十勝自然保護協会 活動速報 › 河川・ダム
2015年10月11日
「北海道管理河川の川づくりワーキング」についての申入れ
十勝総合振興局帯広建設管理部から9月30日付けで「北海道管理河川の川づくりワーキング」の案内がありました。
「より良い川づくりに向けて、従来より事業概要書に内容を記載のうえ関係各団体へ周知し、必要に応じ意見を伺っているところですが、事業の推進にあたり、自然環境への影響があると考えられる事業、緊急を要する事業について、川づくりの意見交換を行った上で河川整備を進めたく、ワーキングの開催を現在検討しております」とのことで、帯広川、伏古別川、渋山川、居辺川が今回のワーキングの対象河川となっています。
このワーキングについて10月5日に帯広建設管理部に説明を求めた上で、以下の申入書を送付しました。
十勝総合振興局 帯広建設管理部長 様
9月30日付『北海道管理河川の川づくりワーキング』の案内文書を10月2日に受け取りましたが、開催の趣旨等に理解しかねることがあることから、10月5日に帯広建設管理部において担当職員に説明を求めました。この説明内容を当会理事会で検討した結果、このワーキングの進め方に問題があることから以下の申入れをします。
貴職は、今回参加を案内している30数団体に毎年度の「治水事業概要書」を送付し、不明な点があれば個別に対応することを方針としてきました。当会はこの方針を尊重し、2012年以降、渋山川と居辺川の事業について疑問点の説明を求めるとともに意見書を提出してきました。この間、渋山川と居辺川の2河川については他団体からの意見等がなかったため、当会との間での話し合いが行われてきたところです。担当者が替わっているとはいえ、この経緯を貴職は忘れてはなりません。
さる8月17日付で当会は居辺川についての意見書を提出しましたが、これに対し貴職は見解を示していません。10月5日の面談の際担当者は、回答は来年度になるかもしれないとの見通しを明らかにしました。当会の意見を棚上げして、仕切り直しのような「ワーキング」を開催するなどというのは、この問題に真摯に取り組んできた当会を侮るものといわなければなりません。
当会は渋山川・居辺川について他団体のかかわりを排除するなどという偏狭な考えはありませんが、これまでの経緯は尊重されなければならないと考えます。つまりこれまでの当会と貴職との話し合いを踏まえ、その流れの上に参加を希望する団体があるのであれば、それを加え話し合いを進めるべきです。
したがって、ゼロから意見交換を始める帯広川・伏古別川と当会との話し合いを重ねてきた渋山川・居辺川を一緒くたに議論するのではなく、帯広川・伏古川と渋山川・居辺川を別々の会議で議論するよう申し入れます。
「より良い川づくりに向けて、従来より事業概要書に内容を記載のうえ関係各団体へ周知し、必要に応じ意見を伺っているところですが、事業の推進にあたり、自然環境への影響があると考えられる事業、緊急を要する事業について、川づくりの意見交換を行った上で河川整備を進めたく、ワーキングの開催を現在検討しております」とのことで、帯広川、伏古別川、渋山川、居辺川が今回のワーキングの対象河川となっています。
このワーキングについて10月5日に帯広建設管理部に説明を求めた上で、以下の申入書を送付しました。
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2015年10月9日
十勝総合振興局 帯広建設管理部長 様
十勝自然保護協会
『北海道管理河川の川づくりワーキング』についての申入れ
9月30日付『北海道管理河川の川づくりワーキング』の案内文書を10月2日に受け取りましたが、開催の趣旨等に理解しかねることがあることから、10月5日に帯広建設管理部において担当職員に説明を求めました。この説明内容を当会理事会で検討した結果、このワーキングの進め方に問題があることから以下の申入れをします。
貴職は、今回参加を案内している30数団体に毎年度の「治水事業概要書」を送付し、不明な点があれば個別に対応することを方針としてきました。当会はこの方針を尊重し、2012年以降、渋山川と居辺川の事業について疑問点の説明を求めるとともに意見書を提出してきました。この間、渋山川と居辺川の2河川については他団体からの意見等がなかったため、当会との間での話し合いが行われてきたところです。担当者が替わっているとはいえ、この経緯を貴職は忘れてはなりません。
さる8月17日付で当会は居辺川についての意見書を提出しましたが、これに対し貴職は見解を示していません。10月5日の面談の際担当者は、回答は来年度になるかもしれないとの見通しを明らかにしました。当会の意見を棚上げして、仕切り直しのような「ワーキング」を開催するなどというのは、この問題に真摯に取り組んできた当会を侮るものといわなければなりません。
当会は渋山川・居辺川について他団体のかかわりを排除するなどという偏狭な考えはありませんが、これまでの経緯は尊重されなければならないと考えます。つまりこれまでの当会と貴職との話し合いを踏まえ、その流れの上に参加を希望する団体があるのであれば、それを加え話し合いを進めるべきです。
したがって、ゼロから意見交換を始める帯広川・伏古別川と当会との話し合いを重ねてきた渋山川・居辺川を一緒くたに議論するのではなく、帯広川・伏古川と渋山川・居辺川を別々の会議で議論するよう申し入れます。
タグ :川づくりワーキング
2015年09月07日
居辺川砂防事業見直しを! 十勝総合振興局に申入れ
今年3月30日帯広建設管理部は、当初の計画案を一部変更した居辺川砂防事業計画を当会に説明しました。しかしこの計画には少なくない問題点があることから当会は6回にわたり書面で質問しました。その結果、この計画が居辺川の河川特性を十分理解した上での治水対策でないことがあきらかとなりました。このため計画の見直しを求め8月17日付で、下記の申入れ書を十勝総合振興局長宛てに提出しました。
当会は、2012年3月に帯広建設管理部から居辺川砂防事業計画案について説明を受けた。この計画案には12基の床固工と2基の遊砂工がもりこまれており、過剰な砂防対策であることから、帯広建設管理部と2度の話し合いをもち、3度の申入れを行ってきた。2015年3月に至り、帯広建設管理部は当初の計画案を少し手直しした計画を当会に示した。
このなかで、2012年3月には示されなかった、全体施設配置計画の目的が初めて提示された。つまり「1)H15年のような被災を防ぐ2)柏葉橋上流の河床露岩区間における河床高を維持し、砂礫河床に戻す3)朝陽橋~上流居辺橋(区間Ⅱ)の河床土砂堆積緩和のため、砂防区間からの土砂流出を低減する」の3点である。また、当初計画していた12基の床固工を半分に減らしてシミュレーションした結果も提示した。
この見直し計画について疑問点が多くあることから、当会は6度にわたり帯広建設管理部に質問を行うなどして検討を加えてきた。その結果、この計画は居辺川の河川特性を十分踏まえた治水対策になっていないとの結論に達した。
当会が居辺川の河川特性についてどのように理解しているか明らかにしておく。
1.山地に水源をもたない居辺川の砂礫供給源は、上流部の古期扇状地礫層であり、この扇状地礫層から居辺川への砂礫供給箇所は限られている。つまり将来にわたり限りなく多量の砂礫が河道に供給される可能性は低い。
2.居辺川は、水源近くでは傾斜のゆるやかな段丘面上を流れるが、標高291.4m付近(北緯43度15分17.61秒、東経143度23分44.83秒)で活断層上に到達し穿入蛇行incised meanderとなる(図1)。穿入蛇行は標高232.6m付近(北緯43度13分41.50秒、東経143度22分20.17秒)まで続く(図2)が、ここから下流では谷底が広がり自由蛇行free meanderとなる。そして標高178.9m付近(北緯43度11分13.08秒、東経143度22分20.32秒)で、微高地形によって流路が阻まれるため大きく曲流し、ここから再び穿入蛇行となる(図3)。
3.居辺川の両岸には十勝平野東縁起震断層の2本の活断層がある(図4)。つまり居辺川は断層活動地帯を流下する河川である。標高178.9m付近で再び穿入蛇行となるのは、ここから下流が断層活動によって隆起している可能性がある。なお、この曲流部の右岸の微高地形は沢からの土砂の流入も寄与しているようである。
4.このような地形条件のため、居辺川は標高178.9m地点付近で流速を減じ、運搬してきた砂礫を上流側に堆積する。図5に示すように、曲流部の上流側が砂礫川原の広い河道となるのに対し、下流側が砂礫川原の乏しい狭い河道となっているのはこのような事情による。つまり居辺川の砂礫移動を理解するうえで、この標高178.9m地点付近が重要な意味を持つ。

図1.居辺川の穿入蛇行開始地点(北緯43度15分17.61秒、東経143度23分44.83秒、標高291.4m付近)〈国土地理院ホームページより〉

図2.居辺川の自由蛇行開始地点(北緯43度13分41.50秒、東経143度22分20.17秒、標高232.6m付近)〈国土地理院ホームページより〉

図3.居辺川の再穿入蛇行地点(北緯43度11分13.08秒、東経143度22分20.32秒、標高178.9m付近)〈国土地理院ホームページより〉

図4.居辺川両岸の十勝平野東縁起震断層
〈https://gbank.gsj.jp/activefault/index_gmap.htmlより〉

図5.曲流部(矢印)の上流側の広い河道と下流側の狭い河道〈国土地理院ホームページより〉
居辺川の河川特性をこのように認識したうえで、貴職の見直し計画について当会の見解を述べる。
「1)H15年のような被災を防ぐ」について
これについては災害復旧事業により、旧東居辺小学校付近の護岸の強化、上流居辺橋の架け替えなどがなされており、すでに対策は講じられていると考える。
「2)柏葉橋上流の河床露岩区間における河床高を維持し、砂礫河床に戻す」について
穿入蛇行区間において、流入量が増大すると、激しい河床の洗掘がもたらされることは自明のことである。貴職の考えは6基の床固工で「河床高を維持し、砂礫河床に戻す」ということだが、東居辺橋を保護し下流右岸の河岸浸食を防止するという1号床固工については東居辺橋のすぐ上流の曲流部で水勢が弱まることから、床固工ではなく護岸工での対応を検討すべきである。
9号床固工~12号床固工について「河道の自然蛇行の回復」を目的に掲げているが、ここは本来河道の狭い穿入蛇行区間であり、「河道の自然蛇行の回復」よりも河床低下の防止に主眼を置くべきところである。つまり、「河道の自然蛇行の回復」を目的に掲げる必要性は乏しい。ここでは豪雨によって激しい河床低下が生ずるであろうことは容易に想像される。しかし、床固工だけに頼るのは持続可能な河川管理とは言いかねる。登山道洗掘対策の基本である流れを集中させないとの考え方を参考に、明渠末端部分の流路幅を広げるとか明渠の出口を分岐させるなど洗掘の力を分散させることも検討されなければならない。貴職には持続可能な河川管理の在り方についてさらに知恵を絞ることを求めたい。
「3)朝陽橋~上流居辺橋(区間Ⅱ)の河床土砂堆積緩和のため、砂防区間からの土砂流出を低減する」について
2015年3月の説明によると、区間Ⅰ(上流居辺橋-精進橋間)は砂礫供給不足区間であり、区間Ⅱ(朝陽橋-上流居辺橋間)は砂礫供給過多区間である。区間Ⅰと区間Ⅱは、それぞれ穿入蛇行区間と自由蛇行区間にほぼ該当する。穿入蛇行は河道の砂礫を運び出すから穿入するのであり、自由蛇行は砂礫を河道に堆積させるから自由蛇行となる。したがって居辺川は元々、区間Ⅰの砂礫を区間Ⅱに堆積させてきたのである。1960年代以降、水源付近の段丘面上の森林が切り開かれ、農地に明渠・暗渠など排水施設が建設されたことにより掃流力が著しく増大した。このため区間Ⅰから区間Ⅱへの砂礫移動量は、過去とは比べ物にならないほど増加したと理解される。そして居辺川の特性として区間Ⅱの下流部に曲流部があることから、区間Ⅱに堆積した砂礫が流下せず、区間Ⅱに留まるということになっているのである。
帯広建設管理部によると「道道居辺本別線の保護、居辺橋の保護、洪水時の土砂流出の調整・抑制」として遊砂工を提案しているが、これは木を見て森を見ずの類といわなければならない。山地に水源をもたない居辺川の砂礫供給源は、上流部の古期扇状地礫層であり、この扇状地礫層からの砂礫供給箇所は限られている。帯広建設管理部も、区間Ⅰは「山地や河岸の浸食に加え、上流からの土砂供給が少なく、区間に土砂がとどまらない」ところだと認めている。つまり区間Ⅱへの多量の土砂堆積が今後とも限りなく続くという可能性は低いのである。したがって、土砂堆積量を減らすための恒久施設である遊砂工は必須ではない。今しばらく居辺川の砂礫移動の特性を見極めるべきである。河道の土砂堆積量を減らすということであれば、利別川との合流点で行っているように砂礫を除去するという方法が検討されるべきである。無暗に河川横断構造物を造ることなく最適な治水方策を考えるというのが賢明な人間、ホモ・サピエンスのやることだと当会は考える。貴職にも更なる最適な治水方策の検討を期待したい。
今回の砂防事業計画の対象になっていないが、居辺温泉付近から下流では著しい河床浸食が生じている。下流居辺橋のところの床固工もこの河床浸食に寄与していることは間違いない。ついては切り欠きを入れるなどの対策をとるよう貴職に要請する。
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居辺川砂防事業計画についての申入れ
当会は、2012年3月に帯広建設管理部から居辺川砂防事業計画案について説明を受けた。この計画案には12基の床固工と2基の遊砂工がもりこまれており、過剰な砂防対策であることから、帯広建設管理部と2度の話し合いをもち、3度の申入れを行ってきた。2015年3月に至り、帯広建設管理部は当初の計画案を少し手直しした計画を当会に示した。
このなかで、2012年3月には示されなかった、全体施設配置計画の目的が初めて提示された。つまり「1)H15年のような被災を防ぐ2)柏葉橋上流の河床露岩区間における河床高を維持し、砂礫河床に戻す3)朝陽橋~上流居辺橋(区間Ⅱ)の河床土砂堆積緩和のため、砂防区間からの土砂流出を低減する」の3点である。また、当初計画していた12基の床固工を半分に減らしてシミュレーションした結果も提示した。
この見直し計画について疑問点が多くあることから、当会は6度にわたり帯広建設管理部に質問を行うなどして検討を加えてきた。その結果、この計画は居辺川の河川特性を十分踏まえた治水対策になっていないとの結論に達した。
当会が居辺川の河川特性についてどのように理解しているか明らかにしておく。
1.山地に水源をもたない居辺川の砂礫供給源は、上流部の古期扇状地礫層であり、この扇状地礫層から居辺川への砂礫供給箇所は限られている。つまり将来にわたり限りなく多量の砂礫が河道に供給される可能性は低い。
2.居辺川は、水源近くでは傾斜のゆるやかな段丘面上を流れるが、標高291.4m付近(北緯43度15分17.61秒、東経143度23分44.83秒)で活断層上に到達し穿入蛇行incised meanderとなる(図1)。穿入蛇行は標高232.6m付近(北緯43度13分41.50秒、東経143度22分20.17秒)まで続く(図2)が、ここから下流では谷底が広がり自由蛇行free meanderとなる。そして標高178.9m付近(北緯43度11分13.08秒、東経143度22分20.32秒)で、微高地形によって流路が阻まれるため大きく曲流し、ここから再び穿入蛇行となる(図3)。
3.居辺川の両岸には十勝平野東縁起震断層の2本の活断層がある(図4)。つまり居辺川は断層活動地帯を流下する河川である。標高178.9m付近で再び穿入蛇行となるのは、ここから下流が断層活動によって隆起している可能性がある。なお、この曲流部の右岸の微高地形は沢からの土砂の流入も寄与しているようである。
4.このような地形条件のため、居辺川は標高178.9m地点付近で流速を減じ、運搬してきた砂礫を上流側に堆積する。図5に示すように、曲流部の上流側が砂礫川原の広い河道となるのに対し、下流側が砂礫川原の乏しい狭い河道となっているのはこのような事情による。つまり居辺川の砂礫移動を理解するうえで、この標高178.9m地点付近が重要な意味を持つ。

