されている」とすべきです。
 私たちは自然が発する事実に謙虚でなければなりません。事実を無視して適切な「自然再生」などできないからです。「札内川の礫河原再生の取り組みについては、礫河原再生の目標や進め方等について記載した『札内川自然再生計画書』を踏まえ」てやるというのであれば、札内川ダムと戸蔦別砂防ダム群の影響についてきちんと分析し、その結果を踏まえて、この札内川自然再生計画書を書き直すべきです。

 変更原案の記述についてふれておきます。札内川について「網状に蛇行して流れる」と書いているのですが、一般に網状とは河道の中の水流(流路)の状態であり、蛇行とは「河道が屈曲している状態」(地形学辞典)をいいます。したがって「網状に蛇行」は落ち着きの悪い表現です。蛇行を削除して、「網状に流れる」とするか、「網状河道が蛇行して流れる」とするほうがいいでしょう。ただし蛇行しない自然河川はありませんからくどいかもしれません。
 また、札内川自然再生計画書に「土壁」という言葉が出てきますが、これについは前回の意見書を踏まえ使わないことになったはずです。訂正を求めます。

 帯広開発建設部治水課は、これまで当会の質問あるいは意見に対し、速やかに対応することがほとんどありませんでした。札内川自然再生計画書の「図8-1 自然再生計画における地域及び関係機関との連携のイメージ」には市民団体の意見を聞き、河川管理者は情報の発信・広報をするとされています。これを絵に描いた餅に終わらせてはなりません。河川行政に責任を負う機関として、たとえ不都合な意見や質問であろうと速やかに、かつきちんと説明することを求めます。

 十勝自然保護協会は札内川自然再生計画が自然の摂理に背いたものにならないよう監視活動を続け、必要があれば意見することを表明します。


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Posted by 十勝自然保護協会 at 13:40│Comments(0)河川・ダム
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