図1.居辺川の穿入蛇行開始地点(北緯43度15分17.61秒、東経143度23分44.83秒、標高291.4m付近)〈国土地理院ホームページより〉

図2.居辺川の自由蛇行開始地点(北緯43度13分41.50秒、東経143度22分20.17秒、標高232.6m付近)〈国土地理院ホームページより〉

図3.居辺川の再穿入蛇行地点(北緯43度11分13.08秒、東経143度22分20.32秒、標高178.9m付近)〈国土地理院ホームページより〉

図4.居辺川両岸の十勝平野東縁起震断層
〈https://gbank.gsj.jp/activefault/index_gmap.htmlより〉

図5.曲流部(矢印)の上流側の広い河道と下流側の狭い河道〈国土地理院ホームページより〉
居辺川の河川特性をこのように認識したうえで、貴職の見直し計画について当会の見解を述べる。
「1)H15年のような被災を防ぐ」について
これについては災害復旧事業により、旧東居辺小学校付近の護岸の強化、上流居辺橋の架け替えなどがなされており、すでに対策は講じられていると考える。
「2)柏葉橋上流の河床露岩区間における河床高を維持し、砂礫河床に戻す」について
穿入蛇行区間において、流入量が増大すると、激しい河床の洗掘がもたらされることは自明のことである。貴職の考えは6基の床固工で「河床高を維持し、砂礫河床に戻す」ということだが、東居辺橋を保護し下流右岸の河岸浸食を防止するという1号床固工については東居辺橋のすぐ上流の曲流部で水勢が弱まることから、床固工ではなく護岸工での対応を検討すべきである。
9号床固工~12号床固工について「河道の自然蛇行の回復」を目的に掲げているが、ここは本来河道の狭い穿入蛇行区間であり、「河道の自然蛇行の回復」よりも河床低下の防止に主眼を置くべきところである。つまり、「河道の自然蛇行の回復」を目的に掲げる必要性は乏しい。ここでは豪雨によって激しい河床低下が生ずるであろうことは容易に想像される。しかし、床固工だけに頼るのは持続可能な河川管理とは言いかねる。登山道洗掘対策の基本である流れを集中させないとの考え方を参考に、明渠末端部分の流路幅を広げるとか明渠の出口を分岐させるなど洗掘の力を分散させることも検討されなければならない。貴職には持続可能な河川管理の在り方についてさらに知恵を絞ることを求めたい。
「3)朝陽橋~上流居辺橋(区間Ⅱ)の河床土砂堆積緩和のため、砂防区間からの土砂流出を低減する」について
2015年3月の説明によると、区間Ⅰ(上流居辺橋-精進橋間)は砂礫供給不足区間であり、区間Ⅱ(朝陽橋-上流居辺橋間)は砂礫供給過多区間である。区間Ⅰと区間Ⅱは、それぞれ穿入蛇行区間と自由蛇行区間にほぼ該当する。穿入蛇行は河道の砂礫を運び出すから穿入するのであり、自由蛇行は砂礫を河道に堆積させるから自由蛇行となる。したがって居辺川は元々、区間Ⅰの砂礫を区間Ⅱに堆積させてきたのである。1960年代以降、水源付近の段丘面上の森林が切り開かれ、農地に明渠・暗渠など排水施設が建設されたことにより掃流力が著しく増大した。このため区間Ⅰから区間Ⅱへの砂礫移動量は、過去とは比べ物にならないほど増加したと理解される。そして居辺川の特性として区間Ⅱの下流部に曲流部があることから、区間Ⅱに堆積した砂礫が流下せず、区間Ⅱに留まるということになっているのである。
帯広建設管理部によると「道道居辺本別線の保護、居辺橋の保護、洪水時の土砂流出の調整・抑制」として遊砂工を提案しているが、これは木を見て森を見ずの類といわなければならない。山地に水源をもたない居辺川の砂礫供給源は、上流部の古期扇状地礫層であり、この扇状地礫層からの砂礫供給箇所は限られている。帯広建設管理部も、区間Ⅰは「山地や河岸の浸食に加え、上流からの土砂供給が少なく、区間に土砂がとどまらない」ところだと認めている。つまり区間Ⅱへの多量の土砂堆積が今後とも限りなく続くという可能性は低いのである。したがって、土砂堆積量を減らすための恒久施設である遊砂工は必須ではない。今しばらく居辺川の砂礫移動の特性を見極めるべきである。河道の土砂堆積量を減らすということであれば、利別川との合流点で行っているように砂礫を除去するという方法が検討されるべきである。無暗に河川横断構造物を造ることなく最適な治水方策を考えるというのが賢明な人間、ホモ・サピエンスのやることだと当会は考える。貴職にも更なる最適な治水方策の検討を期待したい。
今回の砂防事業計画の対象になっていないが、居辺温泉付近から下流では著しい河床浸食が生じている。下流居辺橋のところの床固工もこの河床浸食に寄与していることは間違いない。ついては切り欠きを入れるなどの対策をとるよう貴職に要請する。
2013年10月09日
札内川ダムにおける砂礫堆積についての回答
さる7月7日付で、当会は帯広開発建設部に、「帯広開発建設部は、ダム下流の状況証拠を並べて『ダムによる砂礫の供給減少との間に明確な因果関係は見受けられません』と主張しているが、第三者が評価できる具体的データを示しているわけではない。またダムの影響を否定するのであれば、札内川ダムの堆砂量の経年変化を提示した上で、札内川ダムが砂礫の流下を妨げていないことを示さなければならない。」と指摘し、説明を求める質問書を提出した。
9月6日付で回答がきたのだが、「帯広開発建設部HPで公開している『札内川技術検討会』の資料をご参照ください」というのだ。これが2ヶ月かけた回答だった。
あまりの手抜き説明なので、下記について説明しているデータが掲載されている箇所を示すよう求めている。担当者として、札内川技術検討会の資料を熟知しているのなら、すぐ答えられるはずだ。
1)札内川の礫河原の減少が札内川ダム供用開始以前から見られる。
2)札内川上流部には砂礫層が厚く堆積している。
3)札内川全川で河床が安定している。
4)札内川ダムによって砂礫移動が妨げられていない。
9月6日付で回答がきたのだが、「帯広開発建設部HPで公開している『札内川技術検討会』の資料をご参照ください」というのだ。これが2ヶ月かけた回答だった。
あまりの手抜き説明なので、下記について説明しているデータが掲載されている箇所を示すよう求めている。担当者として、札内川技術検討会の資料を熟知しているのなら、すぐ答えられるはずだ。
1)札内川の礫河原の減少が札内川ダム供用開始以前から見られる。
2)札内川上流部には砂礫層が厚く堆積している。
3)札内川全川で河床が安定している。
4)札内川ダムによって砂礫移動が妨げられていない。
2013年08月20日
札内川ダムにおける砂礫堆積についての質問
当会は7月7日付で、帯広開発建設部長に札内川ダムの砂礫堆積などについて質問書(下記)を送付した。回答期限が過ぎたが、まだ届いていない。説明不能ということであれば、帯広開発建設部が公表した「寄せられたご意見の十勝川水系河川整備計画[変更](案)への反映状況等」は根拠のない説明ということになる。
当会は、意見書および公聴会で、今回の十勝川水系河川整備計画変更にあたって札内川ダムが札内川の樹林化促進の要因であること、そしてダムが砂礫の流下を妨げていることを明記するよう求めます、と主張した。
これに対し、貴職は3月29日に「寄せられたご意見の十勝川水系河川整備計画[変更](案)への反映状況等」を公表し、このなかで「札内川における礫河原の減少については、主として、札内川ダムの供用開始以前にその傾向が見られていること、札内川の上流部には砂礫層が厚く堆積していること、札内川全川において経年的に概ね河床が安定していること等から勘案するに、ダムによる砂礫の供給減少との間に明確な因果関係は見受けられません」として、札内川ダムの影響を否定した。
帯広開発建設部は、ダム下流の状況証拠を並べて「ダムによる砂礫の供給減少との間に明確な因果関係は見受けられません」と主張しているが、第三者が評価できる具体的データを示しているわけではない。またダムの影響を否定するのであれば、札内川ダムの堆砂量の経年変化を提示した上で、札内川ダムが砂礫の流下を妨げていないことを示さなければならない。
ついては、貴職が主張する1)札内川の礫河原の減少が札内川ダム供用開始以前から見られる2)札内川上流部には砂礫層が厚く堆積している3)札内川全川で河床が安定しているということについて、具体的データを示して説明いただきたい。
また札内川ダムの堆砂量の経年変化のデータをもとに、札内川ダムによって砂礫移動が妨げられていないことを説明していただきたい。
なお、回答は7月31日までに当方に届くようにしていただきたい。
************
札内川ダムにおける砂礫堆積についての質問
当会は、意見書および公聴会で、今回の十勝川水系河川整備計画変更にあたって札内川ダムが札内川の樹林化促進の要因であること、そしてダムが砂礫の流下を妨げていることを明記するよう求めます、と主張した。
これに対し、貴職は3月29日に「寄せられたご意見の十勝川水系河川整備計画[変更](案)への反映状況等」を公表し、このなかで「札内川における礫河原の減少については、主として、札内川ダムの供用開始以前にその傾向が見られていること、札内川の上流部には砂礫層が厚く堆積していること、札内川全川において経年的に概ね河床が安定していること等から勘案するに、ダムによる砂礫の供給減少との間に明確な因果関係は見受けられません」として、札内川ダムの影響を否定した。
帯広開発建設部は、ダム下流の状況証拠を並べて「ダムによる砂礫の供給減少との間に明確な因果関係は見受けられません」と主張しているが、第三者が評価できる具体的データを示しているわけではない。またダムの影響を否定するのであれば、札内川ダムの堆砂量の経年変化を提示した上で、札内川ダムが砂礫の流下を妨げていないことを示さなければならない。
ついては、貴職が主張する1)札内川の礫河原の減少が札内川ダム供用開始以前から見られる2)札内川上流部には砂礫層が厚く堆積している3)札内川全川で河床が安定しているということについて、具体的データを示して説明いただきたい。
また札内川ダムの堆砂量の経年変化のデータをもとに、札内川ダムによって砂礫移動が妨げられていないことを説明していただきたい。
なお、回答は7月31日までに当方に届くようにしていただきたい。
以上
2013年08月15日
「ケショウヤナギを知る会」報告
8月11日に札内川の河川敷で若原正博氏を講師に「ケショウヤナギを知る会」が開催され、晴天の中、約20人が参加しました。

今回はケショウヤナギの観察がメインですが、ケショウヤナギのことに限らず、河川に生育するヤナギ類や河畔林のことまで幅広く興味深いお話が聴けました。
河川に生育するヤナギには、砂礫地に生育して樹高が高くなるものと、泥質地に生育して樹高がそれほど高くならないものの二つのタイプがあるとのこと。前者にはケショウヤナギ、ドロノキ、オオバヤナギが、後者にはオノエヤナギ(ナガバヤナギ)、エゾノキヌヤナギなどが含まれるとのことです。
また、河畔林はヤナギばかりではありません。ヤナギ林の下にはヤナギは生えず、ヤチダモやハルニレなどが入り込んで生育するそうです。
河川敷が撹乱されて裸になったところに一番はじめに入ってくるのはヤナギやハンノキです。このような木はパイオニアと言われていますが、パイオニアになる木は菌根菌などで育つために、痩せた土地でも生育することができます。しかし、ヤチダモやハルニレはそのような土地では生育することができません。つまり、河畔林を育てるためにブルドーザーで河川敷をならしてヤチダモやハルニレを植えてもうまく育たないそうです。
開発局などが河川敷で一カ所に何種類ものポット苗を植える「生態学的混播・混植法」を行っていますが、河畔林の更新を無視した手法といえるでしょう。
ケショウヤナギは葉が小さく、枝がたくさん出て独特の樹形になるため、遠くからでも識別ができます。また、ケショウヤナギは砂礫地で更新し、100年くらい生きるとのこと。しかし、ダムなどで河川の流量が安定すると河川敷に樹木が茂り、ケショウヤナギが発芽できる砂礫地がなくなってしまいます。ケショウヤナギが生き続けるためには、洪水などでときどき河川敷が洗われることが必要なのです。

ケショウヤナギの幼樹。新しく伸びた枝は化粧をしたように白い。

ケショウヤナギの若木(写真中央の数本)。円錐形の樹形をしている。

ケショウヤナギの成木(写真の中央の木)。

オオバヤナギの芽生え。ケショウヤナギの芽生えとよく似ている。
今回観察できたヤナギ類はケショウヤナギのほかにオノエヤナギ、エゾノキヌヤナギ、エゾヤナギ、ネコヤナギ、ケショウヤナギ、ドロノキ、オオバヤナギなど。特徴や識別ポイントなどを教えていただきました。

今回はケショウヤナギの観察がメインですが、ケショウヤナギのことに限らず、河川に生育するヤナギ類や河畔林のことまで幅広く興味深いお話が聴けました。
河川に生育するヤナギには、砂礫地に生育して樹高が高くなるものと、泥質地に生育して樹高がそれほど高くならないものの二つのタイプがあるとのこと。前者にはケショウヤナギ、ドロノキ、オオバヤナギが、後者にはオノエヤナギ(ナガバヤナギ)、エゾノキヌヤナギなどが含まれるとのことです。
また、河畔林はヤナギばかりではありません。ヤナギ林の下にはヤナギは生えず、ヤチダモやハルニレなどが入り込んで生育するそうです。
河川敷が撹乱されて裸になったところに一番はじめに入ってくるのはヤナギやハンノキです。このような木はパイオニアと言われていますが、パイオニアになる木は菌根菌などで育つために、痩せた土地でも生育することができます。しかし、ヤチダモやハルニレはそのような土地では生育することができません。つまり、河畔林を育てるためにブルドーザーで河川敷をならしてヤチダモやハルニレを植えてもうまく育たないそうです。
開発局などが河川敷で一カ所に何種類ものポット苗を植える「生態学的混播・混植法」を行っていますが、河畔林の更新を無視した手法といえるでしょう。
ケショウヤナギは葉が小さく、枝がたくさん出て独特の樹形になるため、遠くからでも識別ができます。また、ケショウヤナギは砂礫地で更新し、100年くらい生きるとのこと。しかし、ダムなどで河川の流量が安定すると河川敷に樹木が茂り、ケショウヤナギが発芽できる砂礫地がなくなってしまいます。ケショウヤナギが生き続けるためには、洪水などでときどき河川敷が洗われることが必要なのです。

ケショウヤナギの幼樹。新しく伸びた枝は化粧をしたように白い。

ケショウヤナギの若木(写真中央の数本)。円錐形の樹形をしている。

ケショウヤナギの成木(写真の中央の木)。

オオバヤナギの芽生え。ケショウヤナギの芽生えとよく似ている。
今回観察できたヤナギ類はケショウヤナギのほかにオノエヤナギ、エゾノキヌヤナギ、エゾヤナギ、ネコヤナギ、ケショウヤナギ、ドロノキ、オオバヤナギなど。特徴や識別ポイントなどを教えていただきました。
2013年07月18日
「音更川の河岸侵食対策について」の申入れ
帯広開発建設部長が3月に公表した「音更川の河岸侵食対策について」には不可解な記述が散見されることから、当会は、7月7日付で帯広開発建設部長に以下の文書を送付した。
専門的な知見や経験を有する学識者・研究者を交えて検討した結果をまとめたものだという「音更川の河岸侵食対策について」が3月28日に公表された。
当会は音更川の堤防洗掘に見解を明らかにしてきたことでもあり、この「音更川の河岸侵食対策について」に目を通したが、不可解な記述が目につくことから問題点を指摘する。なお、当会の指摘に納得のいかない場合は、反論いただきたい。
1.4枚目で「音更川は、『急な河床勾配を持ち速い流れが生じること、河岸や高水敷が侵食には弱い砂礫質の土質であること、流路変動を拘束する低水護岸の整備率が低いこと』など蛇行が発達しやすい河道条件にあることが原因と考えられます。」と述べている(「原因」の前に「今回の堤防洗掘の」を補うと理解できる)。
音更川の河床勾配が急なことも、河岸が砂礫質であることも、低水護岸の整備率が低いことも、分かりきったことである。学識者・研究者を交えて検討した結果、こんな分かりきったことを堤防洗掘の原因だといわれると困惑すら覚える。もし本当に学識者などから指摘されるまで分からなかったのなら、河川を管理する者としての見識が欠落しているといわざるを得ない。
2.5枚目で「図-7に示すように、音更川では出水時に蛇行の振幅を増大させながら、蛇行流路そのものが下流側へと移動する傾向があることがわかりました。」と述べている。
音更川は砂礫の多い網状流河川である。このような河川では出水に伴う砂礫の運搬と堆積によって蛇行が振幅を増大させ、下流へ移動することは釣り人など川を見ている人間ならば経験的に知っていることである。「音更川では出水時に蛇行の振幅を増大させながら、蛇行流路そのものが下流側へと移動する傾向があることがわかりました。」と、河川管理者がいまさら新知見であるかのように言うのは言葉を失うばかりである。
3.6枚目で「平成23年9月出水時には流路短絡や蛇行発達など特徴的な現象が発生しています。シミュレーション解析や模型実験の結果からも、音更川においては、
・平成23年9月出水の様な中規模出水によっても著しい流路の蛇行が容易に生じる
・流量ピーク前後で流路の短絡が生じ、洪水の低下期に蛇行が発達している
・蛇行振幅が増大すると共に蛇行流路そのものが下流に移動する
等の特徴があることが明らかとなりました。」と述べている。
音更川の特徴として3点挙げているが、これらは網状流河川では一般的にみられる現象であろう。もし音更川の特徴というのなら、ほかの網状流河川と比較のうえで結論付けなければならない。1点目の中規模出水によっても著しい流路の蛇行が容易に生じることが音更川の特徴であるというのなら、そのメカニズムについて学識者・研究者を交えた検討会で解明すべきであった。そうしてこそ、適切な音更川の河岸浸食対策が立てられるのである。
4.この「音更川の河岸侵食対策について」の最大の特徴は、河川管理者が常識として知っておかなければならない河川の特性を学識者・研究者を交えて検討した結果、はじめて明らかになったかのように記述している点にある。このような体裁をとったのは、中規模出水による堤防洗掘という河川管理の責任が問われかねない問題を曖昧にしたいとの意図が働いたためであろう。
5.9枚目で「河畔林の繁茂によって堤防上から河岸まで見通せない箇所において、見通し線を確保するための伐採を行います」としている。これに関して、当会は昨年7月に伐採計画の説明を求めたが、個別に説明する予定はないとの回答があった(2013年3月21日付)。国民が河川生態系に関心をもち説明を求めているにもかかわらず、説明を拒否する姿勢は河川法の趣旨にも反することであり、猛省すべきである。
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専門的な知見や経験を有する学識者・研究者を交えて検討した結果をまとめたものだという「音更川の河岸侵食対策について」が3月28日に公表された。
当会は音更川の堤防洗掘に見解を明らかにしてきたことでもあり、この「音更川の河岸侵食対策について」に目を通したが、不可解な記述が目につくことから問題点を指摘する。なお、当会の指摘に納得のいかない場合は、反論いただきたい。
1.4枚目で「音更川は、『急な河床勾配を持ち速い流れが生じること、河岸や高水敷が侵食には弱い砂礫質の土質であること、流路変動を拘束する低水護岸の整備率が低いこと』など蛇行が発達しやすい河道条件にあることが原因と考えられます。」と述べている(「原因」の前に「今回の堤防洗掘の」を補うと理解できる)。
音更川の河床勾配が急なことも、河岸が砂礫質であることも、低水護岸の整備率が低いことも、分かりきったことである。学識者・研究者を交えて検討した結果、こんな分かりきったことを堤防洗掘の原因だといわれると困惑すら覚える。もし本当に学識者などから指摘されるまで分からなかったのなら、河川を管理する者としての見識が欠落しているといわざるを得ない。
2.5枚目で「図-7に示すように、音更川では出水時に蛇行の振幅を増大させながら、蛇行流路そのものが下流側へと移動する傾向があることがわかりました。」と述べている。
音更川は砂礫の多い網状流河川である。このような河川では出水に伴う砂礫の運搬と堆積によって蛇行が振幅を増大させ、下流へ移動することは釣り人など川を見ている人間ならば経験的に知っていることである。「音更川では出水時に蛇行の振幅を増大させながら、蛇行流路そのものが下流側へと移動する傾向があることがわかりました。」と、河川管理者がいまさら新知見であるかのように言うのは言葉を失うばかりである。
3.6枚目で「平成23年9月出水時には流路短絡や蛇行発達など特徴的な現象が発生しています。シミュレーション解析や模型実験の結果からも、音更川においては、
・平成23年9月出水の様な中規模出水によっても著しい流路の蛇行が容易に生じる
・流量ピーク前後で流路の短絡が生じ、洪水の低下期に蛇行が発達している
・蛇行振幅が増大すると共に蛇行流路そのものが下流に移動する
等の特徴があることが明らかとなりました。」と述べている。
音更川の特徴として3点挙げているが、これらは網状流河川では一般的にみられる現象であろう。もし音更川の特徴というのなら、ほかの網状流河川と比較のうえで結論付けなければならない。1点目の中規模出水によっても著しい流路の蛇行が容易に生じることが音更川の特徴であるというのなら、そのメカニズムについて学識者・研究者を交えた検討会で解明すべきであった。そうしてこそ、適切な音更川の河岸浸食対策が立てられるのである。
4.この「音更川の河岸侵食対策について」の最大の特徴は、河川管理者が常識として知っておかなければならない河川の特性を学識者・研究者を交えて検討した結果、はじめて明らかになったかのように記述している点にある。このような体裁をとったのは、中規模出水による堤防洗掘という河川管理の責任が問われかねない問題を曖昧にしたいとの意図が働いたためであろう。
5.9枚目で「河畔林の繁茂によって堤防上から河岸まで見通せない箇所において、見通し線を確保するための伐採を行います」としている。これに関して、当会は昨年7月に伐採計画の説明を求めたが、個別に説明する予定はないとの回答があった(2013年3月21日付)。国民が河川生態系に関心をもち説明を求めているにもかかわらず、説明を拒否する姿勢は河川法の趣旨にも反することであり、猛省すべきである。
以上
2013年05月06日
「シマフクロウ保護は住民参加型で」は当然のこと
シマフクロウの保護は住民参加型の保護事業へと拡大していかなければならない、とシマフクロウ研究者が主張しているのを最近知った。シマフクロウの数少ない研究者である早矢仕有子さんが、「北海道の自然」50号(2012年3月刊行)の「シマフクロウを守る施策と圧迫要因」の中で述べているのだ。その論旨は次のようなものである。
シマフクロウは非公開で守られてきた。しかしインターネットで瞬時に情報が拡散するようになった現在、隠して守る方針を貫くのは不可能だ。地域住民と自治体が国や研究者と協力してシマフクロウを見守る体制を作るべきだ。
隠して守れなくなったから住民参加型だという論理には研究者のエゴを感じないでもないが、シマフクロウ研究者が従来の秘密主義一辺倒から、住民参加型での保護を主張しはじめたことに注目したい。早矢仕さんは、この論説の中でツアーガイドやカメラマンが繁殖中の巣箱に接近していることを厳しく批判し、こうした無法者には多くの目で監視する必要があるといっている。
北海道環境影響評価条例の環境影響評価技術指針は、「盗掘、密猟又は繁殖阻害等が懸念される希少生物の生育又は生息に関する情報を記載するときは、種及び生育地又は生息地が特定されないよう配慮すること」としている。これを根拠にシマフクロウに関する情報は一切合財秘密にできるとしているのである。北電はこれを逆手に取って、新岩松発電所新設工事ではシマフクロウを無きものとしてアセス手続きを進めようとした。シマフクロウ研究者の早矢仕さんが指摘しているように繁殖阻害を理由とした秘密主義はもはやほとんど効果がないのである。いや効果がない以上に開発事業者が悪用する弊害の方が大きいのである。もはやこの技術指針は見直されなければならない。
シマフクロウに限らず、開発事業者や行政は絶滅危惧種の情報を非公開としている(文書を開示請求すると絶滅危惧種は黒塗りにされる)。これは彼らにとって実に都合のいいことである。開発行為によって絶滅危惧種がどうなろうと、住民に知られなくて済むからである。開発事業者の勝手な振る舞いを防ぐためにも、絶滅危惧種の情報を住民と共有し、多くの住民の目で監視することが必要なのだ。
絶滅危惧種を隠して守れる時代ではない。すべてオープンにせよと言うわけではないが、本気で保護するためには、絶滅危惧種の秘密主義は正さなければならない。秘密にして済ませようというのは、悪しき行政の事なかれ主義である。
早矢仕さんの論説を最近知ったため、新岩松発電所新設工事の公聴会や意見書で、この問題にふれられなかったのは残念なことであった。
シマフクロウは非公開で守られてきた。しかしインターネットで瞬時に情報が拡散するようになった現在、隠して守る方針を貫くのは不可能だ。地域住民と自治体が国や研究者と協力してシマフクロウを見守る体制を作るべきだ。
隠して守れなくなったから住民参加型だという論理には研究者のエゴを感じないでもないが、シマフクロウ研究者が従来の秘密主義一辺倒から、住民参加型での保護を主張しはじめたことに注目したい。早矢仕さんは、この論説の中でツアーガイドやカメラマンが繁殖中の巣箱に接近していることを厳しく批判し、こうした無法者には多くの目で監視する必要があるといっている。
北海道環境影響評価条例の環境影響評価技術指針は、「盗掘、密猟又は繁殖阻害等が懸念される希少生物の生育又は生息に関する情報を記載するときは、種及び生育地又は生息地が特定されないよう配慮すること」としている。これを根拠にシマフクロウに関する情報は一切合財秘密にできるとしているのである。北電はこれを逆手に取って、新岩松発電所新設工事ではシマフクロウを無きものとしてアセス手続きを進めようとした。シマフクロウ研究者の早矢仕さんが指摘しているように繁殖阻害を理由とした秘密主義はもはやほとんど効果がないのである。いや効果がない以上に開発事業者が悪用する弊害の方が大きいのである。もはやこの技術指針は見直されなければならない。
シマフクロウに限らず、開発事業者や行政は絶滅危惧種の情報を非公開としている(文書を開示請求すると絶滅危惧種は黒塗りにされる)。これは彼らにとって実に都合のいいことである。開発行為によって絶滅危惧種がどうなろうと、住民に知られなくて済むからである。開発事業者の勝手な振る舞いを防ぐためにも、絶滅危惧種の情報を住民と共有し、多くの住民の目で監視することが必要なのだ。
絶滅危惧種を隠して守れる時代ではない。すべてオープンにせよと言うわけではないが、本気で保護するためには、絶滅危惧種の秘密主義は正さなければならない。秘密にして済ませようというのは、悪しき行政の事なかれ主義である。
早矢仕さんの論説を最近知ったため、新岩松発電所新設工事の公聴会や意見書で、この問題にふれられなかったのは残念なことであった。
2013年03月04日
シマフクロウの記述を修正させられた北電
さる2月15日、北海道環境影響評価審議会は「新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書に係る審議」を行い、小委員会の報告した答申案に一部文言を追記して、知事へ答申しました。知事はこの答申をもとに知事意見を作成し、3月13日までに書面で事業者に伝えることになります。
シマフクロウに関する影響評価は今回のアセスの重要なテーマでした。それにもかかわらず北電は、北海道に対し当初アセス不要を主張し、これが認められないとなると自主アセスを主張し、これも認められないとなるとシマフクロウを存在しないかのように扱ってアセス手続きを開始しました。このことを当会などが意見書で指摘すると、虚言を弄するような言い訳を繰り返しました。このあたりの詳細は、12月25日の公聴会で指摘しましたので、下の公述文をご覧ください。
このほど公開された道の議事録などから注目すべきことが明らかになりました。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ksk/assesshp/singikai/H24_7singikaisiryou2_3.pdf
道環境影響評価審議会がシマフクロウへの予測結果について北電に質問したところ、北電は「対象事業実施区域内で生息(ねぐら、採餌等)は確認されておらず、主要な生息地は、対象事業実施区域から離れています」と回答しました。
審議会の委員も北電の北海道環境影響評価条例を蔑ろにする態度を察したようで、「(シマフクロウが)生息が確認されていないという言い方は、明らかな間違いです」と指摘しました。このため北電は、「シマフクロウの予測結果については、『対象事業実施区域内で生息(ねぐら、採餌等)は確認されておらず、主要な生息地は、対象事業実施区域から離れています。』という表現は、『対象事業実施区域内でねぐら等は確認されておらず、それらの場所は対象事業実施区域から離れています』と修正したいと考えています」と「採餌」の削除を余儀なくされました。
とうとう当会などが公聴会で指摘した対象事業実施区域内にシマフクロウの採餌場があるという事実を認めざるを得なくなったのです。つまり、北電は準備書でシマフクロウについて虚偽の記述をしていたということです。この記述に係ったであろう「専門家」の責任も問われなければなりません。
北電は泊原発では積丹半島に活断層がある可能性が高いにもかかわらずこれを無視し、新岩松ではシマフクロウがいるにもかかわらずこれを無視しました。北電の企業倫理欠如は深刻です。
この新岩松発電所新設工事環境影響評価では、シマフクロウについて調査データも、環境影響評価審議会の審議内容も、さらには評価結果までも一切秘密にして環境影響評価の手続きが終わるという事態が予想されます。
科学的検証に耐える調査が行われ、恣意的ではない公正な準備書がつくられ、そして客観的評価が行われるのなら、場合よってはこのような秘密扱いも社会の一定の理解を得られることがあるかもしれません。
しかし、これまでの手続きを見ると、シマフクロウに関する環境影響評価への信頼を損なうことが余りにも多すぎます。まずこの点を指摘します。
驚いたのは、この環境影響評価手続きの手始めに北電が出した「方法書」に、動植物への配慮が一言もなかったことでした。
この一帯がシマフクロウの生息地であることは、自然保護に関心のある人や環境行政関係者には良く知られていることです。2005年にラリージャパンがここで開催されたときには、鳥類研究者などが主催者に反対の申入れをしたことがマスコミでも報道されました。それにもかかわらず、北電は方法書で配慮すべき動植物がいないとしたのです。
このため、十勝自然保護協会は、方法書の「『6事業計画の立案に際して行った環境への配慮』に野生動物への配慮の項がないのは問題である。工事場所の立地を考えるならば、野生動物への配慮を記述すべきである」との意見書を提出しました。
これに対し北電は、準備書において「既存資料(方法書の段階)では、対象事業による野生生物への影響を確認することができなかったため記載していません。なお、配慮すべき野生生物については、その種の生息・生育状況を確認(調査)後に、事業実施による影響を予測し、配慮方法を検討し、準備書に記載しました」との見解を明らかにしました。
またその後出された「見解書」において「今回、新岩松発電所新設工事を実施する区域(対象事 業実施区域)及びその周辺に、どの程度、生息・生育するかまでの詳細な記載はなかったため、工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮に動植物』は記載しておりません」との見解も明らかにしました。
しかし、これらの見解は、北海道環境影響評価条例に反するものです。
北海道には、事業者が環境影響評価を実施するに当たって、方法書、準備書等の記載事項について定めるとともに、事業者が調査、予測及び評価の手法等環境影響評価を行う上で必要な技術的事項を選定するに当たり考慮すべき標準的事項を定めた「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」(以下、「指針」といいます)と、この指針に解説を付した「環境影響評価技術指針の解説」(以下、「指針の解説」といいます)があります。
方法書について、この指針の「事業計画の立案」には次のように書かれています。
「方法書の事業計画の概要には、事業者の環境保全に対する基本的な考え方及び①事業計画の立案に際して行った環境への配慮を含めて記載すること」とあります。そして指針の解説には「本指針では、事業計画の内容決定に柔軟性を有している早い段階から環境配慮が適切に行われるように、事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載することとしたものである」と書かれています。
つまり、指針は「事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載する」ことを求めているのであって、具体的な影響を予測することなど求めていません。したがって、「工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮に動植物』は記載しておりません」との北電の言い訳は成り立たないのです。
また北電は、現地調査を行わなかったが、既存文献で重要な動植物種が生息することは知っていた。しかし詳細な記載がなかったためこの動植物種への影響を予測できなかった、との論理を展開しています。しかし、このような論理が成り立たないことは、指針および指針の解説を読めば明らかです。
指針(「第3-2 方法書 (2) 地域特性」)には
「地域特性の把握は、④既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行うこと。なお、⑤現況の情報のみならず、過去の状況の推移及び将来の状況も把握すること」と書かれています。
そして指針の解説には「文献等による調査では必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等からの聴取等により補足する必要がある」と書かれているのです。
つまり、北海道は事業者に対し詳細が分からず必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等から聞取りをすることを求めているのであり、現地調査を行わなかったから、詳細が分からないという北電の言い訳は理由になりません。
このように北電の言い分は、自ら北海道環境影響評価条例に反する方法書を作りましたと認めているわけですが、そのような反社会的な言い訳までしなければならない本当の理由が別にあると私は思います。
2年前の2010(平成22)年11月12日に、北電はこの事業を進めるに当って、北海道環境推進課と事前相談を行いました。この席で北電は、シマフクロウがいる可能性は高いと知っているとしながら「第二種事業判定においてはいずれも該当無しつまりアセス不要と判断している」との主張をしたのです。シマフクロウの生息地で工事を行うにもかかわらず、アセス不要と主張したのです。しかしこの主張は、シマフクロウがいる可能性が高いということで北海道から退けられました。
そして、その2週間後の11月26日の事前相談では、北電は、アセスを実施することによりシマフクロウの情報を流布させてしまう危険性があるとの理由をもちだして、自主アセスを実施することで環境配慮の責任を果たすこととしたい、と主張しました。自主アセスは「専門家である、だれそれの助言をいただいた」とも述べています。つまり、シマフクロウの生息地であるにもかかわらず、北海道環境影響評価条例の手続きをとりたくないとの意向を示したのです。しかし、これも北海道から退けられ、やむなく北海道環境影響評価条例の手続きを進めることになったのです。
事前相談ではシマフクロウのことが主要なテーマであったにもかかわらず、北電は、環境影響評価の方法書では、野生動物への配慮について一言も書きませんでした。つまり、シマフクロウの存在を無視、あるいはなきものとして手続きを開始したのです。
このように、シマフクロウのことが広く知られるとまずいから環境アセスをしなくていいだろうといい、それが聞き入れられないとなると、今度はシマフクロウを隠して環境アセスを進めるという北電の行動からは、何としても思い通りの工事を進めるという横暴な姿勢すら感じざるを得えないのです。
そこで問題となるのは、このような自己本位の行動をする企業が果たして科学的検証に耐えるまともな調査を行ったのかという疑念です。
この疑念を払拭するには、シマフクロウの調査データの開示が不可欠ですが、今回は全て秘密扱いですから、第三者には検証の仕様がありません。このようななかで、調査の精度について問題があることが明らかになりました。
今年8月、この会場で開かれた説明会の場で、北電は、対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息を確認していないとの調査結果の一端を明らかにしました。
発電に使われた水が流れ下る岩松発電所の放水路は、発電を停止すると水位が下がり、そこに多くの魚類がとり残されるため、シマフクロウが採食に訪れることが知られています。いうまでもなくここは北電が対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)としているところです。発電所脇の岩松橋には沢山の交通安全の旗がたてられているのはシマフクロウが交通事故にあわないよう飛行高度を高くするための方策です。またかつては放水路の下流でシマフクロウが繁殖していました。つまり発電所一帯はシマフクロウの生息域となっているのです。生息域に好適な採食場所が出現すればシマフクロウがやってくるのは当然のことです。北電がここでシマフクロウを確認しなかったということは、北電の調査が適切に行われたかを疑わせるものです。本当に科学的検証に耐える調査が行われたのか、環境影響評価審議会での慎重な検討を要請します。
次に、公正な準備書が作られたかという問題です。
シマフクロウへの影響については、北電は「専門家」2名に相談しながら準備書を作成しています。それを環境影響評価審議会小委員会の委員5名が評価するということになっています。冒頭でいいましたように調査データも、小委員会の審議内容も、さらには評価結果までも一切秘密とされます。つまり、この地域のシマフクロウの命運をごく少数の者だけが秘密裏に決するという構図になっているのです。どのような資料に基づきどのような議論がなされ、どのような結果となったか、道民は知りえないのです。このような秘密の評価が公正に客観的に行われたかを保証するためには、どのような人物が係わったかを明らかにすることが不可欠だと考えます。
小委員会の委員の氏名は勿論公表されています。しかし北電の「専門家」の方は準備書で氏名を明らかにしていません。これに関して北電は公表の義務がないからだとしています。もし専門家に道民を代表してシマフクロウの保護に万全を尽くすという意思があるなら、決して名前を公表することを拒まないのではないでしょうか。本人に意思確認をし、了承が得られたならば氏名を明らかにすべきです。
ただし、一つ気がかりなことがあります。北電が調査を委託した子会社の北電興業はアドバイザーなる名称で専門家と契約しています。たぶん有償で契約していると思われます。さきごろ原子力規制委員会は、原発敷地の活断層調査に携わる専門家の選出に当たって、今まで原発の安全審査に携わらなかった専門家を調査委員に選定しました。これは専門家による評価の信頼性を高めるためにおこなわれたものです。もし今回の専門家が北電興業のアドバイザーであるなら、準備書の信頼性に疑問符がつくことになるということを指摘しなければなりません。
最後に今回の環境影響評価手続きの信頼性の回復についてです。
シマフクロウに関する影響評価は今回のアセスの重要なテーマです。それにもかかわらず北電は、アセス不要を主張し、これが認められないとなると自主アセスを主張し、これも認められないとなるとシマフクロウを存在しないかのように扱ってアセス手続きを開始しました。このこと道民が指摘すると、虚言を弄するような言い訳を繰り返しました。このような行為は北海道環境影響評価条例を蔑ろにするものといわなければなりません。
環境影響評価手続きの信頼性を回復させるため、北電はこの間の不誠実な対応を反省し、シマフクロウの生息地で工事を行う事業であることを明らかにした上で、特別の注意を払ってアセス手続きを進めることを道民に表明すべきです。そしてシマフクロウの生息の保全に懸念をいだく道民、とりわけ自然保護団体にはきちんと説明すべきです。そうしてこそ最低限の信頼が得られることになるのです。
指針を盾にシマフクロウの一切合財を秘密し、シマフクロウの生存に影響を与えるかもしれない事業を秘密裏に進めるのは、「種の保存法」の趣旨に反するものといわなければなりません。シマフクロウに関し全ての情報を秘密にすることは、かえってシマフクロウの保護の妨げになるということを指摘し、公述を終わります。
(公述の一部を省略しています)
追記 北電興行と書きましたが、現在は北電総合設計株式会社となっていました。http://www.hokuss.co.jp/company/outline.html
シマフクロウに関する影響評価は今回のアセスの重要なテーマでした。それにもかかわらず北電は、北海道に対し当初アセス不要を主張し、これが認められないとなると自主アセスを主張し、これも認められないとなるとシマフクロウを存在しないかのように扱ってアセス手続きを開始しました。このことを当会などが意見書で指摘すると、虚言を弄するような言い訳を繰り返しました。このあたりの詳細は、12月25日の公聴会で指摘しましたので、下の公述文をご覧ください。
このほど公開された道の議事録などから注目すべきことが明らかになりました。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ksk/assesshp/singikai/H24_7singikaisiryou2_3.pdf
道環境影響評価審議会がシマフクロウへの予測結果について北電に質問したところ、北電は「対象事業実施区域内で生息(ねぐら、採餌等)は確認されておらず、主要な生息地は、対象事業実施区域から離れています」と回答しました。
審議会の委員も北電の北海道環境影響評価条例を蔑ろにする態度を察したようで、「(シマフクロウが)生息が確認されていないという言い方は、明らかな間違いです」と指摘しました。このため北電は、「シマフクロウの予測結果については、『対象事業実施区域内で生息(ねぐら、採餌等)は確認されておらず、主要な生息地は、対象事業実施区域から離れています。』という表現は、『対象事業実施区域内でねぐら等は確認されておらず、それらの場所は対象事業実施区域から離れています』と修正したいと考えています」と「採餌」の削除を余儀なくされました。
とうとう当会などが公聴会で指摘した対象事業実施区域内にシマフクロウの採餌場があるという事実を認めざるを得なくなったのです。つまり、北電は準備書でシマフクロウについて虚偽の記述をしていたということです。この記述に係ったであろう「専門家」の責任も問われなければなりません。
北電は泊原発では積丹半島に活断層がある可能性が高いにもかかわらずこれを無視し、新岩松ではシマフクロウがいるにもかかわらずこれを無視しました。北電の企業倫理欠如は深刻です。
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十勝自然保護協会の公述1
この新岩松発電所新設工事環境影響評価では、シマフクロウについて調査データも、環境影響評価審議会の審議内容も、さらには評価結果までも一切秘密にして環境影響評価の手続きが終わるという事態が予想されます。
科学的検証に耐える調査が行われ、恣意的ではない公正な準備書がつくられ、そして客観的評価が行われるのなら、場合よってはこのような秘密扱いも社会の一定の理解を得られることがあるかもしれません。
しかし、これまでの手続きを見ると、シマフクロウに関する環境影響評価への信頼を損なうことが余りにも多すぎます。まずこの点を指摘します。
驚いたのは、この環境影響評価手続きの手始めに北電が出した「方法書」に、動植物への配慮が一言もなかったことでした。
この一帯がシマフクロウの生息地であることは、自然保護に関心のある人や環境行政関係者には良く知られていることです。2005年にラリージャパンがここで開催されたときには、鳥類研究者などが主催者に反対の申入れをしたことがマスコミでも報道されました。それにもかかわらず、北電は方法書で配慮すべき動植物がいないとしたのです。
このため、十勝自然保護協会は、方法書の「『6事業計画の立案に際して行った環境への配慮』に野生動物への配慮の項がないのは問題である。工事場所の立地を考えるならば、野生動物への配慮を記述すべきである」との意見書を提出しました。
これに対し北電は、準備書において「既存資料(方法書の段階)では、対象事業による野生生物への影響を確認することができなかったため記載していません。なお、配慮すべき野生生物については、その種の生息・生育状況を確認(調査)後に、事業実施による影響を予測し、配慮方法を検討し、準備書に記載しました」との見解を明らかにしました。
またその後出された「見解書」において「今回、新岩松発電所新設工事を実施する区域(対象事 業実施区域)及びその周辺に、どの程度、生息・生育するかまでの詳細な記載はなかったため、工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮に動植物』は記載しておりません」との見解も明らかにしました。
しかし、これらの見解は、北海道環境影響評価条例に反するものです。
北海道には、事業者が環境影響評価を実施するに当たって、方法書、準備書等の記載事項について定めるとともに、事業者が調査、予測及び評価の手法等環境影響評価を行う上で必要な技術的事項を選定するに当たり考慮すべき標準的事項を定めた「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」(以下、「指針」といいます)と、この指針に解説を付した「環境影響評価技術指針の解説」(以下、「指針の解説」といいます)があります。
方法書について、この指針の「事業計画の立案」には次のように書かれています。
「方法書の事業計画の概要には、事業者の環境保全に対する基本的な考え方及び①事業計画の立案に際して行った環境への配慮を含めて記載すること」とあります。そして指針の解説には「本指針では、事業計画の内容決定に柔軟性を有している早い段階から環境配慮が適切に行われるように、事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載することとしたものである」と書かれています。
つまり、指針は「事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載する」ことを求めているのであって、具体的な影響を予測することなど求めていません。したがって、「工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮に動植物』は記載しておりません」との北電の言い訳は成り立たないのです。
また北電は、現地調査を行わなかったが、既存文献で重要な動植物種が生息することは知っていた。しかし詳細な記載がなかったためこの動植物種への影響を予測できなかった、との論理を展開しています。しかし、このような論理が成り立たないことは、指針および指針の解説を読めば明らかです。
指針(「第3-2 方法書 (2) 地域特性」)には
「地域特性の把握は、④既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行うこと。なお、⑤現況の情報のみならず、過去の状況の推移及び将来の状況も把握すること」と書かれています。
そして指針の解説には「文献等による調査では必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等からの聴取等により補足する必要がある」と書かれているのです。
つまり、北海道は事業者に対し詳細が分からず必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等から聞取りをすることを求めているのであり、現地調査を行わなかったから、詳細が分からないという北電の言い訳は理由になりません。
このように北電の言い分は、自ら北海道環境影響評価条例に反する方法書を作りましたと認めているわけですが、そのような反社会的な言い訳までしなければならない本当の理由が別にあると私は思います。
2年前の2010(平成22)年11月12日に、北電はこの事業を進めるに当って、北海道環境推進課と事前相談を行いました。この席で北電は、シマフクロウがいる可能性は高いと知っているとしながら「第二種事業判定においてはいずれも該当無しつまりアセス不要と判断している」との主張をしたのです。シマフクロウの生息地で工事を行うにもかかわらず、アセス不要と主張したのです。しかしこの主張は、シマフクロウがいる可能性が高いということで北海道から退けられました。
そして、その2週間後の11月26日の事前相談では、北電は、アセスを実施することによりシマフクロウの情報を流布させてしまう危険性があるとの理由をもちだして、自主アセスを実施することで環境配慮の責任を果たすこととしたい、と主張しました。自主アセスは「専門家である、だれそれの助言をいただいた」とも述べています。つまり、シマフクロウの生息地であるにもかかわらず、北海道環境影響評価条例の手続きをとりたくないとの意向を示したのです。しかし、これも北海道から退けられ、やむなく北海道環境影響評価条例の手続きを進めることになったのです。
事前相談ではシマフクロウのことが主要なテーマであったにもかかわらず、北電は、環境影響評価の方法書では、野生動物への配慮について一言も書きませんでした。つまり、シマフクロウの存在を無視、あるいはなきものとして手続きを開始したのです。
このように、シマフクロウのことが広く知られるとまずいから環境アセスをしなくていいだろうといい、それが聞き入れられないとなると、今度はシマフクロウを隠して環境アセスを進めるという北電の行動からは、何としても思い通りの工事を進めるという横暴な姿勢すら感じざるを得えないのです。
そこで問題となるのは、このような自己本位の行動をする企業が果たして科学的検証に耐えるまともな調査を行ったのかという疑念です。
この疑念を払拭するには、シマフクロウの調査データの開示が不可欠ですが、今回は全て秘密扱いですから、第三者には検証の仕様がありません。このようななかで、調査の精度について問題があることが明らかになりました。
今年8月、この会場で開かれた説明会の場で、北電は、対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息を確認していないとの調査結果の一端を明らかにしました。
発電に使われた水が流れ下る岩松発電所の放水路は、発電を停止すると水位が下がり、そこに多くの魚類がとり残されるため、シマフクロウが採食に訪れることが知られています。いうまでもなくここは北電が対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)としているところです。発電所脇の岩松橋には沢山の交通安全の旗がたてられているのはシマフクロウが交通事故にあわないよう飛行高度を高くするための方策です。またかつては放水路の下流でシマフクロウが繁殖していました。つまり発電所一帯はシマフクロウの生息域となっているのです。生息域に好適な採食場所が出現すればシマフクロウがやってくるのは当然のことです。北電がここでシマフクロウを確認しなかったということは、北電の調査が適切に行われたかを疑わせるものです。本当に科学的検証に耐える調査が行われたのか、環境影響評価審議会での慎重な検討を要請します。
次に、公正な準備書が作られたかという問題です。
シマフクロウへの影響については、北電は「専門家」2名に相談しながら準備書を作成しています。それを環境影響評価審議会小委員会の委員5名が評価するということになっています。冒頭でいいましたように調査データも、小委員会の審議内容も、さらには評価結果までも一切秘密とされます。つまり、この地域のシマフクロウの命運をごく少数の者だけが秘密裏に決するという構図になっているのです。どのような資料に基づきどのような議論がなされ、どのような結果となったか、道民は知りえないのです。このような秘密の評価が公正に客観的に行われたかを保証するためには、どのような人物が係わったかを明らかにすることが不可欠だと考えます。
小委員会の委員の氏名は勿論公表されています。しかし北電の「専門家」の方は準備書で氏名を明らかにしていません。これに関して北電は公表の義務がないからだとしています。もし専門家に道民を代表してシマフクロウの保護に万全を尽くすという意思があるなら、決して名前を公表することを拒まないのではないでしょうか。本人に意思確認をし、了承が得られたならば氏名を明らかにすべきです。
ただし、一つ気がかりなことがあります。北電が調査を委託した子会社の北電興業はアドバイザーなる名称で専門家と契約しています。たぶん有償で契約していると思われます。さきごろ原子力規制委員会は、原発敷地の活断層調査に携わる専門家の選出に当たって、今まで原発の安全審査に携わらなかった専門家を調査委員に選定しました。これは専門家による評価の信頼性を高めるためにおこなわれたものです。もし今回の専門家が北電興業のアドバイザーであるなら、準備書の信頼性に疑問符がつくことになるということを指摘しなければなりません。
最後に今回の環境影響評価手続きの信頼性の回復についてです。
シマフクロウに関する影響評価は今回のアセスの重要なテーマです。それにもかかわらず北電は、アセス不要を主張し、これが認められないとなると自主アセスを主張し、これも認められないとなるとシマフクロウを存在しないかのように扱ってアセス手続きを開始しました。このこと道民が指摘すると、虚言を弄するような言い訳を繰り返しました。このような行為は北海道環境影響評価条例を蔑ろにするものといわなければなりません。
環境影響評価手続きの信頼性を回復させるため、北電はこの間の不誠実な対応を反省し、シマフクロウの生息地で工事を行う事業であることを明らかにした上で、特別の注意を払ってアセス手続きを進めることを道民に表明すべきです。そしてシマフクロウの生息の保全に懸念をいだく道民、とりわけ自然保護団体にはきちんと説明すべきです。そうしてこそ最低限の信頼が得られることになるのです。
指針を盾にシマフクロウの一切合財を秘密し、シマフクロウの生存に影響を与えるかもしれない事業を秘密裏に進めるのは、「種の保存法」の趣旨に反するものといわなければなりません。シマフクロウに関し全ての情報を秘密にすることは、かえってシマフクロウの保護の妨げになるということを指摘し、公述を終わります。
(公述の一部を省略しています)
追記 北電興行と書きましたが、現在は北電総合設計株式会社となっていました。http://www.hokuss.co.jp/company/outline.html
2013年03月01日
十勝川水系河川整備計画変更原案に意見公述
帯広開発建設部主催の「十勝川水系河川整備計画変更原案に関する公聴会」が2月28日帯広市で開催されました。当日、公述した十勝自然保護協会の意見を以下に掲載します。
今回の十勝川水系河川整備計画変更原案は、「札内川の礫河原再生の取り組み」を十勝川水系河川整備計画に盛り込むことが主要なテーマとなっています。
「近年、河道内の樹林化が著しい札内川では、かつての河道内に広く見られた礫河原が急速に減少しており、氷河期の遺存種であるケショウヤナギの更新地環境の衰退が懸念されている」、だから「礫河原再生の取り組み」が必要だ、というのが提案の骨子です。
そうならば、礫河原が急速に減少した原因について語られていなければならないのですが、この変更原案には、このことについての記述が全くありません。したがって、十勝自然保護協会は、なぜ礫河原が急速に減少したのかについて記述することを求めます。
なお、当会は、帯広開発建設部のいうところの「礫河原」ではなく、「砂礫川原」という言葉を用います。なぜなら地形学辞典(町田ほか編)では「川原」を採用していますし、砂を含まない礫だけの川原などないからです。
帯広開発建設部は、砂礫川原が急速に減少した原因について考察していなかったわけではありません。この変更原案を作成するに当たり、札内川技術検討会を設置し、帯広開発建設部はこの検討会に「河道内樹林化の原因分析」なる資料を提出して、河道内樹林化についての見方を明らかにしています。
それによると、「融雪出水の冠水は樹林化に大きく影響を与え」「冠水する時期や頻度は河道内樹木の生育に影響を与え」るとし、H18~22年はH10~17年に比べて平均年最大流量が半減し、融雪期最大流量も減少傾向にある、だから樹林化が進行していると原因分析をしています。
この原因分析は、札内川技術検討会での議論を経て作成された札内川自然再生計画書に、近年の年最大流量や融雪期の流量の減少傾向が河道内樹林化の主要因として引き継がれています。
1998年、H10年以降の高々15年ほどの流量変動を基に河道内が樹林化している、だから砂礫河原の復元をしなければならないとの論理は、札内川の歴史の無視、あるいは札内川の歴史への無知と言わなければなりません。
札内川がいつから網状流河川すなわち砂礫川原を持つ河川であったか、誰にも正確なことは分からないのですが、光地園礫層が形成された更新世中期(78~12.6万年前)のおそらく海洋酸素同位体ステージ12、すなわち約40万年前から札内川は砂礫川原をもつ網状流河川であったと考えていいでしょう。
この長い歴史のなかでは、降雨量の減少などにより河畔林が拡大し砂礫川原が縮小したこともあったに違いありません。しかし数十年に1度、あるいは数百年に1度の大雨によって、河畔林が流され砂礫川原が出現したことでしょう。だからこそ、砂礫川原を生育地とするケショウヤナギが今日まで世代を重ねることができたのです。
札内川自然再生計画書によれば、上札内橋付近では、平成に入った頃、つまり1989年ころから砂礫川原に樹木が定着したといい、第二大川橋付近ではH17年、2005年頃までは砂礫川原が維持されていたといいます。札内川の砂礫川原を写した空中写真で最も古いものは、1944年、昭和19年に旧陸軍が撮影したものですが、これには広々とした砂礫川原が写っています。1963年、1977年、1982年の国土地理院撮影の空中写真でも立派な砂礫川原を確認できます。
札内川では1955年、1962年、1972年、1981年に洪水が発生したことが知られています(札内川自然再生計画書などによる)。帯広開発建設部によると1955年についてはデータが残されていないとのことですが、1962年と1972年の洪水における第二大川橋での最大流量はそれぞれ毎秒1,250立方メートルと1,400立方メートル程度と推定されます。しかし、1973年以降、この第二大川橋では最大流量が毎秒800立方メートル程度にしか達していません。つまり、1944年以降の札内川の立派な砂礫川原は、7年から10年間隔での大雨による大量出水によって維持されていたのですが、1973年以降、第二大川橋で毎秒1,000立方メートルを超える出水がないため、1989年頃から河畔林が拡大してきた、と理解すべきです。
では、1973年以降札内川の集水域では、大量出水をもたらす大雨が降らなくなるような気候の変化が生じたのでしょうか。そのような事実はないでしょう。1998年、H10年以降、札内川の集水域では大量の降雨があっても大量出水しない仕組みができてしまったのです。大量出水しない仕組みとは、札内川ダムによる流量調整です。
2011年、H23年9月の大雨では札内川ダムに毎秒630立方メートルの流入があったのですが、毎秒130立方メートルだけ放流されました。この時の第二大川橋での最大流量は毎秒552立方メートルありましたから、札内川ダムで貯留しなければ毎秒1,000立方メートルを超える流量となったことでしょう。また2001年に第二大川橋で毎秒800立方メートルの最大流量を観測していますが、この時も札内川ダムで貯留しなければ毎秒1,000立方メートルに近い流量となっていたと推測されます。つまり1973年以降も砂礫川原が拡大するチャンスが2回あったということです。
今回、札内川技術検討会の委員長を勤めている北海道大学大学院教授の中村太士さんは、新聞のコラム(北海道新聞2009年7月8日付「魚眼図」)に次のように書いています。
「日本の多くの川で『樹林化』が進んでいる。(中略)樹木が繁茂する理由はさまざまであるが、その多くは川が変動しなくなり、『洪水撹乱』が減ったことに原因がある。(中略)今の日本の川では、ダムや取水によって流量が低下もしくは安定し、河川改修によって『澪筋』が変動しなくなっているのが特徴である」。
中村さんの言う通りのことが札内川で起こっていたのです。そして札内川技術検討会(第1回)の議事概要には「樹林化の原因の一つとして、札内川ダムによる流量調節や供給土砂の減少が考えられる。工学的な判断を行う上で、流量だけではなく土砂の情報も重要」と記されています。これは河川工学研究者の発言と思われますが、河川に精通している者にとってダムが樹林化を促進することは常識といってよいでしょう。それにもかかわらず、札内川自然再生計画書に札内川ダムがもたらす「樹林化」について書かれなかったのは不可解なことです。
そしてもう一点不可解なことがあります。前述のように技術検討会で委員が指摘した札内川ダムによる供給土砂の減少について書かれていないことです。中村太士委員長も、2011年9月の新聞のコラム(北海道新聞2011年9月27日付「魚眼図」)で「ダム等で砂利が山から供給されなくなると、最後に川は基岩をえぐりエネルギーを消費する。これを英語で『hungry water』と呼ぶ。今、日本の川はおなかが減っており、砂利が必要だ」と指摘しています。
札内川ダムそして戸蔦別川の砂防ダム群が、山間部で生産された土砂の流下を妨げていることは明らかです。長い時間でみるなら、現在ケショウヤナギが生育する流域の砂礫は下流に運ばれているのであり、上流から砂礫が補給されなければ、河床低下による河岸の段丘化が進みケショウヤナギの生育適地は縮小することになります。
ケショウヤナギは、山岳部において岩屑生産が多く河川の砂礫移動の激しかった氷河期には北海道のもっと多くの河川に生育していたけれども、氷河期が終わって岩屑生産が減少し砂礫移動も乏しくなったため生育適地が消失し分布が縮小した、と推測されます。つまりケショウヤナギの生存には、出水による砂礫川原の出現とともに砂礫の供給が鍵を握っていると考えられるのです。
帯広開発建設部が変更原案でダムのことに触れなかったのは、ダムの負の側面を隠したいとの意図があったのではと疑わざるを得ません。もしそうならば、国民を愚弄するものです。
十勝自然保護協会は、今回の計画変更にあたって、札内川ダムが札内川の樹林化促進の要因であること、そしてダムが砂礫の流下を妨げていることを明記するよう求めます。
例えば、「近年、河道内の樹林化が著しい札内川では、かつての河道内に広く見られた砂礫川原が札内川ダムでの流量調整によって急速に減少するとともに、今後砂礫の供給が困難になることから、氷河期の遺存種であるケショウヤナギの更新地環境の衰退が懸念されている」とすべきです。
私たちは自然が発する事実に謙虚でなければなりません。事実を無視して適切な「自然再生」などできないからです。「札内川の礫河原再生の取り組みについては、礫河原再生の目標や進め方等について記載した『札内川自然再生計画書』を踏まえ」てやるというのであれば、札内川ダムと戸蔦別砂防ダム群の影響についてきちんと分析し、その結果を踏まえて、この札内川自然再生計画書を書き直すべきです。
変更原案の記述についてふれておきます。札内川について「網状に蛇行して流れる」と書いているのですが、一般に網状とは河道の中の水流(流路)の状態であり、蛇行とは「河道が屈曲している状態」(地形学辞典)をいいます。したがって「網状に蛇行」は落ち着きの悪い表現です。蛇行を削除して、「網状に流れる」とするか、「網状河道が蛇行して流れる」とするほうがいいでしょう。ただし蛇行しない自然河川はありませんからくどいかもしれません。
また、札内川自然再生計画書に「土壁」という言葉が出てきますが、これについは前回の意見書を踏まえ使わないことになったはずです。訂正を求めます。
帯広開発建設部治水課は、これまで当会の質問あるいは意見に対し、速やかに対応することがほとんどありませんでした。札内川自然再生計画書の「図8-1 自然再生計画における地域及び関係機関との連携のイメージ」には市民団体の意見を聞き、河川管理者は情報の発信・広報をするとされています。これを絵に描いた餅に終わらせてはなりません。河川行政に責任を負う機関として、たとえ不都合な意見や質問であろうと速やかに、かつきちんと説明することを求めます。
十勝自然保護協会は札内川自然再生計画が自然の摂理に背いたものにならないよう監視活動を続け、必要があれば意見することを表明します。
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今回の十勝川水系河川整備計画変更原案は、「札内川の礫河原再生の取り組み」を十勝川水系河川整備計画に盛り込むことが主要なテーマとなっています。
「近年、河道内の樹林化が著しい札内川では、かつての河道内に広く見られた礫河原が急速に減少しており、氷河期の遺存種であるケショウヤナギの更新地環境の衰退が懸念されている」、だから「礫河原再生の取り組み」が必要だ、というのが提案の骨子です。
そうならば、礫河原が急速に減少した原因について語られていなければならないのですが、この変更原案には、このことについての記述が全くありません。したがって、十勝自然保護協会は、なぜ礫河原が急速に減少したのかについて記述することを求めます。
なお、当会は、帯広開発建設部のいうところの「礫河原」ではなく、「砂礫川原」という言葉を用います。なぜなら地形学辞典(町田ほか編)では「川原」を採用していますし、砂を含まない礫だけの川原などないからです。
帯広開発建設部は、砂礫川原が急速に減少した原因について考察していなかったわけではありません。この変更原案を作成するに当たり、札内川技術検討会を設置し、帯広開発建設部はこの検討会に「河道内樹林化の原因分析」なる資料を提出して、河道内樹林化についての見方を明らかにしています。
それによると、「融雪出水の冠水は樹林化に大きく影響を与え」「冠水する時期や頻度は河道内樹木の生育に影響を与え」るとし、H18~22年はH10~17年に比べて平均年最大流量が半減し、融雪期最大流量も減少傾向にある、だから樹林化が進行していると原因分析をしています。
この原因分析は、札内川技術検討会での議論を経て作成された札内川自然再生計画書に、近年の年最大流量や融雪期の流量の減少傾向が河道内樹林化の主要因として引き継がれています。
1998年、H10年以降の高々15年ほどの流量変動を基に河道内が樹林化している、だから砂礫河原の復元をしなければならないとの論理は、札内川の歴史の無視、あるいは札内川の歴史への無知と言わなければなりません。
札内川がいつから網状流河川すなわち砂礫川原を持つ河川であったか、誰にも正確なことは分からないのですが、光地園礫層が形成された更新世中期(78~12.6万年前)のおそらく海洋酸素同位体ステージ12、すなわち約40万年前から札内川は砂礫川原をもつ網状流河川であったと考えていいでしょう。
この長い歴史のなかでは、降雨量の減少などにより河畔林が拡大し砂礫川原が縮小したこともあったに違いありません。しかし数十年に1度、あるいは数百年に1度の大雨によって、河畔林が流され砂礫川原が出現したことでしょう。だからこそ、砂礫川原を生育地とするケショウヤナギが今日まで世代を重ねることができたのです。
札内川自然再生計画書によれば、上札内橋付近では、平成に入った頃、つまり1989年ころから砂礫川原に樹木が定着したといい、第二大川橋付近ではH17年、2005年頃までは砂礫川原が維持されていたといいます。札内川の砂礫川原を写した空中写真で最も古いものは、1944年、昭和19年に旧陸軍が撮影したものですが、これには広々とした砂礫川原が写っています。1963年、1977年、1982年の国土地理院撮影の空中写真でも立派な砂礫川原を確認できます。
札内川では1955年、1962年、1972年、1981年に洪水が発生したことが知られています(札内川自然再生計画書などによる)。帯広開発建設部によると1955年についてはデータが残されていないとのことですが、1962年と1972年の洪水における第二大川橋での最大流量はそれぞれ毎秒1,250立方メートルと1,400立方メートル程度と推定されます。しかし、1973年以降、この第二大川橋では最大流量が毎秒800立方メートル程度にしか達していません。つまり、1944年以降の札内川の立派な砂礫川原は、7年から10年間隔での大雨による大量出水によって維持されていたのですが、1973年以降、第二大川橋で毎秒1,000立方メートルを超える出水がないため、1989年頃から河畔林が拡大してきた、と理解すべきです。
では、1973年以降札内川の集水域では、大量出水をもたらす大雨が降らなくなるような気候の変化が生じたのでしょうか。そのような事実はないでしょう。1998年、H10年以降、札内川の集水域では大量の降雨があっても大量出水しない仕組みができてしまったのです。大量出水しない仕組みとは、札内川ダムによる流量調整です。
2011年、H23年9月の大雨では札内川ダムに毎秒630立方メートルの流入があったのですが、毎秒130立方メートルだけ放流されました。この時の第二大川橋での最大流量は毎秒552立方メートルありましたから、札内川ダムで貯留しなければ毎秒1,000立方メートルを超える流量となったことでしょう。また2001年に第二大川橋で毎秒800立方メートルの最大流量を観測していますが、この時も札内川ダムで貯留しなければ毎秒1,000立方メートルに近い流量となっていたと推測されます。つまり1973年以降も砂礫川原が拡大するチャンスが2回あったということです。
今回、札内川技術検討会の委員長を勤めている北海道大学大学院教授の中村太士さんは、新聞のコラム(北海道新聞2009年7月8日付「魚眼図」)に次のように書いています。
「日本の多くの川で『樹林化』が進んでいる。(中略)樹木が繁茂する理由はさまざまであるが、その多くは川が変動しなくなり、『洪水撹乱』が減ったことに原因がある。(中略)今の日本の川では、ダムや取水によって流量が低下もしくは安定し、河川改修によって『澪筋』が変動しなくなっているのが特徴である」。
中村さんの言う通りのことが札内川で起こっていたのです。そして札内川技術検討会(第1回)の議事概要には「樹林化の原因の一つとして、札内川ダムによる流量調節や供給土砂の減少が考えられる。工学的な判断を行う上で、流量だけではなく土砂の情報も重要」と記されています。これは河川工学研究者の発言と思われますが、河川に精通している者にとってダムが樹林化を促進することは常識といってよいでしょう。それにもかかわらず、札内川自然再生計画書に札内川ダムがもたらす「樹林化」について書かれなかったのは不可解なことです。
そしてもう一点不可解なことがあります。前述のように技術検討会で委員が指摘した札内川ダムによる供給土砂の減少について書かれていないことです。中村太士委員長も、2011年9月の新聞のコラム(北海道新聞2011年9月27日付「魚眼図」)で「ダム等で砂利が山から供給されなくなると、最後に川は基岩をえぐりエネルギーを消費する。これを英語で『hungry water』と呼ぶ。今、日本の川はおなかが減っており、砂利が必要だ」と指摘しています。
札内川ダムそして戸蔦別川の砂防ダム群が、山間部で生産された土砂の流下を妨げていることは明らかです。長い時間でみるなら、現在ケショウヤナギが生育する流域の砂礫は下流に運ばれているのであり、上流から砂礫が補給されなければ、河床低下による河岸の段丘化が進みケショウヤナギの生育適地は縮小することになります。
ケショウヤナギは、山岳部において岩屑生産が多く河川の砂礫移動の激しかった氷河期には北海道のもっと多くの河川に生育していたけれども、氷河期が終わって岩屑生産が減少し砂礫移動も乏しくなったため生育適地が消失し分布が縮小した、と推測されます。つまりケショウヤナギの生存には、出水による砂礫川原の出現とともに砂礫の供給が鍵を握っていると考えられるのです。
帯広開発建設部が変更原案でダムのことに触れなかったのは、ダムの負の側面を隠したいとの意図があったのではと疑わざるを得ません。もしそうならば、国民を愚弄するものです。
十勝自然保護協会は、今回の計画変更にあたって、札内川ダムが札内川の樹林化促進の要因であること、そしてダムが砂礫の流下を妨げていることを明記するよう求めます。
例えば、「近年、河道内の樹林化が著しい札内川では、かつての河道内に広く見られた砂礫川原が札内川ダムでの流量調整によって急速に減少するとともに、今後砂礫の供給が困難になることから、氷河期の遺存種であるケショウヤナギの更新地環境の衰退が懸念されている」とすべきです。
私たちは自然が発する事実に謙虚でなければなりません。事実を無視して適切な「自然再生」などできないからです。「札内川の礫河原再生の取り組みについては、礫河原再生の目標や進め方等について記載した『札内川自然再生計画書』を踏まえ」てやるというのであれば、札内川ダムと戸蔦別砂防ダム群の影響についてきちんと分析し、その結果を踏まえて、この札内川自然再生計画書を書き直すべきです。
変更原案の記述についてふれておきます。札内川について「網状に蛇行して流れる」と書いているのですが、一般に網状とは河道の中の水流(流路)の状態であり、蛇行とは「河道が屈曲している状態」(地形学辞典)をいいます。したがって「網状に蛇行」は落ち着きの悪い表現です。蛇行を削除して、「網状に流れる」とするか、「網状河道が蛇行して流れる」とするほうがいいでしょう。ただし蛇行しない自然河川はありませんからくどいかもしれません。
また、札内川自然再生計画書に「土壁」という言葉が出てきますが、これについは前回の意見書を踏まえ使わないことになったはずです。訂正を求めます。
帯広開発建設部治水課は、これまで当会の質問あるいは意見に対し、速やかに対応することがほとんどありませんでした。札内川自然再生計画書の「図8-1 自然再生計画における地域及び関係機関との連携のイメージ」には市民団体の意見を聞き、河川管理者は情報の発信・広報をするとされています。これを絵に描いた餅に終わらせてはなりません。河川行政に責任を負う機関として、たとえ不都合な意見や質問であろうと速やかに、かつきちんと説明することを求めます。
十勝自然保護協会は札内川自然再生計画が自然の摂理に背いたものにならないよう監視活動を続け、必要があれば意見することを表明します。
2012年11月13日
新岩松発電所新設工事環境影響評価見解書への意見書
当会は、11月8日に新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書に係る事業者の見解書に対する意見書(下記)を事業者に送付した。
今後は北海道知事から諮問された北海道環境影響評価審議会が当会などの意見書も踏まえ、北電の環境影響評価準備書を審議していくことになる。審議会は小委員会委員を設置し、第1回の委員会が11月15日に開催されるという。なお、小委員会の委員は、帰山雅秀、池田 透、岡村俊邦、早矢仕有子、吉田国吉の各氏。慎重な審議を期待したい。
北電の見解書には説明不足、論点のすり替え、北海道の「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」の無視などの問題があることから意見書を提出する。
本論に入る前に改善すべき点を指摘しておく。「準備書」は縦覧期間しかインターネットで公開されておらず、コピーもプリントもできない仕様になっている。このため意見を書く際に確認することができない。なぜ「準備書」を非公開にしてしまうのか理解しがたい。環境保全が本当に大事であると考えるのであれば、方法書、準備書、評価書などはいつでも閲覧できるようにしておくべきである。
1.虚偽記載について
当会が「北電が配慮すべき希少動植物の存在を知りながら野生生物への配慮を記載しなかったのは否定しようのない事実である。『既存資料(方法書の段階)では、対象事業による野生生物への影響を確認することができなかったため』と『配慮』を『影響』にすり替えての言い訳は、見苦しい限りである。包み隠さず事実関係を明らかにし、道民に謝罪すべきである。」と指摘したのに対し、北電は「今回、新岩松発電所新設工事を実施する区域(対象事業実施区域)及びその周辺に、どの程度、生息・生育するかまでの詳細な記載はなかったため、工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮 (6)動植物』は記載しておりません。」と「配慮」を「影響」にすり替える言い訳を繰り返した。
この言い訳が成り立たないことをまず明らかにする。
北海道には、事業者が環境影響評価を実施するに当たって、方法書、準備書等の記載事項について定めるとともに、事業者が調査、予測及び評価の手法等環境影響評価を行う上で必要な技術的事項を選定するに当たり考慮すべき標準的事項を定めた「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」(以下、「指針」)と、この指針に解説を付した「環境影響評価技術指針の解説」(以下、「指針の解説」)がある。
方法書について指針の「(1) 事業計画の立案」には次のように書かれている。
ア 事業計画を立案する段階から、環境保全に関する法令の遵守はもちろん、道等が定めた環境保全に係る各種の指針等の趣旨を踏まえ事業者が自ら環境に配慮することは、環境保全を図る上で、極めて重要である。事業計画の立案に当たり考慮すべき道が定めた環境保全に係る各種の指針等は、次のとおりである。(略)
イ アの趣旨を踏まえ、方法書の事業計画の概要には、事業者の環境保全に対する基本的な考え方及び①事業計画の立案に際して行った環境への配慮を含めて記載すること。
そして、指針の解説には「本指針では、事業計画の内容決定に柔軟性を有している早い段階から環境配慮が適切に行われるように、事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載することとしたものである。」と書かれている。
つまり、指針は「事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載する」ことを求めているのであって、具体的な影響を予測することなど求めていないのである。したがって、「工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮 (6)動植物』は記載しておりません。」との北電の言い訳は成り立たない。
また北電は、現地調査を行わなかったが、既存文献で重要な動植物種が生息することは知っていた。しかし詳細な記載がなかったためこの動植物種への影響を予測できなかった、との論理を展開しているが、このような論理が成り立たないことは、指針および指針の解説を読めば明らかである。
指針の「第3-2 方法書 (2) 地域特性」の把握には次のように書かれている。
ア 環境影響評価の項目や調査等の手法の選定に当たっては、その選定を行うために必要な範囲内で、次に掲げる地域特性(事業実施区域及びその周辺地域の自然的状況及び社会的状況)を把握するものとする。
イ 地域特性の把握は、④既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行うこと。なお、⑤現況の情報のみならず、過去の状況の推移及び将来の状況も把握すること。
そして指針の解説には次のように書かれている。
④「既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行う」地域特性の把握については、一般に入手可能な最新の文献、資料等を中心に、環境影響評価の項目等の選定に必要な情報を広く収集する。なお、採用した文献等については、その出典を明らかにする必要がある。(第3-7の(1)参照)また、文献等による調査では必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等からの聴取等により補足する必要がある。
つまり、北海道は事業者に対し詳細が分からず必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等から聞取りをすることを求めているのであり、現地調査を行わなかったから、詳細が分からないというのは理由にならないのである。
このように北電の見解書は、指針を無視して手続きを進めてきたことを自ら証言しているのである。
当会は、前述のように準備書への意見で、2011年の環境推進課の文書に基づき北電の見解が虚偽であることを指摘したが、その後入手した道の開示文書から北電の見解書がいかに欺瞞に満ちたものであるかを明らかにする。
2010(平成22)年11月12日に、北海道環境推進課によって作成された文書「岩松発電所再開発計画に係る事業者説明において」によれば、同日、北電は環境推進課と今回の事業に関し事前相談を行っている。この席で北電が「第二種事業判定においてはいずれも該当無し(つまりアセス不要となる)と判断している」と主張したのに対し、環境推進課は以下のように指導している。
(2)******について
******や******から聞き取りを行ったところ、当該地域には******が存在する蓋然性が高いという話であったことから、当方としては、第二種事業届出書の提出があった場合、「アセスを要する」と判断することになろうかと思う。
事業者として、既存文献には現れない当該種の情報収集や、アセス書を提出する場合に当該種の情報をどのように扱うべきか等について、上記2名などの専門家に聞き取りを行ったほうがよいのでは。
つづいて2010(平成22)年11月26日に事前相談が行われ、北電は以下のように説明した(同日付環境推進課作成文書「岩松発電所再開発計画に係る事前相談について」による)。
①(近くで開発局がおこなっている、かんがい排水事業の自主アセスにならって)自主アセスを実施することで環境配慮の責任を果たすこととしたい。
②******の専門家である、************に助言をいただいた。開発の規模からも自主アセスを実施することでも、環境の保全は担保されるのではないか、との私見をいただいた。
③******の情報の取り扱いについては慎重を期する必要があるが、アセスを実施することにより情報を流布させてしまう危険性がある。
④実際にアセスを実施するとして、******の情報を一切出さないとなると評価書の記載はどのようにすればいいのか苦慮する。
⑤略
⑥***については生息の情報はない。屈足湖の発電ではJ-POWERが調査を実施しているが、生息魚類はウグイとニジマスぐらいだった。
これに対し、環境推進課は以下のように指摘した。
①条例によるアセスでは住民とのコミュニケーション手続きがある。自主アセスではそれが規定されておらず、内容には大きな差がある。条例対象規模(第2種)であるから、適正な手続きを踏むということであれば条例によるべきであろう。
②希少種(******)の情報が外に漏れるおそれがあるからアセスをしないというのは理由にならない。
③事業者が自主アセスを実施することにより、スクリーニングで条例のアセス手続きを不要にするということはありえない。仮に自主アセスをやるとした場合、その実施の意味は、環境への影響のおそれを事業者自らが判断したからであろう。であれば、事業者がそのような判断を下すような事業について、道がスクリーニングでアセス不要という結果を下すことはないのではないか。
④略
⑤非公式情報であるが、***が生息するという情報がある。注意してもらいたい。
(当会注:黒塗りは開示にさいして北海道が行なったもので、黒塗りの生物種はシマフクロウとイトウである。)
北海道の指導により、北電は、「会社内部の整理上の問題もあるので、第2種事業届出(別添案のとおり)をし、道の判断を仰ぎ、しかるべき対応をとることとしたい。」と、当初固執していた「自主アセス」の方針を変更することになったのである。
このように北海道は、希少動物への影響を懸念して、条例に基づく環境影響評価を行うことを求めたにもかかわらず、また事前相談の主要なテーマが希少種シマフクロウのことであったにもかかわらず、北電は動植物への配慮を方法書に記載しなかったのである。
以上の指摘を真摯に受け止め、北電は道民を誤魔化すことなく、動植物への配慮を方法書に記載しなかった本当の理由をきちんと説明しなければならない。
3.シマフクロウ調査の瑕疵について
「調査対象範囲でシマフクロウを確認できなかった北電の調査には重大な瑕疵があったということである。社会の信頼を得られるきちんとした調査で現状を把握せずに環境影響評価を行うのは論外である。シマフクロウの調査をやりなおすべきである。」との当会の意見に対し、北電は「希少猛禽類の調査は、定点調査により調査対象範囲(対象事業実施区域の周囲約500mまでの範囲)及びその周辺における生息状況を把握し、この生息状況をもとに現地踏査を実施して営巣地の有無を把握しています。これら調査結果から、希少猛禽類は十分な影響評価が可能であると考えています。(略)特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため生息情報と影響予測・評価は、別冊版に取り纏め、北海道の審査を受けることになっています。なお、説明会における、生態系の「上位性」の注目種にシマフクロウを選定しなかった理由につきましては、当社は「対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息は確認されていないことから選定していない」としています。」との見解を明らかにした。
発電に使われた水が流れ下る岩松発電所の放水路は、発電を停止すると水位が下がり、プール状となる。そうするとこの溜りに多くの魚類がとり残され、シマフクロウが採食に訪れことが知られている。ここが対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)であることはいうまでもない。北電が対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)でどのような調査をしてシマフクロウを確認できなかったのか、非公開のためわからないのだが、対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)でシマフクロウを確認できなかった北電の調査には重大な瑕疵があったということである。社会の信頼を得られるきちんとした調査で現状を把握せずに環境影響評価を行うのは論外であり、シマフクロウの調査をやりなおすべきである。
4.肝心な情報の非公開について
今回の環境影響評価の最大のポイントは、シマフクロウの繁殖あるいは生息に対する建設工事の影響であるから、肝心なことがいっさい非公開というのは、この制度を形骸化させるものである。シマフクロウへの影響がどのように評価されているか、道民が意見を述べられるようにすべきである、との当会の意見に対し、北電は、知事意見を盾に「特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため生息情報と影響予測・評価は、別冊版に取り纏め、北海道の審査を受けることになっています。」とし、「シマフクロウへの影響がどのように評価されているか、道民が意見を述べられるようにすべきである」との意見に答えようとしない。
これは道民の意見は聞かず、一部の者にすべてを委ねて秘密裏に処理するという姿勢である。国民・道民の財産である希少動物の保護に関し、道民の意見を聞く必要は一切ないと理解できるが、この点についてきちんとした説明をするべきである。
5.要約書の欠陥について
当会が「要約書の『環境影響評価の結果』には本事業で最も影響が懸念されるシマフクロウについて一切書かれていない。これでは事業予定地一帯がシマフクロウの生息地であることを無視ないし否定しているようなものである。アセスメントの要約書として欠陥がある」と指摘したのに対し、北電は、知事意見を根拠に、「特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため要約書におきましても、準備書でシマフクロウの調査範囲や生息情報等を非公開としていることに配慮したものです。」との見解を述べている。
しかし、準備書には、現地調査結果および予測対象種としてシマフクロウが記載されているし、1で述べたように、シマフクロウの生息地であるがゆえに条例に基づく手続きを行なったのである。したがって要約書にシマフクロウの種名を記載しないのは一貫性のない扱いであるうえ、重要な種の存在を隠蔽することに通じる。要約書にシマフクロウの種名を記載しなかった理由を明らかにしなければならない。
6.選択肢の追加について
シマフクロウという希少猛禽類への影響が懸念される以上、既存の規模のまま水車や発電機を新しいものに交換するという選択肢が検討されてしかるべきである。これを選択肢に加えて再度環境影響評価を行うべきである。との当会の意見に対し、北電は、「新岩松発電所新設計画策定にあたっては、河川の流量や発電機の効率などから想定される可能発電電力量を算出した上で発電所の経済性を評価しています」と経済性を優先した計画策定であるとの見解を明らかにした。
経済性を優先して取水量を増やせば、河川の流量が大きく変動することになり河川生態系、とりわけフクドジョウ・イトウなどの絶滅危惧種に悪影響を生じさせることを指摘しておく。事業費からも、環境への影響からも現在の発電規模を変えずに老朽化した部分だけを交換することが最善であることは言うまでもない。このような選択肢をはじめから用意しない計画策定は「はじめに事業ありき」であり、環境影響評価条例の趣旨に反する。このような経済性優先の計画策定であるから、動植物への配慮を方法書に記載できなかったといわれても仕方がない。
7.類似工事の前例について
「シマフクロウの営巣地あるいは採餌場の近くでこのような発破を伴う大規模な工事によって、ストレスなどの影響を与えなかったと断定できるデータが得られているのか明らかにすべきである。」との当会の意見に対し、北電は、「シマフクロウの繁殖を阻害せず実施した事例はあります。」とこたえたものの、発破を伴う大規模な工事によって、ストレスなどの影響を与えなかったと断定できるデータについては答えていない。すなわち、ストレスを与えないとは言えないということである。
8.上位性の種の選定について
北電は、今回の見解書で「生態系の『上位性』の注目種にシマフクロウを選定しなかった理由につきましては、当社は『対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息は確認されていないことから選定していない』としています。」と述べている。
つまり、北電は、生態系の対象範囲が対象事業実施区域に限定されるという見解を持ち出してきた。しかし指針の解説では、「生態系の保全」について「概況調査の結果から、事業実施区域及びその周辺において生物の生息(育)がほとんど認められないことが明らかな場合を除き、原則として環境影響評価の対象項目とする。」(p133)とし、生態系の対象範囲を対象事業実施区域とその周辺と定義しているのである。
また、平成23年11月17日付で北海道知事が出した「新岩松発電所新設工事環境影響評価方法書に対する環境保全の見地からの意見について」では以下のように述べられている。
(2)当該事業の実施により発電所放流口の移設や取水量が増加するなど、河川生態系への影響が懸念される。当該事業実施区域およびその周辺には採餌を河川に依存する希少種が生息する可能性があることから、当該事業の実施が要因となる河川生態系の変化が本地域の生態系上位種に与える影響について、準備書において予測・評価することが必要である。よって、「生態系」についても評価項目として選定し、食物網図を用いるなどして種間関係を構造的に把握すること。
知事は、事業実施区域及びその周辺には採餌を河川に依存する希少種が生息する可能性があるから、本地域の生態系上位種に与える影響について注意を喚起しているのである。生態系の対象範囲が対象事業実施区域に限定されるという北電の見解は、知事意見を無視するものである。なおここでいう「河川に依存する希少種」にシマフクロウが含まれることはいうまでもない。したがってシマフクロウを「上位性」の注目種に選定しなかった理由を北電はきちんと説明しなければならない。
9.工事計画等の調整で対処することについて
「準備書に記載した『重要な行動』とは、希少猛禽類の『繁殖に係る行動』を示しています」とのことだが、繁殖への影響しか考慮しないのは不十分である。工事による影響で他の場所に移動してしまう可能性などはなぜ考慮しないのか。また、岩松地区は環境省がシマフクロウの保護増殖事業(給餌や巣箱かけ)を行っているところである。たとえシマフウロウが1羽だけで繁殖できない状態の場合でも、あるいは姿を消したということがあったとしても、他の地域から分散してくる個体が定着して繁殖できる場所である。シマフクロウにストレスを与え定着に影響を及ぼす可能性のある事業は、繁殖しているか否かに関わらず回避しなければならない。繁殖を阻害しなければいいという判断は誰によるものなのか、明らかにしていただきたい。
「もし、調査対象範囲及びその近傍で繁殖が確認された場合には…」とのことだが、3で指摘したように放水路でシマフクロウを確認できない調査は信用に足るものではない。しかも、調査自体がシマフクロウに悪影響を与えないように慎重に行わなければならないのである。繁殖しているか、あるいは繁殖に影響を及ぼしているか否かを常に確認しなければならないようなところで事業を行うこと自体が問題といわなければならない。
「調査対象範囲及びその近傍」での繁殖への影響しか考えていないのは驚くべきことである。行動圏の広い猛禽類への影響の範囲を500m程度とする根拠を示していただきたい。ちなみに、世界ラリー選手権において主催者である毎日新聞は、コース選定にあたってシマフクロウの繁殖地から5km以内の場所を避けるとしていた。なお、事業者はもちろん知っているはずだが、シマフクロウの重要な採餌場が図に示された調査対象範囲内にある。また繁殖地は本事業の実施場所の5キロよりはるかに近いところにあることを指摘しておく。
10.猛禽類に与えるストレスについて
9の意見で述べたように、猛禽類への影響を考慮する範囲を500m程度とする根拠を明らかにすべきである。
当会は騒音、振動、人や自動車の往来、環境の変化がストレスを与えると指摘しているのであり、繁殖への影響だけを問題視しているわけではない。繁殖さえ成功すれば、希少動物にストレスを与えてもよいという考えなのか。
事業対象地一帯はシマフクロウの生息地となっており、日中にシマフクロウが事業対象地の近くにいる可能性もあることを指摘しておく。
12.重要な種の影響予測について
ここで指摘しているのは「ほかにも生育(生息)環境があるから大丈夫」との論法では、どんなに貴重な環境でも破壊できることになり、アセスの意味がないということである。しかし、見解は相変わらず「ほかにも生育(生息)環境があるから影響が少ない」という内容で、意見に対応する見解となっていない。
今日までに人類は大変な自然破壊を行い、多くの種を絶滅に追い込んできた。そのような反省から生物多様性の保全が求められ、環境影響評価が行われるのである。意見6で述べた選択肢があれば新たな環境破壊は防げるにも関わらず、「ほかにも生育(生息)環境があるから影響が少ない」との論法を主張するのは欺瞞である。
13.騒音の予測・評価を行った地点について
近傍民家の位置を示していただきたい。
たった500m程度の距離しか考慮せず、営巣地が確認されていないから影響が小さい、などという主張はすべきでない。繰り返すが、事業実施区域の含む周辺一帯はシマフクロウの行動圏の範囲内である。
なお、騒音および振動の環境保全措置として「建設機械の稼働時間は原則として夜間を避け…」としているが、シマフクロウの活動時間は日長によって左右され、日長の短い秋や冬は夕方から活動時間となる。「原則として夜間を避け」などという曖昧な保全措置は不適切である。
14.騒音の数値について
「準備書」がホームページより削除され数値が確認できないが、既設発電所の撤去作業での騒音予測値(L5)が74dBで環境基準値の70dB以上であるなら要約書にもその数値を記載すべきである。
15.専門家の氏名の公表について
当会の「指導内容に責任をもたせるため、専門家の氏名を明らかにすべきである。」との意見に対し、北電は、「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」では「専門分野を明らかにすること」とされているが、氏名までは明らかにすることになってないし、環境省も「助言した専門家個人が特定された場合、多くの意見が個人に集中し対応不能となるといった事態も想定されるため、過去の判例も考慮し、これら情報によって専門家個人が特定されることのないよう配慮が必要である」(「環境影響評価法に基づく基本的事項等に関する技術検討委員会報告書」平成24 年3 月)としているから、非公開とするとの見解を明らかにした。
希少動物であるシマフクロウの情報自体が非公開であり、シマフクロウへの影響が専門家の判断に任されるのであれば、本事業のアセスにおいて最も重要な種に対する影響の判断は秘密裏に行われることになる。つまり情報を入手し判断を委ねられる専門家は大きな責任を負っているのである。本人に氏名公表の可否を確認したうえで、了解を得られた人物については氏名を公表すべきである。「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」では氏名を明らかにせよとしていないが、氏名を明らかにしてはならないともしていない。氏名を公表できないような専門家のアドバイスは社会の評価に耐えられないことも肝に銘じなければならない。
さきごろ原子力規制委員会は、大飯原発の活断層調査に携わる専門家の選出に当たって、関連学術団体に推薦を要請し、そのなかから今まで原発の安全審査に携わらなかった専門家を調査委員に選定した。これは専門家による評価の透明性、信頼性を高めるためにおこなわれたものである。北電もこれにならって依頼した猛禽類専門家の氏名を公表すべきである。そうすれば過去に開発事業で猛禽類保護についてどのようなアドバイスした人物か知ることができるから、環境影響評価が適切におこなわれているか、道民が一定の判断をくだせるようになる。
「過去の判例」にふれているが、これは辺野古基地建設の地質調査・海象調査などに係る専門家の氏名開示請求をめぐる判例と保護司名簿に記載された保護司の氏名の開示をめぐる判例のことである。シマフクロウに関するあらゆる情報が非公開になっている今回のケースと同列に扱うべきではない。専門家の名前を公表することで多くの意見が個人に集中し対応不能になるといった事態が想定されるというが、たとえ多くの意見が寄せられても個人個人に回答をする必要はなく、まとめて見解を公表すればいいことである。
最後に専門家のアドバイスに関して言っておかなければならないことがある。
前述のように、2010(平成22)年11月26日に事前相談が行われた際、北電は「******の専門家である、************に助言をいただいた。開発の規模からも自主アセスを実施することでも、環境の保全は担保されるのではないか、との私見をいただいた。」と環境推進課に語っている(同日付環境推進課作成文書「岩松発電所再開発計画に係る事前相談について」による。)。
今回、第二種事業であるが、環境推進課がアセス必要との判断をくだしたのは、「第二種事業に係る判定基準」(平成11年1月25日北海道告示第126号)の「野生生物の重要な生息地」に基づくものであると理解できる。
もし、この私見を猛禽類専門家が自発的に北電に提示したのであれば、猛禽類専門家としての守備範囲を超える行政手続きについて、北海道が定めた基準を無視ないし軽視するよう北電に求めたことになる。北海道の基準などを遵守できない猛禽類専門家に条例に基づく環境影響評価について、アドバイスを求めるべきではない。
もし、猛禽類専門家が北電の求めに応じてこのような私見を出したのであれば、北電の見識が厳しく問われる。北電が当初意図していた自主アセスを実現するため、猛禽類専門家の「権威」をかざしながら行政の担当者に迫ったと解されるからである。このことについて北電はきちんと説明しなければならない。
付記 本ブログでは、開示文書の黒塗り部分を******に変換している。
今後は北海道知事から諮問された北海道環境影響評価審議会が当会などの意見書も踏まえ、北電の環境影響評価準備書を審議していくことになる。審議会は小委員会委員を設置し、第1回の委員会が11月15日に開催されるという。なお、小委員会の委員は、帰山雅秀、池田 透、岡村俊邦、早矢仕有子、吉田国吉の各氏。慎重な審議を期待したい。
**********
北電の見解書には説明不足、論点のすり替え、北海道の「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」の無視などの問題があることから意見書を提出する。
本論に入る前に改善すべき点を指摘しておく。「準備書」は縦覧期間しかインターネットで公開されておらず、コピーもプリントもできない仕様になっている。このため意見を書く際に確認することができない。なぜ「準備書」を非公開にしてしまうのか理解しがたい。環境保全が本当に大事であると考えるのであれば、方法書、準備書、評価書などはいつでも閲覧できるようにしておくべきである。
1.虚偽記載について
当会が「北電が配慮すべき希少動植物の存在を知りながら野生生物への配慮を記載しなかったのは否定しようのない事実である。『既存資料(方法書の段階)では、対象事業による野生生物への影響を確認することができなかったため』と『配慮』を『影響』にすり替えての言い訳は、見苦しい限りである。包み隠さず事実関係を明らかにし、道民に謝罪すべきである。」と指摘したのに対し、北電は「今回、新岩松発電所新設工事を実施する区域(対象事業実施区域)及びその周辺に、どの程度、生息・生育するかまでの詳細な記載はなかったため、工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮 (6)動植物』は記載しておりません。」と「配慮」を「影響」にすり替える言い訳を繰り返した。
この言い訳が成り立たないことをまず明らかにする。
北海道には、事業者が環境影響評価を実施するに当たって、方法書、準備書等の記載事項について定めるとともに、事業者が調査、予測及び評価の手法等環境影響評価を行う上で必要な技術的事項を選定するに当たり考慮すべき標準的事項を定めた「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」(以下、「指針」)と、この指針に解説を付した「環境影響評価技術指針の解説」(以下、「指針の解説」)がある。
方法書について指針の「(1) 事業計画の立案」には次のように書かれている。
ア 事業計画を立案する段階から、環境保全に関する法令の遵守はもちろん、道等が定めた環境保全に係る各種の指針等の趣旨を踏まえ事業者が自ら環境に配慮することは、環境保全を図る上で、極めて重要である。事業計画の立案に当たり考慮すべき道が定めた環境保全に係る各種の指針等は、次のとおりである。(略)
イ アの趣旨を踏まえ、方法書の事業計画の概要には、事業者の環境保全に対する基本的な考え方及び①事業計画の立案に際して行った環境への配慮を含めて記載すること。
そして、指針の解説には「本指針では、事業計画の内容決定に柔軟性を有している早い段階から環境配慮が適切に行われるように、事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載することとしたものである。」と書かれている。
つまり、指針は「事業計画の立案に際して行った環境への配慮事項を方法書に記載する」ことを求めているのであって、具体的な影響を予測することなど求めていないのである。したがって、「工事実施による重要な動植物種への具体的な影響を予測することはできなかったことから、『事業計画立案に際して行なった環境への配慮 (6)動植物』は記載しておりません。」との北電の言い訳は成り立たない。
また北電は、現地調査を行わなかったが、既存文献で重要な動植物種が生息することは知っていた。しかし詳細な記載がなかったためこの動植物種への影響を予測できなかった、との論理を展開しているが、このような論理が成り立たないことは、指針および指針の解説を読めば明らかである。
指針の「第3-2 方法書 (2) 地域特性」の把握には次のように書かれている。
ア 環境影響評価の項目や調査等の手法の選定に当たっては、その選定を行うために必要な範囲内で、次に掲げる地域特性(事業実施区域及びその周辺地域の自然的状況及び社会的状況)を把握するものとする。
イ 地域特性の把握は、④既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行うこと。なお、⑤現況の情報のみならず、過去の状況の推移及び将来の状況も把握すること。
そして指針の解説には次のように書かれている。
④「既存資料の整理又は解析を基本とし、必要に応じて現地調査により行う」地域特性の把握については、一般に入手可能な最新の文献、資料等を中心に、環境影響評価の項目等の選定に必要な情報を広く収集する。なお、採用した文献等については、その出典を明らかにする必要がある。(第3-7の(1)参照)また、文献等による調査では必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等からの聴取等により補足する必要がある。
つまり、北海道は事業者に対し詳細が分からず必要な情報が得られない場合は、現地踏査や専門家等から聞取りをすることを求めているのであり、現地調査を行わなかったから、詳細が分からないというのは理由にならないのである。
このように北電の見解書は、指針を無視して手続きを進めてきたことを自ら証言しているのである。
当会は、前述のように準備書への意見で、2011年の環境推進課の文書に基づき北電の見解が虚偽であることを指摘したが、その後入手した道の開示文書から北電の見解書がいかに欺瞞に満ちたものであるかを明らかにする。
2010(平成22)年11月12日に、北海道環境推進課によって作成された文書「岩松発電所再開発計画に係る事業者説明において」によれば、同日、北電は環境推進課と今回の事業に関し事前相談を行っている。この席で北電が「第二種事業判定においてはいずれも該当無し(つまりアセス不要となる)と判断している」と主張したのに対し、環境推進課は以下のように指導している。
(2)******について
******や******から聞き取りを行ったところ、当該地域には******が存在する蓋然性が高いという話であったことから、当方としては、第二種事業届出書の提出があった場合、「アセスを要する」と判断することになろうかと思う。
事業者として、既存文献には現れない当該種の情報収集や、アセス書を提出する場合に当該種の情報をどのように扱うべきか等について、上記2名などの専門家に聞き取りを行ったほうがよいのでは。
つづいて2010(平成22)年11月26日に事前相談が行われ、北電は以下のように説明した(同日付環境推進課作成文書「岩松発電所再開発計画に係る事前相談について」による)。
①(近くで開発局がおこなっている、かんがい排水事業の自主アセスにならって)自主アセスを実施することで環境配慮の責任を果たすこととしたい。
②******の専門家である、************に助言をいただいた。開発の規模からも自主アセスを実施することでも、環境の保全は担保されるのではないか、との私見をいただいた。
③******の情報の取り扱いについては慎重を期する必要があるが、アセスを実施することにより情報を流布させてしまう危険性がある。
④実際にアセスを実施するとして、******の情報を一切出さないとなると評価書の記載はどのようにすればいいのか苦慮する。
⑤略
⑥***については生息の情報はない。屈足湖の発電ではJ-POWERが調査を実施しているが、生息魚類はウグイとニジマスぐらいだった。
これに対し、環境推進課は以下のように指摘した。
①条例によるアセスでは住民とのコミュニケーション手続きがある。自主アセスではそれが規定されておらず、内容には大きな差がある。条例対象規模(第2種)であるから、適正な手続きを踏むということであれば条例によるべきであろう。
②希少種(******)の情報が外に漏れるおそれがあるからアセスをしないというのは理由にならない。
③事業者が自主アセスを実施することにより、スクリーニングで条例のアセス手続きを不要にするということはありえない。仮に自主アセスをやるとした場合、その実施の意味は、環境への影響のおそれを事業者自らが判断したからであろう。であれば、事業者がそのような判断を下すような事業について、道がスクリーニングでアセス不要という結果を下すことはないのではないか。
④略
⑤非公式情報であるが、***が生息するという情報がある。注意してもらいたい。
(当会注:黒塗りは開示にさいして北海道が行なったもので、黒塗りの生物種はシマフクロウとイトウである。)
北海道の指導により、北電は、「会社内部の整理上の問題もあるので、第2種事業届出(別添案のとおり)をし、道の判断を仰ぎ、しかるべき対応をとることとしたい。」と、当初固執していた「自主アセス」の方針を変更することになったのである。
このように北海道は、希少動物への影響を懸念して、条例に基づく環境影響評価を行うことを求めたにもかかわらず、また事前相談の主要なテーマが希少種シマフクロウのことであったにもかかわらず、北電は動植物への配慮を方法書に記載しなかったのである。
以上の指摘を真摯に受け止め、北電は道民を誤魔化すことなく、動植物への配慮を方法書に記載しなかった本当の理由をきちんと説明しなければならない。
3.シマフクロウ調査の瑕疵について
「調査対象範囲でシマフクロウを確認できなかった北電の調査には重大な瑕疵があったということである。社会の信頼を得られるきちんとした調査で現状を把握せずに環境影響評価を行うのは論外である。シマフクロウの調査をやりなおすべきである。」との当会の意見に対し、北電は「希少猛禽類の調査は、定点調査により調査対象範囲(対象事業実施区域の周囲約500mまでの範囲)及びその周辺における生息状況を把握し、この生息状況をもとに現地踏査を実施して営巣地の有無を把握しています。これら調査結果から、希少猛禽類は十分な影響評価が可能であると考えています。(略)特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため生息情報と影響予測・評価は、別冊版に取り纏め、北海道の審査を受けることになっています。なお、説明会における、生態系の「上位性」の注目種にシマフクロウを選定しなかった理由につきましては、当社は「対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息は確認されていないことから選定していない」としています。」との見解を明らかにした。
発電に使われた水が流れ下る岩松発電所の放水路は、発電を停止すると水位が下がり、プール状となる。そうするとこの溜りに多くの魚類がとり残され、シマフクロウが採食に訪れことが知られている。ここが対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)であることはいうまでもない。北電が対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)でどのような調査をしてシマフクロウを確認できなかったのか、非公開のためわからないのだが、対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)でシマフクロウを確認できなかった北電の調査には重大な瑕疵があったということである。社会の信頼を得られるきちんとした調査で現状を把握せずに環境影響評価を行うのは論外であり、シマフクロウの調査をやりなおすべきである。
4.肝心な情報の非公開について
今回の環境影響評価の最大のポイントは、シマフクロウの繁殖あるいは生息に対する建設工事の影響であるから、肝心なことがいっさい非公開というのは、この制度を形骸化させるものである。シマフクロウへの影響がどのように評価されているか、道民が意見を述べられるようにすべきである、との当会の意見に対し、北電は、知事意見を盾に「特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため生息情報と影響予測・評価は、別冊版に取り纏め、北海道の審査を受けることになっています。」とし、「シマフクロウへの影響がどのように評価されているか、道民が意見を述べられるようにすべきである」との意見に答えようとしない。
これは道民の意見は聞かず、一部の者にすべてを委ねて秘密裏に処理するという姿勢である。国民・道民の財産である希少動物の保護に関し、道民の意見を聞く必要は一切ないと理解できるが、この点についてきちんとした説明をするべきである。
5.要約書の欠陥について
当会が「要約書の『環境影響評価の結果』には本事業で最も影響が懸念されるシマフクロウについて一切書かれていない。これでは事業予定地一帯がシマフクロウの生息地であることを無視ないし否定しているようなものである。アセスメントの要約書として欠陥がある」と指摘したのに対し、北電は、知事意見を根拠に、「特にシマフクロウについては、準備書の記載に際して、専門家及び北海道の指導・助言から、生息情報は非公開としております。このため要約書におきましても、準備書でシマフクロウの調査範囲や生息情報等を非公開としていることに配慮したものです。」との見解を述べている。
しかし、準備書には、現地調査結果および予測対象種としてシマフクロウが記載されているし、1で述べたように、シマフクロウの生息地であるがゆえに条例に基づく手続きを行なったのである。したがって要約書にシマフクロウの種名を記載しないのは一貫性のない扱いであるうえ、重要な種の存在を隠蔽することに通じる。要約書にシマフクロウの種名を記載しなかった理由を明らかにしなければならない。
6.選択肢の追加について
シマフクロウという希少猛禽類への影響が懸念される以上、既存の規模のまま水車や発電機を新しいものに交換するという選択肢が検討されてしかるべきである。これを選択肢に加えて再度環境影響評価を行うべきである。との当会の意見に対し、北電は、「新岩松発電所新設計画策定にあたっては、河川の流量や発電機の効率などから想定される可能発電電力量を算出した上で発電所の経済性を評価しています」と経済性を優先した計画策定であるとの見解を明らかにした。
経済性を優先して取水量を増やせば、河川の流量が大きく変動することになり河川生態系、とりわけフクドジョウ・イトウなどの絶滅危惧種に悪影響を生じさせることを指摘しておく。事業費からも、環境への影響からも現在の発電規模を変えずに老朽化した部分だけを交換することが最善であることは言うまでもない。このような選択肢をはじめから用意しない計画策定は「はじめに事業ありき」であり、環境影響評価条例の趣旨に反する。このような経済性優先の計画策定であるから、動植物への配慮を方法書に記載できなかったといわれても仕方がない。
7.類似工事の前例について
「シマフクロウの営巣地あるいは採餌場の近くでこのような発破を伴う大規模な工事によって、ストレスなどの影響を与えなかったと断定できるデータが得られているのか明らかにすべきである。」との当会の意見に対し、北電は、「シマフクロウの繁殖を阻害せず実施した事例はあります。」とこたえたものの、発破を伴う大規模な工事によって、ストレスなどの影響を与えなかったと断定できるデータについては答えていない。すなわち、ストレスを与えないとは言えないということである。
8.上位性の種の選定について
北電は、今回の見解書で「生態系の『上位性』の注目種にシマフクロウを選定しなかった理由につきましては、当社は『対象事業実施区域(新岩松発電所新設工事を実施する区域)ではシマフクロウの生息は確認されていないことから選定していない』としています。」と述べている。
つまり、北電は、生態系の対象範囲が対象事業実施区域に限定されるという見解を持ち出してきた。しかし指針の解説では、「生態系の保全」について「概況調査の結果から、事業実施区域及びその周辺において生物の生息(育)がほとんど認められないことが明らかな場合を除き、原則として環境影響評価の対象項目とする。」(p133)とし、生態系の対象範囲を対象事業実施区域とその周辺と定義しているのである。
また、平成23年11月17日付で北海道知事が出した「新岩松発電所新設工事環境影響評価方法書に対する環境保全の見地からの意見について」では以下のように述べられている。
(2)当該事業の実施により発電所放流口の移設や取水量が増加するなど、河川生態系への影響が懸念される。当該事業実施区域およびその周辺には採餌を河川に依存する希少種が生息する可能性があることから、当該事業の実施が要因となる河川生態系の変化が本地域の生態系上位種に与える影響について、準備書において予測・評価することが必要である。よって、「生態系」についても評価項目として選定し、食物網図を用いるなどして種間関係を構造的に把握すること。
知事は、事業実施区域及びその周辺には採餌を河川に依存する希少種が生息する可能性があるから、本地域の生態系上位種に与える影響について注意を喚起しているのである。生態系の対象範囲が対象事業実施区域に限定されるという北電の見解は、知事意見を無視するものである。なおここでいう「河川に依存する希少種」にシマフクロウが含まれることはいうまでもない。したがってシマフクロウを「上位性」の注目種に選定しなかった理由を北電はきちんと説明しなければならない。
9.工事計画等の調整で対処することについて
「準備書に記載した『重要な行動』とは、希少猛禽類の『繁殖に係る行動』を示しています」とのことだが、繁殖への影響しか考慮しないのは不十分である。工事による影響で他の場所に移動してしまう可能性などはなぜ考慮しないのか。また、岩松地区は環境省がシマフクロウの保護増殖事業(給餌や巣箱かけ)を行っているところである。たとえシマフウロウが1羽だけで繁殖できない状態の場合でも、あるいは姿を消したということがあったとしても、他の地域から分散してくる個体が定着して繁殖できる場所である。シマフクロウにストレスを与え定着に影響を及ぼす可能性のある事業は、繁殖しているか否かに関わらず回避しなければならない。繁殖を阻害しなければいいという判断は誰によるものなのか、明らかにしていただきたい。
「もし、調査対象範囲及びその近傍で繁殖が確認された場合には…」とのことだが、3で指摘したように放水路でシマフクロウを確認できない調査は信用に足るものではない。しかも、調査自体がシマフクロウに悪影響を与えないように慎重に行わなければならないのである。繁殖しているか、あるいは繁殖に影響を及ぼしているか否かを常に確認しなければならないようなところで事業を行うこと自体が問題といわなければならない。
「調査対象範囲及びその近傍」での繁殖への影響しか考えていないのは驚くべきことである。行動圏の広い猛禽類への影響の範囲を500m程度とする根拠を示していただきたい。ちなみに、世界ラリー選手権において主催者である毎日新聞は、コース選定にあたってシマフクロウの繁殖地から5km以内の場所を避けるとしていた。なお、事業者はもちろん知っているはずだが、シマフクロウの重要な採餌場が図に示された調査対象範囲内にある。また繁殖地は本事業の実施場所の5キロよりはるかに近いところにあることを指摘しておく。
10.猛禽類に与えるストレスについて
9の意見で述べたように、猛禽類への影響を考慮する範囲を500m程度とする根拠を明らかにすべきである。
当会は騒音、振動、人や自動車の往来、環境の変化がストレスを与えると指摘しているのであり、繁殖への影響だけを問題視しているわけではない。繁殖さえ成功すれば、希少動物にストレスを与えてもよいという考えなのか。
事業対象地一帯はシマフクロウの生息地となっており、日中にシマフクロウが事業対象地の近くにいる可能性もあることを指摘しておく。
12.重要な種の影響予測について
ここで指摘しているのは「ほかにも生育(生息)環境があるから大丈夫」との論法では、どんなに貴重な環境でも破壊できることになり、アセスの意味がないということである。しかし、見解は相変わらず「ほかにも生育(生息)環境があるから影響が少ない」という内容で、意見に対応する見解となっていない。
今日までに人類は大変な自然破壊を行い、多くの種を絶滅に追い込んできた。そのような反省から生物多様性の保全が求められ、環境影響評価が行われるのである。意見6で述べた選択肢があれば新たな環境破壊は防げるにも関わらず、「ほかにも生育(生息)環境があるから影響が少ない」との論法を主張するのは欺瞞である。
13.騒音の予測・評価を行った地点について
近傍民家の位置を示していただきたい。
たった500m程度の距離しか考慮せず、営巣地が確認されていないから影響が小さい、などという主張はすべきでない。繰り返すが、事業実施区域の含む周辺一帯はシマフクロウの行動圏の範囲内である。
なお、騒音および振動の環境保全措置として「建設機械の稼働時間は原則として夜間を避け…」としているが、シマフクロウの活動時間は日長によって左右され、日長の短い秋や冬は夕方から活動時間となる。「原則として夜間を避け」などという曖昧な保全措置は不適切である。
14.騒音の数値について
「準備書」がホームページより削除され数値が確認できないが、既設発電所の撤去作業での騒音予測値(L5)が74dBで環境基準値の70dB以上であるなら要約書にもその数値を記載すべきである。
15.専門家の氏名の公表について
当会の「指導内容に責任をもたせるため、専門家の氏名を明らかにすべきである。」との意見に対し、北電は、「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」では「専門分野を明らかにすること」とされているが、氏名までは明らかにすることになってないし、環境省も「助言した専門家個人が特定された場合、多くの意見が個人に集中し対応不能となるといった事態も想定されるため、過去の判例も考慮し、これら情報によって専門家個人が特定されることのないよう配慮が必要である」(「環境影響評価法に基づく基本的事項等に関する技術検討委員会報告書」平成24 年3 月)としているから、非公開とするとの見解を明らかにした。
希少動物であるシマフクロウの情報自体が非公開であり、シマフクロウへの影響が専門家の判断に任されるのであれば、本事業のアセスにおいて最も重要な種に対する影響の判断は秘密裏に行われることになる。つまり情報を入手し判断を委ねられる専門家は大きな責任を負っているのである。本人に氏名公表の可否を確認したうえで、了解を得られた人物については氏名を公表すべきである。「環境影響評価に関する技術的方法等の一般的指針」では氏名を明らかにせよとしていないが、氏名を明らかにしてはならないともしていない。氏名を公表できないような専門家のアドバイスは社会の評価に耐えられないことも肝に銘じなければならない。
さきごろ原子力規制委員会は、大飯原発の活断層調査に携わる専門家の選出に当たって、関連学術団体に推薦を要請し、そのなかから今まで原発の安全審査に携わらなかった専門家を調査委員に選定した。これは専門家による評価の透明性、信頼性を高めるためにおこなわれたものである。北電もこれにならって依頼した猛禽類専門家の氏名を公表すべきである。そうすれば過去に開発事業で猛禽類保護についてどのようなアドバイスした人物か知ることができるから、環境影響評価が適切におこなわれているか、道民が一定の判断をくだせるようになる。
「過去の判例」にふれているが、これは辺野古基地建設の地質調査・海象調査などに係る専門家の氏名開示請求をめぐる判例と保護司名簿に記載された保護司の氏名の開示をめぐる判例のことである。シマフクロウに関するあらゆる情報が非公開になっている今回のケースと同列に扱うべきではない。専門家の名前を公表することで多くの意見が個人に集中し対応不能になるといった事態が想定されるというが、たとえ多くの意見が寄せられても個人個人に回答をする必要はなく、まとめて見解を公表すればいいことである。
最後に専門家のアドバイスに関して言っておかなければならないことがある。
前述のように、2010(平成22)年11月26日に事前相談が行われた際、北電は「******の専門家である、************に助言をいただいた。開発の規模からも自主アセスを実施することでも、環境の保全は担保されるのではないか、との私見をいただいた。」と環境推進課に語っている(同日付環境推進課作成文書「岩松発電所再開発計画に係る事前相談について」による。)。
今回、第二種事業であるが、環境推進課がアセス必要との判断をくだしたのは、「第二種事業に係る判定基準」(平成11年1月25日北海道告示第126号)の「野生生物の重要な生息地」に基づくものであると理解できる。
もし、この私見を猛禽類専門家が自発的に北電に提示したのであれば、猛禽類専門家としての守備範囲を超える行政手続きについて、北海道が定めた基準を無視ないし軽視するよう北電に求めたことになる。北海道の基準などを遵守できない猛禽類専門家に条例に基づく環境影響評価について、アドバイスを求めるべきではない。
もし、猛禽類専門家が北電の求めに応じてこのような私見を出したのであれば、北電の見識が厳しく問われる。北電が当初意図していた自主アセスを実現するため、猛禽類専門家の「権威」をかざしながら行政の担当者に迫ったと解されるからである。このことについて北電はきちんと説明しなければならない。
以上
付記 本ブログでは、開示文書の黒塗り部分を******に変換している。